第40話 野盗
「……最近の若い子ってなんなの……草食系……?」
あれから2日。
モンスター探しが空振りに終わった俺は妙に不機嫌なニアとともに下山していた。
山中をそれなりに捜索したものの、出てきたのはアンデッドとは程遠い奴らばかりだった。ぶっ飛ばして良い感じの魔核をゲットしているので無意味ではなかったが、本来の目的だったアンデッド・モンスターは影も形も見当たらなかった。
「アンデッド系だと普通は自分の縄張りに留まるものなんですけどねぇ」
アンデッド・モンスターは残留思念が染みついた土地に居ついてそのまま暴れまわるのが一般的だ。
だからこそ討伐依頼を出さずとも周辺の人間が何とかすることが多いのだが、今回はそれには当てはまらなかったようだ。
「2日間も一緒にすごしたのに何の進展もありませんでしたし!」
「……? 一応、他のモンスターは倒したぞ?」
「そうですね! 水浴びまでしたのに!」
「……?」
調査という目的は果たしたはずなのにぷりぷりしているニアとともに麓まで戻る。
やっぱり女性は温かいシャワーとかの方が良かったのか?
けっこうノリノリで川に突撃してた気がするんだけど……難しすぎる。
「とりあえず食べさせるか」
戦利品の魔核をまとめて砕くと、ポーチに入っていた
「お。さすがに高ランクの魔核は良いね」
「はぁ……これで同僚の皆から馬鹿にされることもないと思ったのに……!」
嬉しそうにぷるぷると震えるスラぼうをつつき、未だC級のラビの頭を撫でてやる。
『ダンジョン工事団』の皆を襲ったモンスターはガーゴイル。硬さが特徴のモンスターなので斬撃系のラビよりも毒や酸を使えるスラぼうの方が相性が良いだろう。
そう考えて魔核はスラぼう優先していた。かなり食わせているのでそろそろ進化してほしいところだ。ガーゴイルを一瞬で溶かせるような強酸とかに進化してくれれば万々歳なんだが、進化先は俺には選べないからな……。
もちろん、俺が滅茶苦茶強くなって、ラビでもガーゴイルを圧倒できるだけの力を手に入れられれば一番良いんだが。
「ごめんな。もっと魔核を稼げれば良いんだけど」
「きゅううっ」
気にするなよ、という風にぽんと前脚で肩を叩かれたので、もう一度ぐしぐし撫でた。スラぼうをAランクに引き上げたら次はラビだ。
待っててくれよな。
「さて。俺はそろそろ行くぞ。廃砦の野盗どもの討伐をしながら帰る予定なんだ」
「わ、私も行きます! 延長戦ですね!?」
「……何が?」
「こっちの話です。頑張りますよー!」
急にやる気を出したニアに半ば引きずられるようにして廃砦へと向かった。
情緒不安定すぎじゃないか……?
***
「お待たせしましたー。待ちました?」
「いや、そんなことはないが……大丈夫だったか?」
夜。真っ暗な森の中で待っていた俺の元に、ニアが駆け寄ってきた。
なぜか嬉しそうにしているが、情緒不安定っぽいのであまり気にしないことにしておく。
「偵察くらいお手の物ですよー」
ニアは廃砦外縁の見張りをささっと説明してくれた。
やはり夜は見張りの数も少ないか。不意打ちで沈めていけば、リスクなしに大打撃を与えられそうである。
「ありがとうな」
「いえいえ! 夢にまで見たシチュNo.14『全然待ってないよ』もクリアできましたし! むしろありがとうございますー!」
何にお礼を言われてるのかイマイチ分からないが、とにかく出発だ。
「行くぞ。スラぼう――
毒を使ってもらう予定なのでニアには口元をハンカチで覆ってもらう。戦闘には参加させないつもりなので荷物持ちも兼ねて俺の外套を預けた。
「シチュNo.2――『彼シャツは
「いや、ハンカチ渡したじゃん……なんで俺の外套で口元を……?」
「あっ、いやこれはですね……そ、そう! 厚みがある方が防毒効果が高いんですよ!」
「あー……それはそうか」
毒を使うのは俺なのであまり強くも言えない。
諦めて教わった見張りをぶちのめしに行くことにした。
……いやまぁ派手にやるとバレるからこっそりだけども。
「いくぞスラぼう」
ごぼっ、と生成されたのは毒液だ。スラぼうが出せる中では一番強い麻痺系の毒を拳に纏わせ、相手の顔目掛けて発射する。
「ガッ!?」
「ぶぅっ!?」
混乱する間もなく毒液を顔に食らい、見張りが倒れる。
目や口などの粘膜から直接毒を摂取したおかげか、すでに痺れてまともに動けていない。
なんとか口を動かそうともがいていたところにラビが跳ねてきて首を切り裂いた。
野盗は捕まれば迷宮攻略用の肉壁か縛り首だ。
相手も死に物狂いで抵抗してくるので、トドメを刺さなければこちらがやられるのだ。
最初は抵抗があったが、見逃そうとしてわき腹を刺されたあとは吹っ切ることにした。
「手際良いですねー」
「……ついてきたのか?」
「ええ、もちろんです」
「危なくなったらすぐ逃げろよ」
「……ふふっ、かしこまりましたー」
はにかみながら敬礼をするニアを引き連れて砦内部に侵入する。廃棄されてから時間が経っているのか、あちこちが崩れてまともに使える場所は少なそうだ。
「この分ならねぐらもすぐ見つかるだろ――」
あちこちを探るように見ながら進み、思わず息が止まった。
暗がりの中にベッカーがいた。
否、あったというべきだろう。
胴体は存在せず、石材の上にあかんべぇをしたベッカーの首が置かれていた。
目を凝らせば、その後ろにはセルジオたちの首も並べられていた。
俺と別れた後、野盗に襲われたのだろう。
恐怖に目を見開いたまま並べられた首は、異世界の縮図そのものだった。モンスターが徘徊し、ジョブなんてものが生活の根幹にあるこの世界では暴力がまかり通ってしまう。
弱ければ負ける。
シンプルで絶対的なルールだ。
「オイ、てめぇら見張りサボってんじゃ……誰だ。ウチのもんじゃねぇな」
砦の一角から現れたのはごつい体格の男だった。その左右には胸をはだけたリファとジータがしなだれかかっていた。
「ぼ、ボルコス様! あいつは召喚士よ!」
「ほぉ? まさか俺たちの討伐依頼でも受けたのか? このガキが?」
「油断しないで! アイツはC級モンスターを二体も連れてるわ!」
余計なことを口走る二人に怒りが湧き上がってくる。ベッカーが死んでいるのに仮にも前衛のはずの二人が生き残ってるってことは、裏切ったか見捨てたか。
ボルコスという男に媚びを売っているならば前者だろう。
怒鳴りつけてベッカーの首の前で土下座させてやろうと思ったが、何をしても意味はない。ベッカーはただの死体だ。
そう思うとすべての言葉が無意味に思えた。
代わりにたった一言、シンプルな言葉が口をついて出た。
「――死ね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます