第39話 調査員……?
セルジオ達と別れてから一日半。
モンスターを蹴散らしながら進んだため時間がかかってしまったが、ようやく山のふもとまでたどり着いた。
「……野営するか」
このまま目的のアンデッド・モンスターに会いに行きたい気持ちはあるが、土地勘もない状態で夜の山に登るのは難しいだろう。
見つかるまでどのくらい掛かるかも分からないのできちんと休息を取るために、野営準備を始めた。
拓けた土地を探してスラぼうとラビを召喚。落ち葉や枯れ枝を採集して焚火用に組み上げると、腰に提げたポーチの一つから着火用の魔道具を取り出して火をつけた。
食料調達はラビに任せてしばらくはスラぼうと火の番だ。
……スラぼうに頼むと有毒・無毒関係なく適当に取ってくるのでちゃんと確認しないと地獄を見るのだ。
ぱちぱちと爆ぜる焚火を見つめながらぼぅっとしてると、不意に草むらが揺れた。
ぴょこんと顔を覗かせたのは小学生くらいの見た目の女の子だった。
「こんなところに人が……?」
いぶかしげな表情で俺を見つめる幼女だが、どちらかと言えばそれはおれの台詞である。
身長は130センチくらい。
装飾付きのピンで留められた栗色の髪は、肩口で切り揃えられていた。幼さが顔立ちは端正で、大人になったらさぞかし美人になるだろう。
それだけみると普通に小学生なんだが、目を惹くのは胸だ。
旅装のローブからでも分かるくらいに膨らんだそこは、グラビアアイドルも真っ青なサイズに見えた。
「えっと……召喚士の方ですか?」
「……そうだ。あー……お父さんかお母さんはどこだい?」
「私、子供じゃないですよ! 召喚士ギルドの職員をしてます!」
「なるほど、そういう設定か。一緒に遊んでた子とかはいるのか?」
「し、信じてないですね!? おにーさんはいくつですか!?」
「16だな」
「わ、私の方が年上ですからね! こう見えても18歳ですよ!?」
「あーうんうん。そうだな。それで、ご両親とか保護者は?」
「もー! 絶対に信じてないですよね!? 私の方がおねーさんなんですから敬意を払ってください!」
ぷんすこしながらも幼女は俺のちょっと横に座り、焚火に当たり始める。
……困った。
ちびっ子の世話を焼いている場合じゃないが、さすがにこんな人里離れたところで夜の森に放り出すのは可哀想すぎる。
これがベッカーの取り巻きとかなら
「……とりあえずここは危ない。家の方角は分かるか?」
「仕事で来てるんです! ほら、コレ!」
幼女は頬を膨らませながらも一枚の羊皮紙を取り出した。
そこに記述されているのは、
「召喚士ギルドの派遣調査員……?」
俺が出発したのとは違う街のギルドの物だった。
ニア・シードルと書かれたのが幼女の名前だろう。
一緒に提示されたのは間違いなくギルド職員しか持っていないはずの腕章である。
ごっこ遊びにしては気合が入りすぎなそれを返すと、幼女はここぞとばかりにドヤる。
「どーですか! わかりましたか? 私はれっきとしたギルドの職員なんです! ここにだってアンデッド・モンスターの調査で来てるんですからね!」
「そりゃ済まなかった……って、アンデッド・モンスター?」
「ですです」
「俺は麓にいるはずのアンデッド・モンスターの討伐依頼を受けて来たんだが」
「ランクとお名前を聞いてもいーですか?」
「アキラ。Cランクだ」
ニアはそれを聞くと良い笑顔になってこくこく頷く。
「そーですか。年下ですしアキラくんって呼びますね。年下ですし!」
「……悪かったよ」
「私は
なるほど……美形ぞろいで成長が遅い
「それで、アンデッド・モンスターの調査って?」
「はい。討伐依頼が出ていたモンスターなんですけど、討伐に向かった人達から『見当たらない』『いない』というクレームが相次いでいまして」
「……マジ?」
「マジマジのマジです」
ということは俺がここに来たのも無駄足になる可能性が高い訳だ。
……クソ。時間がないってのにコレかよ。
「実際にいないとも限らないので、確認に来た次第です」
「確認って……大丈夫なのか? 召喚士じゃないだろ?」
「あれー? おねーさんの魅力に参っちゃいましたー? でもご心配なく。これでも
斥候ならばモンスターを探知したり身を隠したりするスキルがある。調査が目的ならばうってつけだろう。
「むふふふ~。おねーさんのことが心配になっちゃいました? ついて来ます?」
何を勘違いしているのかニヤニヤしながら俺に流し目を送るニア。ムカつくが、いないと言われたからといって、ハイそうですか、と終わるわけにもいかない。
探知に優れたニアがいれば、本当にいないのか、それともたまたま出会えなかったのかがハッキリするだろうし。
「……ついていくか」
「エッ!? ほ、ホントにですか!? もしかして小さい子が好――」
「アンデッド・モンスターを探知できるんだろう? それについてくだけだ」
「はいっ! お任せあれ!」
宣言したところでラビが戻ってきた。口にはラビよりも大きな小鹿を咥えていた。
どうやら結構奮闘してくれたらしい。
「ありがとうな、ラビ」
きゅいっと鳴くラビの頭を撫で、解体を始める。異世界に来てすぐの頃は解体なんてまったくできなかったし、皮を剥ぐだけで何度吐いたことか。
今となっては内臓を抜いたり頭を落とすのも気にならなくなったが、当時はキツかったなぁ。
内臓関係は穴を掘って埋めるのが一般的だが、俺にはスラぼうがいるので薄く広がらせて全部受け止めてもらう。血液も含めて要らない部分をじゅわっと溶かしていく姿は壮観だ。
……骨とか浮いてるとグロいけど。
「初めてのデートは年下くんですか。ちょっと素直じゃない感じですけどこの歳でC級なんて将来有望ですねぇ……おねーさんがんばっちゃいますよー!」
ランクがあがって炭酸みたいに景気よく泡があがるのを眺めていると、うしろでニアが騒いでいた。
一応は女性だったし刺激が強かったか、と様子を窺うと、妙に上機嫌だった。
「夕飯、食べるか?」
「ディナーのお誘い!? ぜひっ!」
食べ物に目を輝かせる姿はどう見ても小学生だった。
ドヤるのがちょっとウザいが、悪い子じゃないんだよな。
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