第36話 強い召喚獣を探して
※アキラが異世界にいっていた二年間の間のエピソードです※
「アキラ・シンドー……聞かない名前だな。ランクはC?」
「旅をしててな。この辺じゃほとんど活動してない」
とある街の召喚士ギルド。俺は強面のギルドマスターと面談をしていた。
ランクにもよるが召喚士は基本的に強い。
召喚士同士が揉めて刃傷沙汰にでもなれば周囲を巻き込むこともあって、新しい街に入る度にギルドマスターの面談が入るのだ。
そこでだいたいの序列を決めたり、どのくらい強い奴なのかを周知して揉め事を防ぐわけである。
ちなみに序列ははっきりとは言われない。ただ、ギルドがどちらを優先したり優遇したりするかを決めるだけだ。
プライド高い奴が多いし、面と向かって伝えたらそれ自体が揉め事の種になるからな。
「契約してる召喚獣の数と、最大同時召喚数は?」
「今のところはどっちも2体だが、まだ余裕はあるはずだ。契約できそうなモンスターを探して旅をしてるんだよ」
「ふぅむ。買ったりはしないのか?」
「魔核も限りがあるし、今の二体ももっと育てたいからな。一から育ててる暇がない……そもそも売ってないだろ」
「そりゃそうだ! よし、それじゃあ二体を見せてくれ」
ギルマスの言葉に従い、召喚獣を呼び出す。
「ポイズン・スライムにブレード・ラビットか。その若さでC級を二体とは、すげぇな……」
「ありがとう」
「よし分かった。お前さんにはある程度便宜を図ってやる。もちろん、街に居ついてくれるってんなら好待遇を用意するが、どうせ旅は終わらんだろう?」
「ああ」
俺の言葉にギルマスは苦笑する。
C級は中堅以上の実力を持つ。できれば厚遇して街の治安維持や依頼達成に貢献してほしいんだろう。
強い召喚士を抱えていればギルドもそれだけ箔がつくしな。
「未討伐のモンスターや、未解決事件の一覧を用意させとくから、気になったとこを調べてみてくれ」
「助かる」
ギルドに集まる多種多様な依頼の中から、俺が契約できそうなモンスターを探すことになった。
ギルドは依頼が達成できて万歳。俺も契約できるか試せて万歳。
まさにウィンウィンの関係って奴だ。
どこのギルドにもありがちな美人でスタイルの良い受付嬢から書類を貰う。
ちょっと妖艶な感じのお姉さんで、俺を見るなり舌をちろりと出して流し目を送ってきた。
「今夜、暇だったらご飯でもどう?」
「……すまないが、あまり時間がないんだ」
「あら残念。アッチも味見してみようかと思ったのに……気が向いたら声かけてね♡」
服から零れそうなサイズの胸と香り立つような色気に多くの人間がくらっと来るんだろうが、俺にはそんな暇はなかった。
B級モンスターであるガーゴイルを圧倒できるだけの力が必要なのだ。
タイムリミットがどのくらいあるかも分からない以上は女にかまけてる暇なんてなかった。
さらにいえば、俺に召喚士の基礎を叩き込んでくれたブラストさんからの助言もある。
「召喚士はモテる。お前ならきっと入れ食いだが、気を付けろよ。変な病気を貰って早逝する天才ってのも多いんだぜ?」
この世界では
そのせいか、怪我にはかなり強いものの病気には弱い。
風邪くらいならどうにでもなるが、感染症の類は村や街の全滅すら視野に入るレベルの脅威になるのだ。
ブラストさんからは、高級娼店を使うか、まだ若くて経験のなさそうな子を垂らしこめと言われている。そんな暇ねぇよ。
そんなわけで経験豊富そうなお姉さんのお誘いは断り、さっそく一覧を見る。
単純に路銀稼ぎとして優秀な、廃砦をねぐらにしている野盗の殲滅。
街で頻発している行方不明や変死の調査。
街から見える山脈付近を徘徊するアンデッド・モンスターの討伐。
この三つくらいか。
最後の一つが本命だが、どうせ通り道に廃砦があるのでそっちも一緒に受けることにした。
街中の行方不明とか変死事件に関しては諦める。問題が表面化してるのに未解決ってことはある程度大きな組織がいる可能性が高い。
殲滅まで持っていければ実入りは良いだろうが、どれくらいかかるかも分からないし、構成員による暗殺の危険性もある。
「搦め手に弱いのが
スラぼうやラビを召喚すれば多少は警戒してくれるものの、二体とも人間らしい思考とは無縁の存在だ。
単純な暴力ならともかくとして、毒を盛られたりするなんて想像すらしないだろう。スラぼうは食べ物に毒が入ってても気づかず消化するだろうしな。
依頼票を持っていくと、受付のお姉さんがニコニコしながら依頼人を紹介してくれた。
「いやぁ、助かります!」
禿頭の中年男性は商人同士で
「セルジオと申します……いつものルートにモンスターが居ついてしまって困っていたのです。別ルートの行商に出発する時期ですから、途中まで乗せていきましょう」
「頼む」
少しでも時間を節約できるなら何でもよかったのだが。
セルジオの馬車にたどり着いた俺を待っていたのは、両脇に女性を抱えた召喚士だった。
「……おいおい、こんなガキのお守りまでしろって言うんじゃないだろうね?」
男は30前後くらい。さらさらの金髪を肩口で切りそろえた髪型。ところどころに鋲が取り付けられた軍服みたいなファッション。
ヴィジュアル系バンドかぶれのナルシストみたいな見た目だった。
左右に
片方はビキニアーマーとでも言えばいいのか、胸や腰回りを隠しながらも二の腕やわき腹、太ももが露出している意味不明な鎧をまとったポニーテールの女だ。
もう片方は黒のドレス姿だが、胸の下まである切れ込みや、腿の付け根まで伸びたスカート部分のスリットを靴紐みたいにしてはだけないように留めていた。
それぞれ腰には刃物と杖が下がっているのでナルシストの護衛を務める前衛職なんだろうが、なんというか、その……奇抜なファッションセンスだ。
「セルジオ。君の馬車や美しき華を守るのはやぶさかではないが、おしめも取れていないようなガキは遠慮してほしいんだが?」
「ベッカーさん、揉め事は困りますよ。こちらはギルドの依頼を受けてくださった召喚士のアキラさんです」
「召喚士? ランクは? いくら僕らが護衛で討伐に行けないからって最低ランクの駆け出しなんかを雇っても——」
「Cだよ」
ムカつくので宣言すれば、ナルシっぽいベッカーが柳眉を吊り上げた。
「お前みたいなガキが僕と同じランクだと!? 嘘をつくのも大概にしたまえ!」
「信じないなら別に良い。お前に信じてもらうなんて依頼は受けてないからな」
「……貴様……っ!」
「お、お二人ともそこまででお願いします! 高ランクの召喚士に喧嘩なんてされたら、私の馬車は一瞬でなくなっちまいますからね」
セルジオさんが割って入ったので矛を収めたものの、先が思いやられる始まりだった。
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