第24話 G班
ヤイロの話を総合すると、俺の前でヤイロに祈りながら涙を流している奴らはG班の班員らしい。
アーシャが言っていたファンクラブというのはこいつらを中心としたグループらしい。
かといってヤイロがオタサーの姫みたいなムーブをかましていた訳ではなく、トップチームに無理やり付き合わされるのを防ぐために守っているらしい。
まぁ言動についてはコメントしづらいが、根っこは良い奴らなんだろう。
「我らG班、姫の望みなら何でも許可する所存!」
「左様……迷宮に同行するというのであれば我らも……!」
「何ならお主のことも
この言動で班の順位が5位だってんだから世の中分からん。
「申し訳ないが特訓するとこははあまり見せたくない」
「だ、ダメだって……よ?」
「はい! 全力で待機します!」
「ヤイロ姫の”マテ”だぞ! きちんとハウスして後で褒めてもらうぞ!」
「ありがとうございます! ご飯三杯イケます!」
この言動で班の順位が5位だってんだから学園都市っておかしいよな。
何はともあれ許可が下りたのでヤイロに怪我を治してもらいながら三重装填の実践訓練だ。
一応、アーシャにも連絡を入れてみるか、とスマホを開けば不在着信が二件と「すぐ折り返せ」との連絡があった。すべてアーシャからだ。
どうやら異世界に行っていた間に連絡を取ろうとしたらしい。
返信するが既読がつかず、折り返しの電話は「電源が入っていないか電波が届かないところに……」と言われてしまった。
学園都市内で電波が入らないなんてことは基本的にあり得ないので、電源が切れているか特殊な建物の中にいるかだろう。
例えば迷宮とか。
一人で迷宮に潜ることに違和感を覚えたものの、特にできることはないので仕方ない。可能性は低いものの、俺たちも潜れば中でバッタリなんてこともあるかもしれない。
「行くか」
「う、うん……!」
さすがにオーバーキルすぎるモンスターだとイマイチなので、どんどん階段を進む。
「意外と動けるな?」
「きっ、鍛えて、るっ!」
なるほど。戦えるようには見えなかったが、希少なジョブに
「何階層くらいまでなら自分で自分の身を守れる?」
「じゅっ、はち!」
「すげぇな。じゃあイケるとこまでいくぞ!」
潜って間もないとはいえ、俺とアーシャより深いとは思わなかった。
「も、もっと……イケる、よ?」
どうやらG班の奴らは過保護らしく、やや不満そうなヤイロだが、俺自身がそこまで到達できてないので14層で我慢してもらうことにしよう。
***
アーシャ・ヴァレンタインは一人で迷宮内を歩いていた。
その表情は固く暗い。
アキラが外出してすぐに寮の玄関にメモが差し込まれた。
筆跡隠しのためかわざと崩された字で記されていたのは、『お前の秘密を知っている』という文言だった。
暴露されたくなければ指定の場所にこい、という命令とともに迷宮の地図が添えられていた。バツ印が目指すべきポイントだろう。
メモの指している『お前』はアーシャか、アキラか。
アーシャ自身、秘密らしい秘密と言えば同人誌をたしなんでいることくらいだが、アキラに関しては分からない。
だからこそ連絡を取りたかったのだが、メッセージは未読のまま。電話を掛けた者の「電源が入っていないか電波が届かないところに……」と言われてしまった。
(私に隠れて一人で迷宮に入ったの? 誘ってくれればいいじゃない)
班員を失い、単独での攻略になってからの孤独は気づかないうちにアーシャを蝕んでいた。妙なことを口走ったりウザ絡みをしている自覚はあったが、誰かがいるというのは穏やかだった。
(……まぁ、アキラだからってのもあるだろうけど)
毒島が隣にいたら、きっとストレスでピリピリしていただろう。
その毒島は行方知れずになってからすでに結構な日数が経過していた。言い逃れの聞かない違法行為を行って逃げたか、あるいは迷宮で遭難したか。
そうでなければ、
(アキラ……よね)
具体的に何をしたのかまでは分からなかったが、アーシャはかなり真実に近いところまでたどり着いていた。
(毒島が私の近くにいる男に何もしないはずないもの……アキラなら普通に返り討ちよね)
降りかかる火の粉を払っただけだろうか。それとも自分のために毒島を脅してくれたのか。
どちらにせよ、毒島の行方不明には何らかの関与があると思っていた。
(おそらくは脅迫もその関連よね……毒島が復讐しようとしているのか、それともD班の報復?)
考えたところで答えは出ない。
「ハァ……アキラも迷宮にいるはずだし、会えると思うんだけどな」
下の層を目指し続けたため、各階層の地図は不完全だ。それほど範囲が広くないのであれば、行き会う可能性は十分にあると踏んでいた。
(借りが大きすぎるし、私が犯人をとっ捕まえてアキラに突き出しても良いか)
まさかアキラが異世界に行っていたとは思わず、自分よりもアキラの方が先行していると思い込んでしまったアーシャ。
彼女は大剣を携えて一人、深層へと歩みを進めた。
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