第23話 斑鳩ヤイロ

 異世界についてすぐに召喚士ギルドに向かうと依頼の進捗――召喚獣の進化に関する情報を確認していく。

 酒場部分にたむろしている中にルミナを見つけたけれど、わざわざ声を掛けることもないだろう。

 ……なんかやたら強い酒飲んでる気がするし、ちょっと目も座ってるし。


「あっ、アキラさん♪ 会いに来てくれたんですね!」

「……依頼の進捗は?」

「もうバッチリですよ! 王家が半数を、残りをアスタール辺境伯とブルーメンタール公爵が持っていきました!」


 なるほど。王家からの情報ならばかなり期待できるだろう。

 情報がまとめられた羊皮紙の束を受け取ったが、思ったよりもずっと量が多くて困った。


 ……来たばっかだけど帰るか……?


 読むだけなら寮に戻ってからの方がずっと楽だ。アーシャが羊皮紙に興味を示したら面倒だけど、魔術師殺しで口止めしてるから別に良いか……?


「アーキーラーさーんー!!」


 思い悩んでいると、背中にこつんと何かが当たる音がした。

 そこにいたのはべろんべろんに酔っぱらったルミナだ。


「なんでどっか行っちゃうんですかー! 今までどこにいたんですかー!?」

「あっ、えっと……?」

「ルミナさん! アキラさんに絡まないでくださいっ!」

「なんですかー! ニアさんばっかりズルいじゃないですか!」

「同じ女としての情けです……素面しらふになった時に精神的に死にますよ!?」

「待ってくれ……さすがに酔っぱらってウザ絡みしたくらいで殺したりしないぞ」

「アキラさんは黙っててください! いま、おねーさんは一人の少女を救おーとしているのです! 心に一生の傷を追うかもしれないんですよー!?」

「アキラさん、何か喋ってくださいよぅ! ずっと待ってたんですからぁ!」


 待って、ニアとルミナで真逆のこと言わないで。どうすれば良いか分からないから。

 とりあえず面倒になる前に逃げよう。


「ラビ、装填ジャンクション!」


 謎の圧力を感じたので装填まで発動させてその場を離脱。背後に聞こえる声を無視して人気のないところまで疾走した。


***


 ベッドでゴロゴロしながら羊皮紙を読み始めたがとにかく読みづらい。厚くて重いし丸めた感じの癖がついているためずっと広げてないと読めない。

 ヴァルキリーの情報に関してはかなり端的にまとまっていたのでそこまででもなかったが、今回は禁書庫や曖昧な伝承が含まれていることもあって量が多すぎるのだ。


 結局は重しを使って広げた羊皮紙を撮影し、スマホで読むことになった。


 荷物が減ったのでせっせと撮影を済ませてカフェに向かう。

 バーガー系の軽食が豊富な店に向かったところで、店頭に飾られたフェアのポップを確認する。


「……今日の食材はカマキリか……カマキリぃっ!?」


 ついに食べ物ですらないものがフェアに出てきた……と思ったらさすがに食べ物ではなく、オマケ的なものだった。

 カマを加工して作ったカミソリにペーパーナイフ、はねで作ったアクセサリーやキーホルダーなど、俺には必要なさそうなものがずらりと並んでいる。

 よかった……カマキリを食べ物扱いしてたら退学を検討するとこだったぞ。


「えっと、オマケなしとかないんですか?」

「オマケなしはプラス300円になります」


 何でだよ!?

 何が何でも余った素材を押し付けたいという強い意志を感じたので仕方なくキーホルダー付きを頼む。カプセルに入ったブラインド商品な辺り、人気があるのかないのかも不明な品である。


「色違いのキーホルダー……ラッキー……なのか……?」


 本来はオレンジ系統の色合いなはずが、淡い水色になっていた。おそらくは変異種の素材を使ったんだろうが、要らないことには変わりない。捨てるのも忍びないのでトレイの端に飾っておくか。万が一、誰かが声をかけてきたら快く譲るつもりである。


 注文した軽食を摘まみながらスマホの画面に羊皮紙画像を映していく。俺の配下とは系統すら被らない召喚獣の情報や、存在するかも怪しい伝説のアイテムなんかも適当に読み飛ばしていく。


 ……残念ながらスラぼうをS級にする術は見当たらなかった。オーソドックスな召喚獣だが、初心者向けと馬鹿にする者もいるし、同時召喚の枠が限られる以上は外されやすいから仕方ない。


 代わりに目を惹く記述が一つ。


「……結合合体クロスマージ……?」


 『装填ジャンクション』『再装填リロード』に続く新しい技術だった。こちらは不確定な部分が多い訳ではないが、難しい技術な癖してB級以下の召喚獣では碌に効果が感じられないものらしく、自然と廃れていったものなんだとか。

 すぐに試すことはできないが、アーシャと合流した後で実験してみるか。


「……じぃっ」


 残りの資料も読み終えたところで視線をあげると、そこには前髪があった。

 否、前髪で目が隠れた少女がちょこんと机から顔を覗かせているのだ。

 同じクラスの治癒術士ヒーラー、斑鳩ヤイロだった。


「斑鳩か」

「や、ヤイ、ロ! 苗字、ごつくて……苦手」

「はいよ。そんでヤイロ、何か用か?」

「わ、私……ここの、キーホルダー、集めててっ……!」

「欲しいってこと?」

「む、無理を承知で……! 売って、下さいっ」

「要らないからやるよ」

「ふぇっっっ!?」

 

 声でっか。


「お、お礼、何か……!」

「別に良いよ」

「だ、だめっ! シークレットレア……貴重だ、……よ?」

「マジな話するなら迷宮潜って特訓するから付き合ってほしいけど、さすがに無理だろ?」

「むむむ……説得……ダメ、かも……ごめん」


 ただでさえ戦えないであろう治癒術士だ。

 囲っているG班からすれば1ミリでも危険があったら許可できないはずだ。

 しゅんとするヤイロの背後、別の席に座っていた男たちが一斉に立ち上がった。


「無理ではないぞ!」

「我らがヤイロ姫にシークレットレアを気前良く献上する献身!」

「さらには我らにとってはウルトラシークレットレアにも等しい”えっっっ”を引き出した手腕!」

「ましてやヤイロ姫は物憂ものうげな表情をされておられる!」

「我らはヤイロ姫ファンクラブ幹部として、姫の意にそぐわぬことはしないっ!」

「ひ、姫……じゃない、よ?」


 唐突に現れすごい圧で喋りまくる男どもに引くが、ヤイロは知り合いらしく困った顔をしていた。


「出たぞ! ”よ?”だ!」

「これだけでご飯三杯はイケる!」

「生まれてきてくれてありがとう!」


 何かヤイロに祈りを捧げながら泣き出したので通報しようと思ったが、ヤイロに止められた。


「ご、ごめん……ね? G班の皆、ちょっと、変なの……頭が」


 待って。なんかすごい毒吐いてない?

 理解が追いつかん。

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