第21話 特訓

 伊藤は気に入らなそうな表情をしていたが、特に問題なくクラスには受け入れてもらえたようだ。

 まぁ「召喚士は弱いから」で今まで弾かれたのだから、「召喚士だけど強い」で払拭できて当然か。


 ……俺はこいつらを信用していいんだろうか。


 こいつらが評価しているのは俺じゃなくて強さだ。

 仮に何かのきっかけでジョブを失えばまた手のひら返しを食らうんじゃないだろうか。

 そう考えるとあまり踏み込まない方が良い気がした。


 昼休みにはいくつか質問を受けたりもしたが、放課後は落ち着いたものだった。

 というのも、アーシャがクラスメイトを追い払ってくれたのだ。


「はいはいそこまで。どうせアキラはF班って決まってるんだし、いくら聞いても無駄よ」


 なるほど、確かに班活動が成績に直結するのであれば、クラスメイトとしてもそこまで無理をする必要はないのかもしれない。

 どうせクラスでは一緒に活動するのだ。なんとなく強い、とかだいたいこんな奴、ってのが分かれば十分だろう。


「そう言わないでよ~。友達は多い方が楽しいからさ~」


 なぜか宮島だけは食い下がってくるが、他の皆は自分の将来のことで精いっぱいないんだろう。

 そういう意味では俺も余裕なんてないしな。


「後で秘訣を教えてくれよ~」

「秘訣?」

「告ったら燃やされるって噂のアーシャちゃんをどうやって口説きオトしたんだよ」

「ああ? そんなんじゃねぇよ」

「隠すなよ! 俺だって見た目はわりとイケてるだろ? なのに全然モテねぇんだよ」


 非モテの俺が知るはずないだろ。

 強いて言うならだと思うけど。


 そんな宮島もアーシャが追い払ってくれた――というか他クラスにいるA班の奴に連行された——ので、今はアーシャとともに寮に戻るところだった。

 せっかくなので昨日、ギルドマスターから貰ったヴァルキリーの情報を伝えてみる。


「アーシャってガチガチに前衛系だけど、魔法は得意じゃないのか?」

「得意じゃないってことはないけど。武器に付与エンチャントした方が威力が高いのよ」

「なるほどな……それじゃあ、しばらくやってみようか」

「エッ!?」

「嫌ならいいけど」


 俺が貰った資料によれば、ヴァルキリーは後衛よりの中衛だった。

 オーソドックスな戦闘スタイルは武器で自分の身を守りながら魔法で相手を追い詰めていくもので、最前線に出て武器を振り回すだけではイマイチだという評価だった。


 アーシャが切り札にしている魔法の付与に関しても、付与する魔法の強さが威力に直結するので、やはり魔法を鍛えて損はないだろう。


 もちろんそれは異世界でもトップ層の話だ。普通は前衛でも活躍できてしまうのだからレアジョブはズルい。


「魔法だけでって……そうしたら、強くなれる……?」

「やってみる価値はあると思う」

「……分かった。信じる」


 夜だけ迷宮攻略、というのも微妙なので寮のホールで各自訓練をすることになった。アーシャはできる訓練が限られるが、わざわざ訓練場を借りる必要がないのは楽だ。


「室内なら制御力だな。指を広げて、五指それぞれに炎を灯してみてくれ」

五指爆炎弾フィンガーフレアボムズ!?」(※)

「……なにそれ?」

「何で知らないの!? アンタ、本当に日本人なわけ!?」


 わからんけど何かのオタク知識か。

 このまま早口になって説明されても困るのでとりあえず修業に集中だ。




 指からライターみたいに炎を灯すアーシャ。綺麗な魔力の流れをしていたので楽勝かとも思ったが、それは1本の時だけだった。

 2本目からは魔力の流れが目に見えて、片方が火炎放射器みたいな火柱になったりくっついて一つの炎になったりとうまく行っていない。

 3本目に至ってはたどり着く前に他2本が消えてしまうありさまだった。


「む、難しすぎる……! こんなの純粋な魔法職でもやらないでしょ!?」

「やるよ」


 異世界ではね。


「だいたいアキラは何してるのよ! ハァハァ言いながら私のことをアツい視線で見つめてるだけじゃない!」

「……いや、これでも超がんばってるんだけど」


 俺が試しているのは三重装填だ。

 一か所に集中させればギリギリで保てる、といった具合で、全身に装填すれば筋繊維がブチ切れていくので、今は範囲を少しずつ広げることを目標にしている。

 右腕ではなく、肩までを範囲にして装填すれば立っているだけで汗がにじむような状態だった。


 呼吸が荒いのはギリギリまで耐えてるからで、決してアーシャを見ていたからではない。


「じゅ、授業で私と模擬戦しなかったからって、夜にベッドの上で——」

「はいはい。ムッツリムッツリ」

「最後まで聞きなさいよ!?」

「ろくでもないことしか言わないだろ!? お前のことなんて考えてねぇ!」

「じゃあ私じゃなくてヤヒロの妄想をしてたのね!?」

「どうしてそうなる!?」


 一応、ケータリングを頼んだ夕飯までは頑張って修業を続けたものの、妙に疲れた気がした……。


「F班は最下位なんだからね!? 真面目にやってよ!」

「やってるだろ……」


 ちなみにA~Zの27班のうち、一番強いのはK班。ただし先輩が多いらしく、来年以降はかなり苦しくなるだろうという見立てだ。


 2位はなんと宮島のいるA班で、毒島の所属していたD班は3位、一つ飛ばして第5位がヤヒロのいるG班だそうだ。


「目指すは7位!」

「……7? 何でそんな中途半端なとこを?」

「トップ7に入ると、成績だけじゃなくて特典もつくのよ」


 学年関係なく全迷宮への攻略権が与えられたり、希望すれば学園都市外の迷宮へと出張することもできるらしい。


 さらには、学園都市内での買取金額が最大で5パーセントアップしたり、装備品が10%引きになったりと恩恵が大きくなるらしい。


「なるほど」


 装備品なんかはほとんど関係ない気もするが、学園都市外の迷宮へと出張できるのはありがたい。

 それを目指してみるとするか。



※「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」三条陸(原作)、稲田浩司(作画)

 週刊少年ジャンプ連載の漫画作品。

 作中では禁呪法によって生み出された魔物、氷炎将軍フレイザードが使用した。本人曰く「手品」とのことだがメラゾーマ×5なので普通に強いと思う。天才魔法使いポップはこれを真似して使っていたが、師匠マトリフに「命を縮める」と言われ止められた。

 1991年と2020年にアニメ化されている。時代を超えて愛される作品ってすごい。ちなみに作者はポップとクロコダインさんが好きです。

 料理で「さいの目切り」と言われてクロコダインさんの目がダイに切られるとこを思い浮かべた人は作者と握手! あれはワニです。

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