第20話 模擬戦

 クラスメイトの前なのでどうしようか悩んだものの、契約方法が分からなければそうそう真似されることもないだろうと、装填ジャンクションに踏み切る。

 ただし装填するのは見せているスラぼうではなく、魔宝石の状態のラビだ。


「本当に良いんだな? やめるなら今だぞ?」

「問題ありませんよ。精一杯やらせていただきます」

「ふん………では戦闘してみたい者から順に前に出ろ!」


 俺との対戦を希望した者は27名のうち、19名。クラスの約2/3だ。

 残りは単身での戦闘を嫌がったり、あるいはそもそもが戦闘系でないジョブなんだろう。


 授業の扱いは組み手なので俺を無視して戦うことも可能なのだが、見学として壁付近にもたれかかったり座ったりしながら様子を窺っていた。


「いやー、初日で大変だと思うけどよろしくな。俺はA班の宮島!」

「よろしく」


 初回の相手は同じクラスなこともあり、自己紹介も兼ねて名乗ってくれた。


 ラインが入ったおしゃれ坊主な見た目なのでヤンキーかと思ったが、意外と友好的で付き合いやすそうなタイプである。


 そういやコイツらは俺に興味があるだけで伊藤の手先って訳じゃないんだもんな。

 不意打ちをかまそうかとも思ったがさすがに可哀想だし、多少手加減するか。


 槍を構えた宮島と互いに一礼。

 伊藤の掛け声とともに穂先を下に向けた宮島が走り込んできた。

 俺も装填を済ませて正面から相対する。


 踏み込みと同時に突きを繰り出すが、とても本気とは思えない速度だった。

 おそらくは俺が召喚士なので様子見の一撃なんだろう。

 が、さすがにそこまで見逃してやる程お人よしじゃない。


 穂先付近を蹴ってカチ上げると身体を滑り込ませる。そのまま叩くのは宮島自身ではなく槍の長柄だ。


「くっ!? は、早ェ!」



 大きくしなった柄が暴れるのを必死に押さえつける宮島。得物を放さないのは立派だが、隙だらけだ。


 大きく脚を開いた状態で踏ん張り、がら空きの胴を殴る。

 くの字に折れたところで首をホールドすれば決着だ。


 わずか数秒。


 だが、俺の実力は見えただろう。


「このままやれば首をへし折れるぞ?」

「……かはっ、ま、負け負け。俺の負けだ」


 殴られた腹を抑えながらも宮島は苦笑する。なるほど、俺を舐めて掛かってただけでそれなりに頑丈なのか。

 俺も舐めすぎていたみたいだ。


「いやー、召喚士とは思えない強さだね」

「召喚士は強いジョブだぞ?」

「認識変わったわ」


 にしし、と笑う宮島に代わって、クラスの人間が殺到した。


「つ、次俺!」

「待て待て! 俺にやらせろ!」

「召喚士とか言っときながらばちばちの前衛かよ……!」

「考察したいから拳闘士の俺にやらせろ!」


 迷宮とジョブに関する日本最高学府だけあって、真剣さが違う。全員が目の色を変えていた。

 伊藤だけは悔しげに俺を睨んでいるので、なおさら気分が良い。


 異世界なら煽るところだが、現代日本なので我慢だ。


「ははっ、どんどんやりましょうよーェ」

「ぐっ……分かっている! 次!」


 さて、ラビ一本でどこまでやれるか試してみましょうかね、と。




「あ、あのっ! 怪我した、人……並んで、ください……!」


 19人全員を倒した。最後に一撃貰ってしまったが、おおむね問題なく勝てたこともあって死屍累々だ。

 いや、さすがにそこまで酷い怪我はさせてないけど、大なり小なり打撲はあった。


「な、から、痛いとこ、言って……ね?」


 学年でも二人しかいない治癒術士の一人、G班の斑鳩いかるがヤイロが音頭を取って負傷者を癒していく。

 ショートカットなのに目が隠れるような前髪におどおどした喋り方は小動物系だ。

 体つきも華奢で決して戦えるようには見えないが、治癒術士なら前線に行かずとも大事にしてもらえるもんな。


「じゃ、じゃあ! 治します、ね……?」


 男子共の一部が顔をにやけさせているので、もしかしたら俺との戦いを切望していたのはを期待していたんじゃなかろうか……。

 真剣さが違うとか言ったけど、欲望に忠実なだけだったわ。


 ちなみに俺は男女平等の精神を持っているので女でも容赦なく倒している。

 さすがにアーシャの時みたいにセクハラ扱いされたくないので攻撃方法は気を遣ったけども。


「あ、あの……し、しししっ、しんどーくんっ! もっ、な、治っ、す……?」


 ……やっぱり俺は女子に嫌われる運命なんだろうか。

 他の奴らに話かけた時の数倍緊張しているヤイロ。前髪で目が隠れているので仔細は分からないが、耳はなんとなく赤くなっている。


 進藤くんというか、振動くんみたいになっている。


「お願いしても良いか?」

「ひゃっ、ひゃい!」


 俯きながら集中したヤイロが魔力を放つと、攻撃されたところが暖かくなっていくのが感じられた。

 毒島にやられた頬も、三重装填で痛めた手もぐんぐん良くなっていく。


「おお……めちゃくちゃ楽になった。ありがとうな」

「い、いぇっ。す、スキル、たくさん使うの、練習、だからっ」

「それでも、俺は助けられてるから。やっぱりありがとうだな」


 笑いかけたつもりだったが、ヤイロは身を小さく、固くしてしまった。


「なにナンパしてんのよ!」

「ナンパなんぞしてない。人聞きの悪いこと言うなよ!」


 ヤイロを守るように割り込んできたのはアーシャだ。


「そうよね、アキラはナンパなんてしないでもっと強引な手段を使うものね……

「待て、語弊があるだろ!?」

「慌ててるってことは、心当たりがあるんでしょ?」

「冤罪を掛けられそうになったら誰でもそうなるだろ!?」

「まぁ、良いわ。許してあげる……でもヤイロはいじめちゃ駄目よ? G班どころかファンクラブから命を狙われるわよ?」

「……ファンクラブ?」


 俺の言葉に、何故かアーシャが誇らしげに胸を張った。


「華奢な見た目に控えめな大和なでしこ! 傷つき疲れた体を癒してくれる聖女ポジ! その上、守ってあげたい小動物系のメカクレ系美少女! ファンクラブの10や20はあってもおかしくないわ!」


 いやおかしいだろ!?


「あ、アーシャ、さん……、ある、よ? ファン、クラブ」

「『も』ってことはヤイロもあるのか」

「わ、私……その、からかわれ、て……アーシャさん、みたく、綺麗じゃない、し」

「そんなことないわ! 私はヤイロのファンクラブ会員だもの!」

「……何やってんだお前は」

「推し活よ推し活!」


 見た目と立場はお姫様なのにとことん残念オタクなアーシャに溜息を一つ。


「何はともあれ助かった。暇なときで良いからまた頼む。対価は払うから」

「う、うんっ。こちら、こそ!」


 良い感じに回復してくれそうな人を見つけた訳だし、もしかしてもっと修業がはかどるかもしれないな。



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