第19話 はじめてのホームルーム
朝。ホームルームの前に俺とアーシャは呼び出しを食らった。
カモフラージュのためにスラぼうを肩に召喚して指導室に向かえば、そこにいたのは俺の担任になる予定の中年男性――伊藤と、いつも通りに不敵な笑みを浮かべた高田さんだった。
「実はな。同じ学年の毒島が週末から行方不明なんだ」
「……それで?」
「お前らと一緒にいたっていう目撃情報があってな。何か知らないか?」
なるほど、と思ったが俺が誤魔化す前にアーシャが怒鳴った。
「一緒になんていません! 絡まれただけです!」
眉を吊り上げているところを見ると、毒島と行動を共にしていたと思われることが本当に不愉快なんだろう。教える気はないが、今後付きまとわれることは永遠にあり得ないから安心してくれ。
「私が付きまといについて相談していたのはご存じだと思いますけど!」
「知ってる……つまり動機は十分ってコトだろ?」
「はぁっ!? 私が何かしたって言いたいんですか!?」
伊藤は言いづらそうな面持ちではあるが、持ってきたケースを俺たちの前で開けた。中には、透明な袋に入れられた刃物が二つ。
「毒島が使っていた武器の刀身だけが落ちていた。断面からみて、特殊なジョブかスキルを使って切断されたものだと思う」
あー……しまった。服や装備は全部燃えたと思っていたが、切り飛ばした刀身は無視してたわ。
どうしたものか、と思案していると、高田さんがパン、と手を打った。
「はい、そんなわけで毒島くんを探すふりはここまでね。帰って良いわよ」
「……は?」
「えっ……?」
「尻尾巻いて逃げた負け犬なんてどうでもいいんだけど、聞き取った
微笑みとともにウインクを飛ばす高田さん。
軽い口調だが、完全にブッ飛んでやがる。
日本とは合わない倫理観の持ち主である。下手すれば異世界でもかなり過激な方に入るんじゃないだろうか。
「ダンジョン教団、ですか」
「日本より海外の方がメジャーよね。アーシャちゃんは知ってる?」
「ジョブは神からの贈り物でダンジョンは神の試練、とか
「本当は新興宗教だけどね。厄災を神の御使いって言って大炎上してから、地下に潜って秘密結社みたいな動きをしているのよ」
なるほど。
「教団は強いジョブの人間を求めているらしくて、死亡ならともかく行方不明だとちょ~~~っと面倒なのよね」
「ご愁傷様です」
「頑張って探してください」
面倒、で済ませる辺りやっぱり高田さんの精神性は異世界向けだ。
二人で塩対応を返すと、高田さんはいたずらっぽい視線を伊藤先生に向けた。
「だそうですよ。D班の顧問をしている伊藤先生は本当に気が気じゃないでしょうけど、頑張ってくださいね♪」
「い、いえ……そういうわけでは」
「まぁ、いない者はいないんだから諦めて残った奴らを指導してあげてくださいな。生徒が減っても査定方法の変更はありませんので」
「……はい」
なるほど。
伊藤先生は毒島を好き勝手させていた側の人間な訳か。おそらく教師は自分が顧問を務める班の活動内容によって給与とか待遇が変わるシステムなんだろうな。
いわゆる実力至上主義って奴だろう。
「用が終わったなら、これで失礼します!」
ぷんすこ怒っているアーシャに手を引かれて指導室を後にした。
学園都市初の召喚士、という触れ込みはなかなかに衝撃的だったらしく、俺が自己紹介をしたとき学級はかなり騒めいていた。
いやまぁ、
男女ともに好奇の視線を向けてくる奴は多いが、少なくとも決闘を申し込まれたり不意打ちで殺そうとしてくる奴はいなかった。
当たり前なはずなんだけど、アーシャ・毒島と続いていたから学校そのものが荒れてて世紀末みたいになってる可能性も少しだけ想像していたので感動である。
ただし俺に話しかけて来たりする者はおらず、様子を窺うに留めている者ばかりだった。召喚士なのに侮らない、というよりも、召喚士なのに転入できたってことは何か秘密が、みたいに疑っているのだろう。
「スライムで入学……?」
「何か特殊技能が——」
「試験を突破したんだよな?」
「アーシャさんとパーティを組むだと!?」
「毒島に目をつけられたら――」
「今日は休みで助かったな」
まだ毒島の行方不明は公になっていないのか、学級には何も伝わっていないようだった。
「さて、せっかく転入生も入ったことだし、今日はカリキュラムをずらして模擬戦でもやるか」
伊藤の言葉にクラスから快哉の声が挙がる。
「チーム戦っすか!? それとも個人戦!?」
「召喚士相手って初めてな奴が多いと思うんですけど、本気でやっても良いんですか!?」
「さっそく戦ってるとこが見れるとか最高じゃん!」
好き勝手に言い出したクラスメイト達に伊藤が笑いかける。
「安心しろ。進藤くんはあの高田理事長が推薦して入学したんだ。思う存分戦っても平気だろう。――なぁ?」
……コイツ。
さっき高田さんに擦られた鬱憤晴らしに俺を使うつもりかよ。俺に確認を取るふりをしながらも、小ばかにした視線を向けて来やがった。
「……そうですか。良いですよ」
「本人もこう言っている。一時間目の始業を20分遅らせるから準備をして第三演習場に集合だ」
いやらしい笑みを浮かべる伊藤。D班の活動実績がどのくらい教師の査定に関わるのかは知らないが、もう俺はコイツを教師だと思わない。
クラスメイトには悪いが、コイツを悔しがらせるためのコマになってもらおうじゃないか。
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