第18話 女子からの評価

「……うまく行かねぇ」


 アンデッド・センチピードに続いてタラスクを討伐した俺は、街に戻る道すがら一人ぶすくれていた。


 理由は単純。


 三重装填の制御が難しすぎてうまく行かないからだ。

 一応、腕だけとか脚だけならギリギリ装填できるんだが、全身となると一気に難易度があがる。


 装填した直後に「あっ、これ無理」って分かるんだが、立っているだけでびしびしと体の中から嫌な音が聞こえてきて、あっという間に全身の筋繊維が断裂する。


 つまるところ、俺はまだまだ雑魚ってことだ。


「ど、どうかしたんですか?」


 アンデッド・センチピード討伐の時に成り行きで助けたルミナに訊ねられたので首を横に振る。

 命を助けたついでに召喚獣の蘇生を奢っただけなんだが、妙な恩義を感じているらしく、「何でもします」「どんなことでもします」と俺に引っ付いてくるのだ。


 D級の召喚獣なんて大した値段じゃないしアンデッド・センチピードの討伐は鍛錬の一環だから気にしなくて良いのに。


 討伐で俺が暴れる様子を見てしまったせいか、ルミナの笑みは無理をしているように見える。


 他の女性もそうなんだが、俺が戦う姿をみると大抵みんなこうなるのだ。おそらくは自壊しながらの戦いを見てドン引きしているんだろう。


 怖すぎるのか俺が話しかけても黙って俯く人。

 殺されるとでも思っているのか笑顔なのに謎の必死さが滲む人。

 俺を鬼畜か何かと勘違いしているのか、体を差し出そうとする人までいる始末だ。

 

 ルミナも妙に義理堅いだけで、おそらくは怯えているはずだ。


 昨夜なんて、寝ようと思ったところで宿屋に突撃され、何でもするから無茶なお願いでもしてほしい、と命乞いのように言われてしまった。

 身売りとか俺は奴隷商人か何かですか……。

 仕方ないので討伐モンスターのドロップアイテムを運搬してもらうことにして帰ってもらった。


 めちゃめちゃびっくりしていたけれど、その程度でびっくりするような子供が宿屋まで来て「何でもする」とか言うなよ。

 俺だったからまだ良かったけどアーシャみたいに薄い本大好きなムッツリだったら一瞬でベッドに引きずり込まれてるぞ……。

 異世界だからそもそも同人誌なんて存在しないけど。


「もうすぐ街に着いちゃいますね……」

「そうだな。ギルドまで運んでくれれば十分だ。重ければ俺も持つぞ?」

「い、いえっ! 運ばせてください!」


 うーん、やりづらい。


「あ、そうだ! 長旅でお疲れじゃないですか? 街に戻ったら宿を取ってマッサージとかしますか!? 私、がんばりますよ!」

「大丈夫。この後、予定も入ってるから」

「……そうですか……」


 隙あらば命乞いしようとするルミナだが、取って食ったりしないから安心してほしい。

 一応、運搬の代価として多少は払うつもりだ。こういうところで「命救ったんだからタダでいいだろ」とかやるとまた俺の悪評が増えてしまう。

 ただでさえ嫌われているから気を遣わねばならないのだ。




「では、ルミナさんはここまでで結構ですよ~」

「いえっ、私が預かったものですから最後までここに……!」

「うちのギルドには泥棒猫が待機できるスペースはないんですよぉ……というかアキラさん? せっかく変な虫がつかないように指導依頼とか貴族令嬢の指名依頼を弾いてるのにどうしてこうなるんです?」


 ギルドに着いて一分もしないうちにニアとルミナがすっごい笑顔で会話してるけど変な圧を感じる。

 特にニアから。

 妹のせいか、女性特有のそういうのは苦手なのでおもわずくらくらしてしまった。


 泥棒猫って……あんだけビビッてるルミナが俺のドロップアイテムを盗んで逃げるわけないだろ。


「良いからさっさと手続してくれ」

「はぁ~い♪ 私は有能で役に立つ人間ですから、すぐにでも~!」

「くっ……!」

「D級なんだろ? これから頑張れ。ほら、運搬料」

「そ、そんな! 受け取れません!」

「良いから。女の子に荷物運ばせちゃったし、受け取ってくれ」

「……アキラさん」


 俺から解放されると分かってホッとしているのか、ルミナは頬を赤くして涙ぐんでいた。

 魔王とかモンスターとかじゃないんだからさぁ……周囲からもひそひそされているし、悪い噂が立っていそうだ。せっかく金を払ったのに、これじゃ効果はないだろうな。

 さすがに手で耳を塞ぐことはしないが、努めて聞かないようにして今後のことに思いを馳せることにした。自分の心を守ろう……。


「あれが”五輝宝フィフスレイ”か……」

「バトルジャンキーの癖してモテるのはああいうとこだよな……」

「女を食い散らかさない行儀の良さもな」

「……うらやましいぜ。入れ食いだってのによぅ」

「アイツのせいでこの街の若い女はほぼ全て全滅だからな」

「……食堂のミミちゃんが塩対応なのもアイツに惚れてるからか……!」


 地球だと日曜日なはずなので今日中に戻らないといけない。

 月曜はついにホームルームだ。もう転入処理は済んでるけどアーシャ以外のクラスメイトを知らないからな。


 と言ってもアーシャもトサカも出会ってすぐ戦うことになった。クラスに紹介されたら決闘を申し込まれたりしないよな?

 クラス全員とかどんだけ戦わないといけないんだよ。


 すでに今から憂鬱だ。


「……まぁでも逃げてても仕方ないし帰るか」

「あっ、アキラくん!?」

「アキラさん! 待ってください!」


 つるし上げられたりしても嫌なのでニアとルミナを放置してささっと移動。

 地球に帰還した。


 あ、帰る直前にこっそり現れたギルドマスターにヴァルキリーに関する報告書を貰った。

 なんでこっそりなのか訊ねたら「あれに巻き込まれたくないだろ!?」と半泣きでニアとルミナを指さしていた。

 管理職も大変だな。でも仕事なんだから俺が巻き込まれた時点で何とかしろよ。




「ふ~ん……アンタ、学園都市に知り合いはいないはずよね?」

「……そうだな」

「それなのに朝帰りどころか、外泊して午後に帰ってくるんだ……ふ~ん」


 腕の手当を現代日本式に直してから部屋に戻ると、アーシャに絡まれた。

 妙に圧が強い上に機嫌も悪い。


「ロリコンとか熟女好きだったりする?」

「突然どうした!? そんなわけないだろ!」

「じゃあ男にしか興味ないとか……?」

「ぶっ飛ばすぞ!?」


 何があったのかは知らないが、アーシャは持ち前のむっつりスケベな頭脳でエクストリームな妄想を繰り広げたらしい。


「右腕のけがは女の子に噛まれた? それとも引っかかれた?」

「なんだその二択は……ていうかそもそも何で女の子限定なんだよ」

「じゃあやっぱり男……!」

「やっぱりって何だ!? 特訓してただけだよ!」


 包帯とガーゼでぐるぐる巻きにした腕を見て「女の子に噛まれた」ってどういう妄想したらそうなるんだよ。

 ちなみに包帯の下には異世界特製の傷薬が塗られている。


 魔力を含んだ薬草が原材料だからか、実際に傷の治りはかなり早くなる。

 本当は治癒術士ヒーラー系の人に治療をお願いしたかったんだが、異世界でもなお貴重な治癒術士は、気軽に見つけて依頼できる相手ではなかった。


「特訓……あんなに強いのに?」

「まだまだ足りない。言ったろ? 厄災を倒すって」


 最終的には五体の召喚獣を同時召喚し、五重装填できるようになりたい。


 本当にまだまだだった。 

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