第11話 二人の目指すものは
二本の短剣を装備しているってことは、金髪トサカの職業は斥候か盗賊辺りだろうか。
どちらも速度と器用さに補正が掛かるジョブだ。
なぜかブチ切れているが、まさか喋ってる途中で俺が攻撃始めたからじゃないよな……?
審判もいないところで武器を抜いたのだ。あなたを殺しますよ、と意思表示しといてお喋りしてるような間抜け、異世界だったら10回は死んでる。
油断する方が悪いのだ。
……ここは一応、日本だからブチ殺すのは我慢するが。
「ラビ、
トサカが身を低く、両手を開きながら疾走してきた。逆手に持っていることからも間違いなく速度特化。疾走のスピードを落とさず、引っ掛けるように切りながら駆け抜けて小さな手傷を増やしていくタイプの戦い方だろう。
特殊な刃物でない限り、スラぼうを装填すれば斬撃は無効化できるが、そこまでする必要すらない。
「
「ハッ! どこを狙ってやが——あ?」
俺に振りかざしたナイフが根元から折れる。一撃必殺で切り落としたのだ。
すかっと空振りしたトサカの頬に、拳をぶち込む。ステータス上乗せはあるが、特に能力を乗せていないただの拳だ。
「ぶばっ!?」
「初手は譲ってくれたのか? 優しいんだな」
「で、デメェ!」
鼻血を噴き出しながらも怒りに歪んだ顔に、さらに一発。ついでにもう一度一撃必殺を発動させて反対側のナイフも切り落としておく。これでまともな攻撃はできないだろう。
斥候や盗賊などの短剣で武装するジョブの特徴は攻撃力の低さだ。
それを速度と相手の裏を掻くような能力で補って戦うのがセオリーだが、そもそも有効打が与えられない時点で詰みである。
顔、みぞおち、腹と三連打を叩き込み、くの字に折れた身体にひねりを入れた膝蹴りをブチ込んだ。
一切防御ができなかったトサカは地面と水平に吹き飛び、バウンドしながら転がった。
……やりすぎた、か……?
多少は防御が入ると思っていただけに、ちょっと心配になってきた。
まさかアレで大怪我とかないよな?
やりすぎて俺が怒られるとかないよな……?
心配になって様子を窺っていると、ふらふらになりながらもトサカが立ち上がった。
「い、いいぞトサカ! 頑張れトサカ!」
「煽ってんのかテメェ!」
いやだって、過剰防衛とかで怒られたら嫌じゃん。
「テメェ……ナニモンだ……? 何のジョブならそんなに強くなれる?」
「ああ? 召喚士だよ」
「ふざけんな! クソ雑魚代表の召喚士に俺がやられるわけねぇだろ!」
そう言われてもなぁ。
「とりあえず今回は退けよ。武器も使えないだろ?」
「……次は化けの皮剥がしてやる。覚えとけよ」
分が悪いことはトサカ自身も気付いていたらしく、分かりやすい捨て台詞を残して去っていく。
俺が見逃してやったことを理解してないのか、それとも何か切り札を隠しているのか。
異世界だったら報復を匂わせた時点でトドメ確定なんだけどな。
よろけながら立ち去るトサカを見送っていると、俺を巻き込んだ
「あ、あの……巻き込んで御免。それから助けてくれてありがと」
「他に選択肢なかったけどな。まぁ大したことないから良いよ」
アーシャの話によると、あの金髪トサカ――
最初はウザ絡みをしてくるくらいだったのでうまく
「私を誘ってくれたグループを模擬戦でわざとけがをさせたり、根回しをして他の班から孤立させたり、ね」
「それで
「ええ。それはアキラもでしょ?」
「まぁな。俺の場合はジョブが特殊だからな。つーか、毒島程度蹴散らせよ」
「無理よ。アイツそのものもいやらしい能力を持ってるし、何よりアイツのいるD班は厄介な先輩がいるもの」
なるほど。その先輩がいるおかげで毒島はあの程度の実力でデカい顔をできるわけだ。虎の威を借る狐ってやつだろう。
「ねぇ、提案なんだけど」
猫のようないたずらっぽい視線で俺を見つめる。
「私とパーティ組まない? D班に睨まれるのは毒島をボコった時点で今更だろうし、私ならアキラのジョブとかももう見てるし」
確かに、しばらくはその方が目立たない気もする。
なにより、今回俺はアーシャを助けてしまったのだ。半端に助けて放り出したりして、キレた毒島に報復でもされたら目も当てられない。
「パーティか」
「というか、本音を言うならアキラに鍛えてほしいの。実際に戦って、毒島との戦いも見て、確信したわ。あなたは私が知ってる人間の中では一番強い」
なるほど。
こいつも祖国を取り戻すために強くなりたいのか。
アーシャのジョブは知らないものの、俺ならば多少は力になれるだろう。
「どっかでお茶でも飲みながら話すか。助けたお礼代わりに奢ってくれ」
「こういう時は男が奢るもんじゃないの!?」
「迷宮で稼いで来ようと思ったところで誰かさんに巻き込まれてトサカと戦う羽目になったからな。金がない」
「……これが噂に聞くジャパニーズ・ヒモね」
「待て。人聞きの悪いことを言うな」
「私の身体を好きにするだけじゃ飽き足らず、私の稼ぎまで……!」
「人聞きの悪いこと言うなって言ってんだろ!?」
「良いわ、負けた私は身も心もあなたに捧げて奴隷になるしかないもの……せ、せめて人前ではやめてよね!」
「どんな妄想してんだお前は!?」
つ、疲れる……!
こいつ絶対にむっつりスケベだろ。
学園都市は内部に多数の施設を抱えている。
学業に関連したものや迷宮やドロップアイテムの研究施設はもちろん、そこで暮らす人々のための店もたくさん存在していた。
そんな店の一つであるカフェに入り、メニューを開く。
「……ここ、カフェか?」
「そうよ。学園都市内の店は都市運営が指定した食材を使うと減税になるらしいからだいたいどこもこんなもんよ」
毎日のように買い取っている要らないドロップアイテムをそうやって消費させているらしい。
「でも焼き鮭パフェはないだろ……」
「まだ当たりよ」
「……どの辺が?」
「炭水化物と焼き鮭だから実質鮭ご飯でしょ」
実質という言葉の意味を小一時間問い詰めたくなる発言だ。
冒険したい気分ではなかったので「旬のパフェ」とブレンドコーヒーのセットを頼む。というかほぼ確定で外れだろ。
ちなみにアーシャは鮭タルトと紅茶のセットだった。アッサム、セカンドフラッシュ、と色々注文をつけていたのでおそらく紅茶にうるさいクチだろう。
「ブレンドコーヒーで良かったの?」
「? なんか問題あるのか?」
「今は鮭が余ってるっぽいから鮭の頭で取った出汁とかがブレンドされて出てくるわよ?」
……ブレンドの意味がイカれてやがる……!
ちなみに旬のパフェは皮目パリパリで脂がたっぷり乗った鮭ハラスが四本も刺さっていた。そういう旬は求めてねぇよ……!
クレームを入れたいところだが支払いはアーシャだし時間ももったいない。このままだと夕飯を買うための金すらないのだ。
アーシャがティーカップを摘まんで優雅に紅茶を楽しんでるところ悪いが、さっそく本題に入る。
「パーティを組む話だが、アーシャの目標は何だ?」
「
「……条件付きだが、手伝っても良いぞ」
一応、俺の目標にも合致するからな。
「もったいぶった言い方ね。アキラの目標は何なの?」
アーシャの問いに一瞬だけ悩むが、隠しててもしょうがないのではっきり告げた。
「『災厄』の討伐だ」
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