第6話 寮生活
国際迷宮高専は、
一応、高等専門学校の
「授業は月曜日と火曜日の午前中だけ、ですか……」
「一応火曜午後から金曜日までも扱いは授業よ? 迷宮踏破実習って名前がついてるからね」
「でも、内容は迷宮に潜るだけなんですよね?」
「それはそうね。高専では授業を受けるクラスとは別に、縦割りで班ってのがあるの。パーティを組んで
正確には『迷宮踏破実習』の他にも『迷宮内物資探索実習』『戦闘訓練実習』など色んな授業に分かれているが、要するに潜って活動するだけだ。
スカウトのクラウディア
まぁ、これから編入試験を受ける学校だし、いくら確認してもしすぎってことはない。
東京都・奥多摩周辺を大開発して作った迷宮高専は、敷地内に複数の迷宮を抱える学園都市だ。というよりも迷宮があるところだから開発されたんだけれども。
基本的には全寮制で、入学時には死亡同意書と遺書の提出が義務付けられているイカれた学校である。
もっとも、入学時から給与が発生するわけだし、そのくらいの覚悟で学んでもらわないと学校側も困るんだろうけども。
『ダンジョン工事団』の皆を助けてから2週間。面倒な書類や何やらで忙殺されていたが、ようやく入学の日だった。
ちなみに編入試験は問題なく終わった。
自分の能力に合わせていくつかの実技試験を選ぶ形だったが、俺は一番わかりやすい『的壊し』を選んだ。
それなりに硬い的で、壊すのにかかった時間やら攻撃回数で実力を測るものだったが、ヴォーパルラビットの攻撃で一撃だった。
びっくりして目を見開く試験官の横、腹を抱えて大笑いする高田さんが印象的だった。
明け透けな物言いや悪びれない態度、そして芸名っぽい名前と怪しさ満載の高田さんだが、試験官が敬語を使うあたり結構偉い人らしかった。
「探索者になるだけなら難しくはないけど、国定探索者は認定要件が厳しいからねぇ」
凶悪すぎて一般には解放できない迷宮や、高難度のモンスターに相対できる探索者の最高峰こそが国定探索者だ。
3000時間以上の迷宮内活動実績と、2000万円以上の売り上げ、そして厳しい試験を潜り抜けなければ国定探索者にはなれない。
「在学中に3000時間なんて余裕で超えるし、2000万円の売り上げもだいたいの生徒がクリアするわ。試験は多少てこずる人もいるらしいけれど」
「それでも、独学よりもずっと国定探索者になりやすいですよね」
何よりも、俺の場合はリリティアの”依頼”を熟すためにも国定探索者になる必要があった。
「そうね……と、着いたわ。どいつもこいつもエリートとしての自覚があるからプライド高いし面倒だけど頑張ってね♪」
そこはかとなく不安になる適当さ加減である。
まぁでもガチガチに調べられるようなら俺はこの話を蹴っていただろうし、丁度いいと言えばそうなのか。
高田さんの案内に従って学園都市内の寮へと案内された。
モダン建築っぽい洋館は寮というよりも、どこかの領事館みたいな雰囲気だ。
「ここ、ですか……?」
「そうそう。今年は色々と豊作で寮に空きがないのよ。遊ばせてる建物も全部使ってなんとかって感じね。はいコレ、鍵」
「ありがとうございます」
なるほど。つまり俺が使う建物も本来は寮ではないってことか。
スーツケースを下ろすと、高田さんはさっさと車を出発させてしまう。
鍵を開けて中に入る。
玄関ホールの左右は来賓室とか晩餐室らしいが『立ち入り禁止』の札が掛かっていた。
無理やり寮にしてるわけだし仕方ないか。
2階もいくつか立ち入り禁止の部屋があったが、そのうちの一つが俺の部屋らしかった。鍵についていたタグに202と書かれていたのでそこへと向かう。
カチャン。
大きな音を響かせて鍵が開く。中に入って荷ほどきしようとしたところで、しゃああああ、と水音が聞こえてきた。
おそらくはシャワーの音だろう。
引っ越しすると最初は水を出しっぱなしにすると聞いたので、水の入れ替えをしている可能性もあったけれど、高田さんがそんな気が利いたことをするとは思えない。
「……水栓が緩んでるのかな……」
どう考えても全開って感じなので、さっさと相談して直してもらわないと。
荷物の中に緊急時の連絡先があったはずなので連絡することにして、まずは止水だ。
適当に扉を開けながら風呂場へとたどり着く。
「………………………………」
「………………………………」
ドアを開けると、全裸の女の子と目が合った。
肩甲骨の辺りまで伸びた燃えるような深紅の髪に、吊り目気味で気が強そうな目。
シャワーの飛沫を弾く肌は染み一つない白。ネコ科の猛獣を思わせるような、しなやかに引き締まった筋肉が艶めかしい。
ぷるんと膨らんだ形のいいおっぱいから水の流れに従って下に視線を向ける。
……下も赤なんだ。
何がとは言わないけれど。
「……何か言ったらどう?」
シャワーを浴びていた女の子が身体を隠しながら俺を睨む。
いかん。
あまりにも意味不明すぎてただ見つめるだけになっちゃってた。
「えっと……とても綺麗だった」
「それが遺言で良いのね?」
シャワーを止めた少女の身体から炎が吹き荒れ、水飛沫が一瞬で蒸発した。
あれ? 怒ってる?
……妹には「女の子を見たらとりあえず褒めとけば間違いない」と教わったんだけども、逆効果だったようだ。
「ちょっと待ってほしい。ここは202号室だよね?」
「そうよ。つまりアンタは狙ってここに侵入してきたってワケね」
「ち、違う! ここが俺の部屋だって言われてきたんだ! 鍵だってもらってる!」
「で、シャワーを浴びている気配がしたから覗きに来た、と」
「解釈に悪意が……! 事故だって! 人がいると思ってなかったからシャワーが壊れてるんだと——」
「そう。その言い訳が通じると良いわね――あの世で」
轟、と炎が吹き荒れる。
探索者。それも強力な魔法系の異能を秘めた人間だ。
「ああクソ! ラビ、
さすがに人間相手に
素早さに特化したラビを装填して真横に避ければ、先ほどまで俺が立っていたところを炎が突き抜けるところだった。
眼が痛くなるような強烈な光に、避けたのにちりちりと痛みを感じる熱。
……間違いなく殺す気満々だ。
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