第24話 先輩と悪魔からのアドバイス

 剣を突きつけられた時、グレイがある言葉を口にすると、闘技場て戦っているにも拘らず、夢の中へ強制的に移動した。


 そこで付き合ってただの、あれは付き合っていないだのと、言い合っている人間と悪魔。


「あー。そういえば。イスルローダって男か女か分からない。もしかしたら両性かもしれないし?」

「だから、そういうのじゃないって」

「ボクとグレイは一度は契約で結ばれてた。そういうので合ってるよ」

「つまり、グレイという本命がいて、俺のことを…」

「コイツが勝手にいなくなったんだ」

「そしてここで再会…って!俺は関係ないから!!っていうか、なんで俺のことに居るんだよ。他にも四人いるだろ」


 関係ないと思いつつ、申し訳なくなってくる。いや、そもそも。俺のとこに2回くらい来ただけで…。って!知らんし!でも気まずいし!!


「そんなぁ。ボクは悪魔だよ?五股、六股だって何にも問題ないよ」

「イスルローダ!!俺達のことはいいから、ちゃんと元鞘に収まるんだ!…成程、グレイが最強ってのはそういうことか」


 勇者に力があるのは、世界の仕組みかもしれないけれど、この悪魔を介してのこと。

 つまり…


「違うよ。あと勘違いしてる。俺はその悪魔なんて要らないし」

「つれないねー。グレイのスキルはメメント・モリ。でも、それはボクの力でも、ユウが言うスロットでもない。だから、ボクはこの子が怖いのもあって居なくなったんだし」

「ん、でも。マリアさんやリーリアみたいな、えっとカラーズみたいな感じじゃないの?」


 カラーズとはそういう人たち。

 スロットの中に天使や悪魔を忍ばせている存在。


 だが。


「メメント・モリは彼の性格ってだけ。ボクは暇つぶしにサイコロを振ってただけだよ。当然、動いてたのはグレイの意志」

「…そこだけは、感謝してる。ユウ、戦いを中断してゴメン。俺が考えるようになったキッカケが、イスルローダだから、本当にそれだけ伝えたかったんだ。考えることを知ったから、今も生きてるんだし。それじゃ、この辺りで…」

「えー、もう終わり?折角だから、君について喋っちゃおうかな」


 グレイは悪魔を考えるキッカケと言った。リーリアは自分たちは馬鹿じゃないと言った。考える…こと?それって…


「…勝手にすれば」

「うん、勝手にする。このままだとユウに誤解を与えそうだしね。ユウ、知ってる?グレイは幸せな生活を突然奪われたんだ。」

「もう、言ってる」

「言ってないよ。眼の前で父親が馬に頭を踏み潰された。眼の前で母親の上半身が吹き飛ばされた。親戚が炎で焼かれ、隣人が酸で溶かされた。全部、グレイの眼の前で、しかもやったのは守ってくれると信じていたメリアル王国。だから、彼の心は壊れちゃった」


 ユウは目を剥くが、グレイの顔色は変わらない。

 余りにも酷い…。心が壊れてもおかしくない。


「でね、実は彼、ハバドを地獄に変えた存在を、その時見ていたんだ。咄嗟に見ないふりをしたんだけど」


 だが、この話になった瞬間、グレイの顔色が変わる。

 だけど、


「やめろ…、それ以上は…」


 このグレイは強く見えない。

 考え方…?ってか、それ。どうしようもなくない?


「うん。勿論ここまでだよ。本当は喋りたいけど、ここから先はユウには知る権利がない。ってことで、あとはユウに向けてだね。ユウ、君はもっと自分と向き合ったほうがいい。来たる未来のためにも、ね。それじゃね、グレイ。ボクは遠くから君を応援しているよ」

「な、ちょっと待…」


 その瞬間


     ⚀⚁⚂⚃⚄⚅


 見えたのは切っ先。

 世界が形を取り戻し、色が差し込まれたと知ったのは、その後だった。


「そこまで‼…グレイの勝利だ。マリア‼」


 ふわりと羽織った神官服、アルズが割って入ったのを見て、目が覚めたことを知った。

 とは言え、今のは本当の夢だったのではないかと、疑いもする。

 眼前で見下しているのは、灰色の髪の青年。夢の中の白と黒を混ぜたような彼。

 夢の中で会いましたよね、なんて起きて直ぐに話しかけるような、友好的な人間でもない。


「…あれ。俺って気絶してただけ…かも」


 だが、そこで。


「ユウ。色々悩んでいるの、何となく分かってるけど…」


 右手の鎌を上に、左手の剣も空に突き立て、勝利者のポーズを決めながら。

 ユウが一太刀も浴びせることが出来なかった、強者であるグレイは言う。


「…悪魔は契約を守るよ。これが君の救いになればいいけど」

「え…と、もしかして」

「俺は捕まった時に、悪魔裁判で…、…ま、いいや」


 おおおおおおおおおおおおおお‼久しぶりに最高だったぜ‼こういうのを見たかったのよ‼あのグレイを怖がらないなんて‼帝都の網闘士と重装闘士がビビって何もできなかった、あの・・鎌にだぜ?


 終わったと分かった観客が、大きな歓声とびっくりするほどの拍手を浴びせた。

 そのせいで、灰色の青年は興ざめしたのか、喋るのを止めてしまった。


 今のは夢じゃない。っていうか、時間が停まっていた…?


 パチパチパチパチ、おおおおおお、ドンドンドンドンとパッパラパッパラーと、騒音を通り越した爆音で、頭が上手く回らない。


「こりゃ、帝都のコロッセオが楽しみだ。おい、今度はちゃんと描いただろうな?」

「はい。今度は完璧でさ」


 色んな場所で、色んな人間が喋る。

 召喚された勇者が偉いわけではない。

 戦い以外、興味がなさそうだったグレイも、ユウの悩みを見抜いていた。


「そんなに顔に出たのか。…ってか、悪魔っていつも俺の中にいるのか?皆にも聞いてみたいけど…、今は…もう…」


 マップの更新はされない。

 一人は元々、グループ解除されていたから、残りの三人がグループから追放したのか。

 実はそうではない。グループから離脱したのは、ユウ本人だった。


 ——リーリアに異世界人は馬鹿ではない発言をされた後の一幕。


「ほんとだった。エイスペリアの中央で動きが止まってる」

「成程。魔法硝板にはそのような使い方が。ユウ、その地図の共有を止めることはできないの?」

「…出来る…けど」

「だったらやってください。レジスタンスの作戦に支障が出るかもしれないでしょ」


 彼女の話は正しい。レジスタンスなのに行動が筒抜け、それは流石に不味い。

 実際にその地図には、ユウがオーテムに入った痕跡が糸のように残っていた。


「…分かったよ」


 一週間以上も既読がつかないグループチャット。

 来てくれないどころか、読んでもくれない。だったらグループを抜けようと何度も思っていた。

 それにユウが悪魔を疑っていた時期でもある。

 だから、迷うことなくグループを抜けた。勿論、それで賢者にはなれた、なんてことはない。


「流石に俺だけってことはない…か」


 もう、何処に居るのか分からない。

 でも、エイスペリアとの戦いは簡単に終わるようなものではないらしい。

 だから、そこに行けばまた会える。

 でも、今から戻って、受け入れてくれるだろうか。

 形だけでも受け入れる、形だけ。死にかけても助けてくれない。


「リーリアは何を考えているのか分からないし。っていうか、これ。何の時間?…あれ、そういえばマリアの采配云々って…」


 ドドドン‼


 ユウの不安を掻き立てるように、ここで大きな太鼓が叩かれた。

 イスルローダの介入で混乱していたが、周りの人達には関係ない。


 え。待って。俺、負けたんだけど…。グレイは9割生き残れるって言ってたよな。俺、頑張ったよな?あのグレイ相手に戦えた…よな?そのグレイは帝都で次も戦う…って話…?絵描きさんの声もあったような…。っていうか、勝敗の後の判断をするのがマリアって‼よく考えたら不味いじゃん‼あんな好青年のグレイの腕を、俺からしたら意味もなく切り飛ばすヤバい女だぞ⁉


 そのマリアが高台に立つ。

 戦闘中グレイが言ったように、狭い敷地に建てられたオーテムコロシアムは、太陽の光が差し込みにくい。

 だけど、観客席の高台に立つなら別、彼女の体が日の光を浴びて、その美しさが際立つ。今は修道院の服装ではなく、柔らかな布で全身をふわりと包む、ヒマティオンのような服装。

 それは、まるで天使のよう。皆の息が漏れる音が聞こえるよう。


 …だが、サイコパス‼まさか、まさか…?そんなことないよな?俺は特訓しただけだし?あんなに盛り上がってたし?


「皆さま。久しぶりの興行を楽しんで頂けましたか?」


 静まり返った会場が、再び轟音を発生させる。

 帝国で剣闘士文化が根強く残っているのは、魔物使役文化と、マリス信仰に紐づけられているらしい。

 そして、オーテムでは暫くお預け状態だったわけで。

 

「軍神マリスに捧げる武踊に勝利したグレイ。何か望むものはありますか?」


 すると灰色髪がプイッと風に靡く。

 見世物であるから、綺麗に洗われた髪を。もしくはお気に入りの玩具だと、琢かれた肌。

 そのマリアの玩具は言う。


「…もっと戦いたい」


 会場が更に熱を持つ発言。ただ、これはパフォーマンスではない。

 彼は戦っている時だけ、本当に楽しそうな顔になる。

 まるで、テレビゲームをしているよう。飼い主に似た、と言ったら失礼かもだけれど、飼い主の方は喜ぶに違いない。


「はぁ。マジでそれ。勿体ねぇな…」

「ほんと、ほんと。一度、元老院の有力者を殺したか知らねぇけど、差別しすぎだぜ」


 いや、ソレに関しては流石に…。だけど、それぞれの分化がここにはある。

 勇者だからって何でも許される訳じゃない、っていうか俺はイスルローダになんか言われてたような…


 多くの情報がここには集約されていた。だからユウは考え込む…


「グレイ…。それは私も同じ。でも、…ただでさえ追放されているし、他に移籍しようとも、他の育成主も剣闘士をグレイとぶつけたくないって、半ば出禁状態なの。…だから、代わりにぎゅーで許してね」


 正式な興行ではないのか、偶にマリアの私情も挟まれる。

 そして、勝者の次は敗者の処遇…


「ご来賓の皆さま。挑戦者ユウは負けてしまったのですが…」


 運命の時。流石に…、そんな…、でももしかして。最悪の事態が起きないとも限らない。だって、マリア。あのグレイが怯えているマリア。リーリアも彼女には…


 祈るような気持ち。只の練習だと思ったから、気軽に戦えたのに。ここに来て緊張。


 だが、事態は彼の斜め上へ向かっていく。


「彼をどうしますか…」


 ゴクリ。ドキドキ。

 ただ、半数以上の人間が首を横に振ってくれる。親指を上に立てる習慣は分からなくても、何となく意味は分かる。


 ほら、みんなは俺に…


「そんなの決まってる‼俺は続きが見てみたい」


 やった。つまり9割の方を無事に引けた。これで俺は…。

 えっと、なんだっけ…?リーリアは…、あそこにいた。なんで隅っこに?


「勿論、俺は見に行くぜ。」

「えぇ、私も‼三か月後に開かれる、久しぶりの大闘技祭よね」


 …は?三か月後の…、ってリーリア。目が合ったのに一瞬で逸らしたけど?


「安心しました。それでは敗北者ではありますが、自信をもって送り出したいと思います。ユウ。グレイには負けましたが、貴方の名は轟くでしょう。私たちも後押ししますので、しっかり準備を整えてくださいね」


 え、え?えええええええええ‼どういう…こと?

 俺は剣闘士じゃないんですけど‼


「ユウ。頑張って。参加したくても出れない俺の分も楽しんでくれ」


 そして、ここ漸く。ユウの神経細胞に電流が走った。


「も…、もしかして。ここで特訓する理由って…」

「俺と戦った、しかも勇敢に戦ったっていう実績作り。さ、もう終わったし帰ろ…。リリー、ユウを回復してやって」


 どういうこと?意味が分からない。俺はレジスタンスじゃない。


 …でも、忘れないように反芻しないと。先ず、大賢者の条件は嘘じゃない。方法が分かっていないだけだ。そして


 ——ユウ、君はもっと自分と向き合ったほうがいい。来たる未来のためにも


 グレイはこう言った。イスルローダは考えるキッカケ。俺の場合、どうなんだ…


 いや、考えるも何も。賢者って考えるって行為とピッタリ重なるじゃないか。

 つまり俺は考えなければならない。今まで流されてばかりだったけど


「何、難しい顔してるの。回復させたら、こんな場所立ち去るわよ。…ヒール」


 じわじわと痛みが押し寄せる、だけど同じだけ柔らかい光が痛みを引かせてくれる。

 全身血塗れ、指は何本か失われている。でも、これは喪失圏内。変な言い方だけど、治癒魔法で治る怪我。


「それにやったじゃない。頑張ったと言えるわね」

「何が…」

「何がって、観客が言っていたでしょう?帝都でも闘技場の興行が行われるって」


 傷を癒すためか、それとも故意にか彼女の顔が肩に乗っかる。

 そして、とんでもない話を囁いた…


「そこに普段、なかなか顔を見せないマリス教皇が顔を出すって話よ。貴方にとって良いチャンスだと思わない?勿論、勝ちぬけばだけれど…」

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