第13話 グループチャット
これはユウが眠り、呪いでうなされていた時の話だ。
勇者の四人は桃色の髪の女から、黒髪の平凡男の話を聞いていた。
そしてユウの所在を知ったのだが。
「もしかして私達のせい…なのかな」
サナは大魔道士の直感から、そう呟いた。
「あ?なんでだよ。俺達は力に目覚めただけだ。んで、ユウは目覚めなかった。だから、守ってんだろ」
「レン。アンタ、ちょっと調子に乗ってんじゃない?もしも逆の立場だったらって考えて…」
性格の変化は漲る力を得たレンが一番大きかった。
前の世界だともう少し、相手の立場を考えられたのに。
今は…、だけどここでアイカの思考も止まる。
「アイカちゃん?」
「う、ううん。なんでもない。とにかくレンを守らないと」
ただ、守らないといけない、その考え方は問題なく出来る。
「サナの言いたいのって、ユウは僕たちに追いつこうとしてて危ないってことだよね?」
「え、えと…。そう…なのかな?どうなんだろう」
人間は極論的に他人を理解することが出来ない。
ましてや男と女、強者と弱者、チート能力を持つ者と持たざる者、プラスαの軸を持つ者と持て余している者。
「…とにかく守らないと。何かをしてあげないと」
「だから、スピードクリアするって決めたんだろ」
「そんなことは分かってる…。でも、何か…」
大魔導士、深淵を理解しようとする存在故に、心のどこかで想いが引っかかる。
だけど、まだまだ未熟の少女。
「ナオキ、しっかりサナを支えなさい」
「う、うん。…いいかい、サナ。こっちの三百年が十年前…。ある程度の余裕は確かにあるよ。こっちの一か月はあっちの一日、確かに余裕は感じるけど。半年で一週間、流石に一週間も行方不明になったら大問題だ。ううん。一日でも騒ぎになってるかも。実は一分一秒無駄にできないんだよ」
前に進もうと思ったのは、サナがうだうだと考えていたから。
「ま、レンも怪しいけどね。異世界の女にうつつを抜かして…」
「そ、そんなことねぇよ‼おっし、サナ‼大剣豪の俺がリーダーとしてバシィィィて全部解決してやるよ‼それでいいよな?」
帰らないといけない、それは何となく理解できた。
だって、転生したわけじゃない。あっちには友達も家族もいる。
「ほんと?それじゃ頑張ってね、リーダーさん。…で、リーリアさん。具体的にどれくらい掛かるものなんですか?」
半眼でレンを睨み、案内人の赤毛の女に話を聞く。
彼女も伝承に倣って行動しているだけという。
「…今の話は初めて聞きました。時間のずれがある…のですね」
「あぁ、そか。僕たちはスマホの年代で判別できたけど、その前は難しかったのかも?」
「いえ。単に伝わっていないだけかと。時間のズレは私たちの世界とは関係のない話、そう思われていたのかもしれません」
「それはそうね。アタシたちの事情も聴かずにつれてこられたわけだし。それでリーリアさん、さっきの質問の答えは?」
赤毛の少女は逡巡し、目を逸らしてこう言った。
「…三百年前は十年かかった…とか。ですが、勇者様の時間ではたったの一年だったのですね」
「いやいや、一年って‼一年も行方不明だったら…」
青い顔のナオキ、そして金切り声を上げる女、銀色の髪が光りながら空間を切り裂く。
「ちょ、一年は一年でも、アタシたちにとっても十年でしょ⁉二十七歳で帰還…って…。アタシ、絶対に嫌‼サナも嫌でしょ?」
「おい、アイカ…」
「アタシたちにとっての十年とアンタたちにとっての十年は違うのよ‼」
「僕たちだって同じだよ。一年だと高校には戻れるだろうけど、二十七歳の見た目で一個下の学年の生徒と…」
「でも、この力があればどうにかなるんじゃね?」
「あっちは三次元。そのスロットは使えない…」
将来の為の大切な十年。高校三年生を27歳の見た目で受けないといけない。
大したことが無いように思えたことが、彼らの心にクリティカルヒットしてしまった。
「時間が惜しい、そういうことですね。それなら…、私なりに考えていたことがあります」
提案は彼女が切り出した。
「…それってどういうこと?裏技か何か?」
「いえ。恐らく裏技ではないと思います。私は伝え聞く話で想像していただけですので」
「リーリアちゃんが俺の為に…」
「レン、アンタって…。ま、いいわよ。教えてくれる?その方法を」
だけど、本当に大した話ではない。
「魔法硝板は勇者様にしか扱えない。…そして、魔法硝板を通じで勇者様同士で連絡を取り合っていた…と言い伝えがございます」
「うん。どうやら電気とか電波とか関係ないって感じだし」
「…そうだよね。やっぱり、これって通じているんだ…」
今まで意識しなかった理由、それは近くにみんな居たから。
「確か、以前の勇者様たちは五人全員で行動を取っていたと記述があります。ですが…。勇者様のみが扱える魔法硝板、それを使えば傍受不能の連絡が取れます。もっと活用できるのでは、と私なりに考えていたのですが」
「そっか。毒が盛られたって話が本当なら、帝国との全面戦争になるかもしれない。戦争で一番大事なのは情報…。そして僕たちしか使えない魔法の板。僕たちから離れない魔法のスマホ…。リーリアさんじゃなくても、伝承を知っている人なら考えてるかもね」
元の世界の戦争の歴史。情報伝達がどれだけ大変だったか。
そして、この能力だけでもユウの危うさに気付ける。
「…ユウ君もスマホは使える。それで…、巻き込まれてしまった…。ダメ…だよ。ユウ…君も巻きこんじゃう…」
「はい。これは本人にも申し上げたのですが、正直言って作戦の邪魔なのです。」
「リーリアさん‼」
「…すみません。そういう意味で言ったわけでは…。ですが、魔法硝板はどのようにしても勇者の元に戻ってきます。彼が…帝国の手に落ちた場合のことを考えると、どうしても。…すみません。私の浅はかな考えでした」
リーリアもロザリーと同じく、魔法硝板を触らせてもらっていた。
ずっと早くに。だから、ユウの存在が邪魔で仕方なかった。
だが、グループチャットの機能を知っていれば…
「それならグループから外せばよくね?そうしたら、俺たちだけで連絡取れるだろ?ユウはどっかに匿ってもらってさ」
「そのようなことが可能なのですか?」
「えぇ。一度グループを解散して、私たちだけのグループを作れば、その中だけで会話が可能なの」
「…でしたら」
「ダメ‼…だよ。そんなことしたら…。それを…されたら…」
根底にあったのは、ユウを含めた自分たちの早期脱出。
だけど、その為にスマホを持つユウが邪魔になる。
「…分かったわよ。それじゃ、今のは残して四人だけのを作ればいいでしょ?」
「それも…」
「サナ。気持ちは分かるけど、これはユウの為でもあるんだ。大丈夫、黙ってたら分からないって」
ただ、そこで一つの問題が発生した。
仲良し五人組、ユウが加わったのは最後。そのアプリでは表示の順番が最後になる。
加えて、やはり紛らわしくもある。
「作ってみたけど…。俺、間違えてこっちに入力する自信しかねぇぞ。表示オフ…出来たっけか?」
「そうね。通知設定も切らないと、間違えてそっちに返信しちゃうかもね」
このタイミングでサナは長文を入力していた。
辛さを知っていたから、彼女は必死に謝罪を繰り返した。
でも、全てはユウを含めた仲間の為。
「大丈夫よ。バージョンアップで繋がらないってことにしときましょ。サナ、勘ぐられることを書いちゃダメだからね」
「…うん。分かってる」
□■□
パーティの離脱が、グループチャットからの離脱とは限らない。
だけど、ユウの魔法硝板には五人のグループチャットがそのまま残っている。
そして先ほど、レンは頭に血が昇っていたからか、魔法硝板で時刻を確認していた。
それを痛みに歪む視界の中で、ユウはどうにか確認していた。
「まぁ…、よくあることか。アレは俺との連絡を絶つ口実だった。だのに、力は解放されない」
※但し、上記のジョブはユウ本人のパーティ追放後に解放されます。
その意味は四人からの追放という意味だろう。
少なくとも、ユウの意志でグループチャットから離脱する、なんていう簡単なことではない。
「ま、そういうことなら…」
分かっているのは、通信手段がこのアプリしかないこと。
流石に電話会社はないし、この世界に電波塔があるとは思えない。
ユウは指をグループの離脱ボタンの上に構えた。
「…クソ。何なんだよ、これ!!」
親指が直前で止まる。いや、自分で止めた。
そもそもこれが条件かも分からないし、自らの離脱という親指一つで解放されるとも思えない。
いや、ただ怖いだけかも
「レンとアイカの様子はおかしかったけど、二人にはちゃんと伝わったよな。」
レンの気持ちはよく分かる。異世界チートブッパって、やっぱりハーレムものだし。
アイカもナオキもサナだって…
ロザリーを知っているから、尚更分かる。
「分かってくれたなら…」
ロザリーは帰ってこないかもしれない。どうやらレンは彼女が気に入ったらしい。まぁ、分かる。彼女も強い男が好きらしいし。
「なら、お兄様の方を待つか…」
ヨナスだって超優良物件。だけど、選ばれた中でも更に選ばれないといけないらしい。
三次元より少し次元が多いなら、更に一つ魅力項目が増える違いない。
異世界は異世界で大変なのだ。
「今度こそ、置いてけぼりか」
ロザリーのお兄様が引き連れてきた騎兵、彼らと一緒に待っていれば、お家に帰れる。
国外追放されれば、しゃーないしパーティ追放。
その後、チートを引っ提げてパーティ復帰。そんなに簡単にはいかない。でも…、無能力の異世界人は追放も何も関係ない。
あれ…、っていうかさ。俺はなんでロザリーに近づこうと思ったんだっけ?彼女に取り入って、一緒に追放されちゃえばって思ったからで…。ん、やっぱ、これっておかしくない?!
彼女はあの一件を否定しなかった。
「…ロザリーはやっぱり追放条件を満たしている。だったら、どうして…」
全身の総ての毛が立つ思い。
正に…
「…して、やられた?」
ユウの身が帝国軍に渡れば、人質に取られて勇者たちの行動が制限される。
羽交い絞めにされて、首元にナイフを突きつけるとか。
指を切り落として、脅迫文を送るとか。
色んな残酷な方法が先に思い至った。
いやいや、改めて考えたらマジで怖いんだけど、それでも──
「もっと簡単な方法だ。ジャブというか、様子見程度の作戦だけど…。その程度の作戦にまんまと釣られてしまったとしたら…」
考えたくないと思っている自分が、既に釣られているのだとしたら。
「帝国の間者によってヌガート山脈に開放結界と呼ばれる、魔物の通り道を作られてしまった。それは多分、デナン神国が仕掛けたもので…」
それも彼女に聞いたことだから、本当かどうか。
いや、マイマーはクシャラン大公の家臣。そしてデナン神国へ続く道路を領地に持っている。
先のヨナスの言葉でも分かるように、マイマー公はデナン神国とクシャラン大公国と交流がある。
五人召喚したことも知っていただろう。
「…いや、でも。俺があの場でワインを飲んだのって…、大公の…、ベンの?あぁ、もう。何が何だか…」
それでも流石に気付く。ロザリーは自分の魅力を知っていて、勇者の男たちに色目を使った。俺は身分を隠していたけど、勇者の反応で直ぐに気付けただろう。
身分を考えれば、彼女が介抱する必要はなかった。
「人質としてではない俺の使い方…」
帝国側の人間との婚約はあくまで噂、だけどロザリーはソレを否定しなかった。
で、そもそもなのだ。
「ロザリーには、俺の我がままに付き合う理由がない」
いや、今朝彼女が言った。でも、それはそういう意味ではなくて…
Brrrrrrrrr
ここで魔法硝板のバイブレーション機能が作動した。
もう、二度と来ないと思っていたメッセージの通知が来た。
「もしも、彼女がデナ系教会でその話をしたらどうなるか…」
スリープ画面に戻っていたスマホ、今度はグループ離脱ボタンの上に指を置かない。
単にアプリを開くだけ、そしてそこには──
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