3、救出
第14話 悪しき知らせ
先日首都・王宮に帰還して、ソレイユ宮殿の鏡の間で開かれた舞踏会に参加した。あまりの趣向の無さに飽きて、少しだけその場を離れた。
階段の踊り場から窓を見やると、濃紺の空が広がる。空には宝石のような星々が点在していた。
レオンは今年十九歳となる。社交界の華として仮初めの関係に憂き身を
ヴィニュロー公爵家の歴代当主は謹厳な父を除けば女好きの放蕩ではあったが、国王に対する忠誠は篤かった。だが、レオンに限って言えば、国王のロベールに忠誠心を人並み以上に見せることはない。
——テレーズ様をカトライアに嫁がせたお方。
そのほかの王族も、テレーズ様を苦労させていた方々、と心の奥底で判断し、人並み以上の忠誠心が湧かなかった。
テレーズがカトライア王妃になって一年。なんの音沙汰もない。忙しいのだろうか。
この空の向こうで、テレーズが幸福に生きていることを願っていた。
ぼんやりしていると、舞踏というものに一切興味のない父が珍しく、舞踏会場へ向かおうとしていた。だが、レオンを認めるとすぐに「ここにいたのか」と小さく笑った。
「お前に用があった」
「何でしょう?」
放蕩への叱責だろうかと思っていると、父は息子の腕を引き、ソレイユ宮殿ではなく、王の五つの宮殿の一つ、シエル宮殿のある一室へと連れて行った。
そこには老齢のグランシーニュ侯爵と、若いスリゼー公爵が難しい顔をして立っていた。二人はレオンを認めると、表情を緩めた。
グランシーニュ侯爵が、大笑いでレオンの肩をばしばしと叩いてくる。
「やはり殿下をお慰めする綺麗どころがいなくてはな!」
「やめてください。息子を綺麗どころ扱いするのは」
父のヴィニュロー公爵がグランシーニュ侯爵の手を払った。
「あの、何でしょう」
スリゼー公爵に聞いた。この男はテレーズをカトライアにやったために本当に嫌いだが、ここに連れてこられた理由くらいは聞かねばならない。彼は、表情のない顔で答える。
「カトライアのテレーズ王妃殿下が、一年ぶりに母国を訪問され、こちらの王妃殿下と会うために北部のグレイユルに赴かれる予定です」
グレイユル。温泉が湧く以外は大した特徴もなく、テレーズともさほど縁があるとも思えぬ場所だ。はて、と思っていると、意外なことを依頼された。
「テレーズ王妃殿下をお出迎えしていただきたいのです。レオン殿には」
「……は?」
思わず声が
すると、父が肩を叩いてきた。こっそり囁かれる。
「テレーズ殿下はいま、とても歩ける状態ではない。
「歩ける状態ではない……?」
「足が傷つけられ、腕も骨が折れ、身体中にひどいやけどや傷の跡が残っている。お顔にも大きなあざがある。ご懐妊されていたそうだが、流産なされた——」
ご懐妊。レオンはぴくりと眉を寄せかけたが、父が何を話しているのか理解できなかった。
「ご本人は、場所や時間など忘れておられ、ただ『殺してほしい』と、ずっと懇願しておられるそうだ」
「あの……」
「この情報はテレーズ殿下につけた侍従が命からがら持ち帰ったが、侍従は、そのあと、『姫様の悲鳴を忘れたい』と叫んでおかしくなり、とうとう自ら命を絶った」
「……あの」
「他にも、何名かテレーズ殿下につけた女官が、姫様を護れなかったと自責し、命を絶つものや、精神的におかしくなるものが出ている」
「……どういう、ことですか」
父は突如、泡を吹いて卒倒した。スリゼー公爵が後を継いだ。
「姫様はカトライア王から、一年にわたり、非道な仕打ちをされています。また、カトライア王は係争の地であるコンパニュル地方に極秘に何度も赴き、民を虐殺していると」
「すぐカトライアに攻め入りましょう」
感情のままに発言した。それが正論だと未熟なレオンは考えた。だが、「王の賢者」は感情では動かない。
「国王陛下の、妻や他国、民を
レオンは王妃に従い、テレーズを迎えに行くことになった。
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