この父にしてこの息子あり
ランツベルク城の中庭にて。
「お二人のネックレス、お揃いで素敵ね」
ユリウスの母でランツベルク辺境伯夫人であるエマはマルグリットとティアナのネックレスを見てアンバーのを輝かせている。エマの太陽のような笑みに、マルグリットもティアナも緊張が解け表情は柔らかくなっている。
ユリウスから少し準備があるからそれまで待つよう言われたマルグリット。丁度その時都合良くエマからちょっとしたお茶会に誘われたのである。
「はい! マルグリットお姉様が
ティアナはムーンストーンの目をキラキラと輝かせて天使のような笑みを浮かべている。
「ティアナの喜ぶ顔が見たくて、選んでいる時もワクワクしておりました」
マルグリットもティアナへのプレゼントを選んでいた時のことを思い出し、楽しそうに笑う。
「お二人は本当に仲が良いのね」
エマはそんな二人の様子を微笑ましげに見守っていた。
その時、ユリウスの侍従イェルクがマルグリットを呼びに来た。どうやらユリウス達の方の準備が出来たようだ。
(もう少しゆっくりと準備をしてくれても良かったのに)
ティアナとエマとのお茶会の席を立たないといけないことにマルグリットは不満だった。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
「おやおや、ご機嫌斜めだね」
ユリウスは部屋に入って来たマルグリットを見て苦笑した。
「私の可愛いティアナと、あんなに素敵な辺境伯夫人とのお茶会を邪魔したからよ」
ユリウスに対して不機嫌な表情を隠そうともしないマルグリット。
「僕の妻をそう褒めてくれて嬉しいよ」
その隣で紳士的な笑みを浮かべるのはユリウスの父でランツベルク辺境伯家当主のパトリック。
「辺境伯閣下……失礼しました」
ユリウスばかりに気を取られていたマルグリットは、ハッとしてパトリックに礼を
「君は父上に対しては礼儀をきちんとするのに、私に対しては随分と失礼だね」
呆れ顔のユリウス。マルグリットはターコイズの目をキッと鋭くして言い返す。
「私の可愛いティアナに手を出す男に礼儀なんて必要ないわ。大体貴方は粘着質過ぎるのよ。ティアナを捕らえて閉じ込めるなんて絶対にさせないわ」
「ティアナ嬢の嫌がることはしたくないけれど、あんなに可憐で天使のような女性なのだから、やはり一生私の元に捕らえておきたいとは思ってしまうさ」
ユリウスのティアナを想うアンバーの目は、光が消えていた。
「じゃあ仮にティアナに好きな人がいたらどうするつもりなのかしら?」
マルグリットは挑発的な笑みである。
「その時は……」
ユリウスのアンバーの目がスッと冷える。
「その男をこの世から葬り去って、私がティアナの隣に寄り添うさ。ティアナ嬢を苦しめるものや悲しませるものや困らせるものは、私が全て排除する。ティアナ嬢を私以外との関わりを断たせてしまいたいくらい。でも、そうしたらティアナ嬢は怖がってしまうから我慢するけれど」
フッと笑うユリウス。アンバーの目は本気であった。
(薄々とは分かっていたけれど、やっぱりこの男ならこう答えるわよね)
マルグリットは呆れ気味にため息をついた。
「それにしても意外だな。ユリウスが自分の本性を自ら明かすなんて」
パトリックは意外そうに二人のやり取りを見ていた。
「まあ彼女は大丈夫だと思いましたからね」
ユリウスはハハっと笑った。
「父上は耐えられますか? 母上が他の男がさから言い寄られていたとしたら」
「面白いことを聞くね、ユリウスは」
パトリックのアメジストの目がスッと冷える。そのオーラはどことなく魔王のようである。
(辺境伯閣下……この人多分普通じゃないわ)
マルグリットはパトリックから発せられるオーラにゾワリとした。
「まあエマは社交界の太陽と言われるくらいだから他の男に言い寄られるのも無理はないけれど……そういった輩は僕が秘密裏に排除するさ。エマの隣にいていい男は僕だけなんだよ。それから……エマを害そうとする輩はこの世に生を受けたことを後悔させてやらないと」
パトリックのアメジストの目からは光が消えていた。
(……この父にしてこの息子ありということね)
マルグリットは盛大なため息をついた。
「話が逸れたね。ファルケンハウゼン男爵家の人身売買についてだが……」
パトリックがそう話を戻す。アメジストの目には光が戻っていた。ユリウスのアンバーの目にも光が戻っている。ようやく正常になったようだ。
(この親子、本当にどうかしているわ……)
マルグリットは終始そう思いながらも、生家の人身売買の証拠を提出するのであった。
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