マルグリットとオズヴァルトの出会い
マルグリットの悩みの種は増えていた。
ファルケンハウゼン男爵家の両親と兄が最愛のティアナを虐げることにも頭を抱えているのだが、最近の悩みは
(あの男のティアナへの執着心、どうしようもないわ……。お父様、お母様、お兄様とは違ってティアナを絶対に虐げるようなことはしないことだけは信用出来るけれど……。やっぱり私からティアナを奪おうとするのはいただけないわ!)
ユリウス、許すまじという勢いである。
そしてこの日もランツベルク城へ行くことになっていた。
「ようこそ、ティアナ嬢。今日も来てくれてありがとう」
ユリウスはティアナの姿を見るなりパアッと表情が明るくなり紳士的な笑みを浮かべる。隣にいるマルグリットには目もくれず。
「ちょっと、早速ティアナに近付き過ぎよ」
ティアナとユリウスの間に割って入るマルグリット。
「ああ、姉君もいたのか」
少しつまらなさそうな表情になるユリウス。
「ティアナを貴方のような男の所に一人で行かせるわけにはいかないでしょう」
「君は良い加減妹離れしたらどうだ?」
「お断りよ」
いつものやり取りが始まる。
「まあまあ、ユリウス様もお姉様も落ち着いてください。仲良くやっていきましょうよ」
間に挟まれたティアナは困ったように微笑み、やんわりと二人を止める。それがまた天使のようで、マルグリットもユリウスも思わず頬を緩ませるのであった。
「ティアナが言うなら仕方ないわね」
「ティアナ嬢のお望み通り、ここは休戦としよう」
二人のその言葉を聞き、ホッとするティアナ。
「それにしても、いつもユリウス様やランツベルク辺境伯家の方々にはおもてなししていただいてばかりで何だか申し訳ないです。何かお礼をさせていただきたいですわ」
ティアナはふわりと微笑む。
「ティアナ嬢、申し訳なく思う必要は……いや、だったら私がアクセサリーやドレスを贈るから、それを身に着けて欲しい。それが君が私に出来るお礼だよ。うん……君には琥珀のアクセサリーがよく似合うと思うよ」
ユリウスは妙案だと言わんばかりの表情の輝きっぷりである。
「しかし、それでは
ティアナは少し困惑する。
「ちょっと、ティアナを困らせるんじゃないわよ。しかも何さり気なく自分の目と同じ色のアクセサリーを身に着けさせようとしているのよ」
マルグリットはターコイズの目を釣り上げてユリウスに噛み付く。
「君だってティアナ嬢に自分の目と同じ色のネックレスを身に着けさせているだろう。それに、わざわざお揃いにしているじゃないか」
ユリウスはティアナが着けているターコイズとムーンストーンが埋め込まれたネックレスを差す。これはマルグリットがティアナの誕生日にプレゼントしたものであり、姉妹でお揃いのネックレスだ。
「私は別にいいのよ。お揃いのネックレスをプレゼントするのも一緒のベッドで寝るのも一緒に
マルグリットはドヤ顔でマウントを取り始めた。
「あの、お姉様……?」
ティアナは困惑したように眉を下げる。
「湯浴み……女性同士とはいえそれは破廉恥ではないか?」
ユリウスは若干頬を赤く染める。
「姉妹だもの。問題ないわ」
勝ち誇ったような表情のマルグリット。
「まあ今は君に譲るとするか。それより、今日は合わせたい人がいるんだ。特に君にね」
ユリウスは気を取り直し、フッと笑う。
「私に?」
マルグリットは訝しげに眉を
(きっとどうせ
「噂をすれば、彼が来たね」
ユリウスはフッと口角を上げる。マルグリットとティアナは彼のアンバーの目の先にいる人物に目を向ける。
褐色のふわふわした癖毛、アメジストのような紫の目。がっしりとした体格で、整ってはいるが男性的で少し厳つい顔立ちの少年。ユリウスと同い年くらいである。
「ユリウス、もしかして待たせたか?」
「いや、オズヴァルト。時間通りだ」
ユリウスはオズヴァルトという少年にフッと笑みを向ける。
(この人……オズヴァルト様と言うのね。身なりはかなり良いからきっと上級貴族だわ。この男と仲が良いからもしかしてまた厄介な性格の方なのかしら?)
マルグリットは訝しげにオズヴァルトを観察した。
「紹介するよ。彼はオズヴァルト。ノルトマルク辺境伯家の長男で次期当主。私の友人なんだ。オズヴァルト、こちらはファルケンハウゼン男爵家のご令嬢達だ」
ユリウスはお互いにそう紹介した。
マルグリットとティアナはオズヴァルトにカーテシーで礼を
「二人共、楽にしてくれて構わない」
頭上から野太いが優しい声が降って来たので、マルグリットもティアナも頭を上げる。
「ありがとうございます。ファルケンハウゼン男爵家長女、マルグリット・コリンナ・フォン・ファルケンハウゼンでございます」
「お初にお目にかかります。ファルケンハウゼン男爵家次女、ティアナ・ウルリーカ・フォン・ファルケンハウゼンと申します」
「これはご丁寧に。俺はノルトマルク辺境伯家長男、オズヴァルト・リーヌス・フォン・ノルトマルクだ。よろしく頼む」
どこか頼もしそうな笑みのオズヴァルト。
(危険な人ではなさそうね……。いいえ、だけどまだ油断出来ないわ。オズヴァルト様……ノルトマルク卿はあの男の友人だもの……)
少し警戒心を持つマルグリットであった。
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