指先に愛して

洸慈郎

指先に愛して

 暫くして彼に会う。

 理論の提供、対価はそこそこで、片共愛の沼地。

 綻びとその閃きを覆い隠す愚鈍。

 絶叫に似た嬌声と甚だ潤んだ猫なで声、補色のイルミネーションと火花を水晶体越しに観測する。底辺で結った枷を証明する多くの歓声とは無縁の地。劇場のピアノとそのすり替えに用意された断頭台までの道は、その表面を美しく磨き、反射する幾千の粒子は千里一寸共に回顧させる。ミラーシステムの先、渦巻きの逆転構造に飲まれ、自動操縦エクスパンションに従う。

 泡銭、ピロートーク、蚊帳の中と外、その二面性への妄信的盲目。非合理的幾何学模様の放射と斜線、バブルヘッド、本文の改変の拒否。クラシック音楽の愛撫、忘れ去られた空虚な罪、暗転した目からの光線、感情の再詰問、本性の代弁者の沈黙。アルファベット。地震、酔い、気付けの一撃。甲状腺の痛み。柔和色赤、レッテルの残骸、教科書の暗唱、レトロチック煙草、シャンプーよりもきついリンスの匂い、前方で屈む木偶。左耳のピアス。

 右から左に移動し、重心は左右に揺れる。一定のリズムと缶チューハイ。正直者のワルツはスケジュール通り。最初は下手だった台詞の朗読も今ではオウムのように音程も、音階も、テンポも、タイミングも、子音も、有り体のフォルテも、きっと寸分違わずに上出来なコピーとバリエーションを持っている。選定や削除もままならないのに、それはいかにしてガラス越しの説法があったところで、究極的な冗談の一端を知る胸像は鏡面の奥にもいない。津々浦々にも競歩で向かうべきか、この機械的並行に重ねるべき唾液を垂らすか、一睡も曇天も今では麻酔で眠っている。伝統的接触法の遷移によって指圧の道筋を辿る。熱線と過熱が蒸気機関を狂わせ、その回廊の折に個人の私情と夕立に照らされし夜這いとその上官の相違は芳しく目視された。鏡が写し出す。

 数と数を数える。五十の三、四十二の六、五十三の二、三十三の五、六十一の四、四十七の八、五十九の五、三十八の二、四十四の八、四十三の二、五十三の六……。敗戦の数を知ると道中ある絶望の玉が、瞬間的なカオスの渦を鎮痛させる。布と紙が擦れ、実感を摩耗させる。それは客観視であって、誠実な過去視とは最も嫌悪されている。テセウス号の拠り所であるが故に、その内的変化と外的称号のフルカスタマイズは受動態と化したことで、その反復によって最初期の設計図は金庫の中で泣いていることを心から無感情を装う。狂乱した電灯と臀部の合唱は、いつしかの連続映像の末端に接続する。

 家父長制の稲光は眠る捻じれ枝の四次元の分断から映写される現と夢のコンテクストを呼び起こさせ、今一度瞳孔の乖離の果てに逃避と輪唱を想定させる。ダンス、ダンス、強大な三本柱の影の手引き、誘惑とリテラシーの紛争はいつしか画一的な侵略に過ぎず、疑問符に繋がる述語の語彙へ無知である面影には粗削りの倫理観及びエロスの蛇とその毒牙の儀式が行われる。ピアニスト、山、衒学者、その領域は祈りと岸壁の外様であった。開けざる禁書目録の断片の開示。眠りを妨げる痒い傷痕を、再び鋭い爪で耕し、サスペンストリックの再現。

 放映から九十分、その前後に移る産業廃棄物は常に蛆と母なる蠅の礼拝があり、鐘が鳴るのを液状化した雌猫は脳において刻印されている。湾曲と婉曲、戯曲の一小節、リセット、ヴァイオリン、坩堝の堕落、堕天、サクランボ、浄化された湯気、地平線の回転と魚眼レンズの天望、黒い黒い四肢導線の調べ、脱力の上、火男と雑女の二元論、真・誕生日石が割れ鳴る確かな予感に慎ましい第六感。

 鳴り止まない驟雨と弾けた弦の音、霹靂のシナプス信号は今しがた麗しい平静の果汁を脳梁で添えた。ぶるぶると震えたる虚勢、白色矮星の如く秘めたる野望はそそくさと傀儡を賞味期限のパッケージを着せるに至らせ、山車に商品と雑費を積み込み、複眼に反射する標的は祭壇とブラックボックスと彼住まう川辺の三叉に区別された。畢竟を歌えば、川辺への清めを論拠にすり寄って天性の考古学的知見を遺憾なく散髪させ、購入された眷属の処方箋を踊り場に見せかけるがために秘匿すべき精髄の壁の隙間から傀儡たる斡旋を公言した。勘ぐる伝令に生ける衛生兵が一人、まさか幼げな仏性に追随した操作であることはなく、さしずめ脱輪と言われ、どなたか哀れ寵児の恩赦が第三賓客において罷免されるべき観念であることを串に指して同一性の否定に導いてくださいませんか。

 弁証法的剥離の経験が陰に潜む。落下する天井の風向きが洋服のしわを伸ばす。受胎告知の洗礼にシンセサイザーが降り積もる。計上した敷居の歯車と発条に差し出す餌を忘れ、罪を背負う。申し訳程度の粗品はマッチポンプに添乗し、狂わせた文字盤を刻む。焚書の家来。

 承諾の準否定は静かなる梅雨であった。うらぶれた堰の解放、対となる空の混合、網膜から視神経へ、次に運動野と剝がれかけた側頭葉真皮質の静脈、波動する右心室と左心室は心房に崩れ行く大団円のそれと同調するのは、神聖な理性化と圧制された帰巣本能と明日への情動変化の混戦あるいは不動における大滝の湿り気は流刑による。見違える好々爺は、前のように吐かず、失われゆく唾液腺の下腹部に汚染、膨張する空を仰ぐ口腔、静止染みる小判泥塗り天使父性腐敗虚飾低き芥しがらみの便槽の双眼、いわゆる懺悔する下人の凍り、見せるイワン雷帝とその息子の落語。

 ドロリ、一時停止、始皇帝史、フルリ、狂り、クラッカー采配、どれが不実?台風の通過、劣化、最高速、第一歩を踏みしめる足場は?閃き、迷惑し、膠着。動き、動き、動き!愛妻にも酷似する啓発の申し子、わんさか天竺送り、給餌するのは蝶であること、最たる例、宮崎、貴女、分岐する鹿の角と烏合、拡散する浄水の賛歌。ヒラリ、ハラリ、右矢印はその変化を申すABC。積み木積み木、論理計算式の分解、照らす天使の調律にも似た展開、コペルニクス的転回、貴方、綿串、曖昧に溶け合って、流れ、汚れ遠けれ、仕舞いに手仕舞い、踊ろ踊ろしい。鶏の鳴き声の真似、滑稽コッコー。

 これ(笑)です。

 嗚呼、ブルーム!安寧ざる枢機卿!遺志にならざる連弾、高名なミドルペダル!

 一なる一、滞りなく一、それは一、夥しい一、絶景と一、急速な冷却。吾人は遅き話の中、制約と脳内で僅かなる釣り糸を詳らかになる体裁に結び、引き上げ、その残滓から透明な虚心の鈍角を弄り、金字塔の中腹に鎮座する台座に孕んだ人間性を露呈させ、雲裂く黒き手が掬い上げ、まさに脊髄と頭蓋が接続する狭い軟骨の穴から受容体にかけてマグマを流し込むよう強力に、沸々と、駄々、強烈に咲いた冷静の梨花槍。爆裂したのだ。

 アルフレッドパントマイム、アレクサンドラ、裂孔、さんざめく、劈く、フリータイム、ビーチサイド、スーサイド、エクササイズ、処理、適材、検索結果、ウーロンハイ、ホーリー、リバース、ポリエチレン、以下の散布、シャンプー、トリートメントリンス、ボディーソープ、以上の散布、ねばねばとあわあわ、悪寒と冷や汗の応酬に終止符の投擲。とどのつまり、具に軽量解説の駄弁り、アウトソーシングのエラー、事後の時報、化学の立証、効能の検証、天罰の実証、冗漫な権能、それぞれの不可逆的共時性の末路。これこそ回復と呼べる経典の詩人。根も葉もない場回し。

 遺恨忘れるべからず、ソルベにもならない一端の謝意も殺す。肯定すべき発送は先に連想した三角飛びだ。網状の危機感の背後にある指令で動く。動転間もなく、これは恣意的な本懐への不服従であることに、薄々片面も知りえていた。無言実行は手を艶やかな福音か妄言劣勢の袋の二者に伸ばしていたが、その花弁一枚越しに隔てる脆弱性により変遷に帰した。先鞭ばかりな居城へ夕方のカラスとなるに、茫然遥々被さる怠懈の化けることは一種の焦燥を孕み、些かの泥濘を誘致した実演を転写する。崩壊前夜に至る前の、つまりさながら偽証を是正する健忘の解する宣告に血が巡る前の御信心のまま、急進あるのみなのだ。

 美麗、春秋去るは只、介錯の自生とする、故、此の縁は透ける者の善と係らず、示したる計は明瞭なる愚挙。

 窮屈な孤絶の箱、その実をつける脈拍の茎は木板と鉄板の相合いを壁とし、食われるものとなるには一方において循環の支柱となる。しからずんば、紺碧的緑色の電光は轍を敷かずに於いて正と成る。このため、即座に由々しき踵はモラル叛逆を煌めかす。脱兎、詰まらせた五行、それが名刺となるのは稚児の時代より花を知るよりも早かった。ローテーション、上下左右の前後欠如、コンプライアンスが閉じられるその隙間風景を糸を切らすまで法務官の一片も逃すまいと錐状になる。過剰な不審感の世界観構築は留まらず、およそ力学的な鉄鋼の足場と柱と階段が織りなす伏魔殿及び伽藍堂されるパイプ管連結群像に零れる粘性魂魄、情景、この楽譜にない病みネオン灯火は、晒される心象の星雲に類似している。ニーチェの遠近法、キルケゴールの絶望、羅針盤の試金石、一人称を触る人間は肩から下げ、左脇腹へ張り付くようにしてその自重を垂らす無肯定の愛と非希望性の夢、フラスコドラゴンの諸相に並んで朽ち落ちた劣等が入れ込まれた、膨らんだ胃潰瘍のスクールバック。

 下る、降りる、落ちる。鬼や蟲も、犬も立つ沼の地面に等しく縺れて笑うか曲がるかする、そこに逃げ込む。総じて何か秘匿するジェンガの集合と違わない実践は擬態ではなく、端的な単調においてそれを合一や同一と呼ばれる孤独の症候だ。街頭が庇う所を歩く、それも少しゴールテープを先頭で切る速度で。

 目々ンとも離。ガラス、水たまり、電柱の後ろ、路地裏、ごみ箱の口、カフェテリアの窓辺席、見えない車の窓、通りすがった自転車、道を右に曲がった十把一絡げ、広告の女優、描かれたキャラクター、音の出るスピーカー、電話の奥のノイズ、行く鳥、空の奥、マンホールの下、静まったポスト、賑やかな店内、同業者、ペットボトルの蓋の裏、暗い突き当り、服の下、カバンの中、口の中、光のある所、誰もいない暗闇、眼の奥、脳の中、思考の中、心の中、体の内、隣、私の中。

 蠢く目と、目と、声と息と、眼とがそこら一辺にあるのが、こわい。

 千変万化の記号へなる、その互恵関係の諍いは甲乙の消失であるからこそ、誰も化粧をしているのに機械駆動の洗練には猛烈な乱れを現すのは、おそらく別個なる永久凍土の混濁に吹き出しをつけるからであり、その相対は排煙に渦巻く心の共鳴だ。クジラの浮遊する哀憐の同化を上面に載せられた零点を奏者しながら、ひび割れたインターネットカフェの昇降機に背を向けて足を忍ばせ、一畳半のモンスターボックスへ溺水することが昨日喪失のシンフォニーだ。蝶が先に逝く、梱包されたダダイズムの結晶が転ばぬ、尿瓶下がる調和、この見下げられる古巣と根を伸ばす地下諸行の群生は、遠方の霧雨が豊穣に浸る微笑と背面する練炭を行う。貯蓄される往々の腐敗が幾何の砂時計を割っていることは弔鐘の振り手を想い出させるが、この廉価する紫色は後方からの法務官に鳩時計の秒針を感じる。

 蜘蛛の巣に和むは消炎を過ぎ去らずにいるからで、ミニマム女の花瓶浄土は邪魔されない筈と諸刃なく。滔々と、途中、鋭敏する心身の抜本がその受け付けの辺境にある伯爵の凱旋門とは五千年の月日が流れるとし、一丁の思考は次項に逝去されるばかりに至らないと慢心し、徒労した月光に分子伸長する。

 時空間輸送、金平糖、迎える金色の獅子、修道士の変わらずの返礼、見初められた一滴の怪電波、光栄なハルマゲドンの戦い、一連の騒動を憚れる諜報に先んじて動転し、宝石をぽろぽろ布地に食わせ、両手と双肩の悪霊に弁当をもてなす暇をなくし、待望の悲愴を浴びる白亜の摩天楼へ飛び走った。木漏れ日、落とされたインクの開会式だ。群青の彼岸、情報開演の此岸、クレッシェンド苛む、忌避して、弁財天の視点連呼は申し分ない。

 焙煎死、どの音か、うずくまる、痛い痛い、痺れ、宇宙、人工的洞穴に空白の群れ。裏ラ、ウララ、判別凡骨、バッド、バッド、悪い悪い、悪、わわわ、バッドルック、勧善懲悪、幽体離脱、サイコロの電子音、切れる悪劣の虐殺、悪い、たらればヒーローの物語、ヒール、愛にシャドー、くじ引き、口に紅、それら湖の霧、バッド、夢を語る屑、殺意だけの案山子、無抵抗の生産性。全部、全裸、前頭、悪い悪い、行為者なのはいつからの自由で、この16歳の肌は斬られた。

 しんしであれぇ、しゅくぅじょでぇ、あれ!ピックアップの音符を拾え。

 ジュクジュクして、膿を出して、性愛の地平線に忘れられない声を超えて。遊び、遊んで損じて、楽して苦に染みて、何々を頬張る貪欲な野生の瘦せ衰えた皮の下。厚顔無恥は夕暮れの影に潜む。錆びた鉄塔の風下が見える、上空の反響は衆生のイデオロギー汚染によるもので、分離したトートロジーは手の甲に忍ばせる。

 黙り、矢の烈風、娼婦の返上は言い騙す嘘の鱗粉を齎さない実に空虚かつ廃材であり、協和音行進の軍歌、律して、下郎慮る血相は体抱き、うるさい望遠に足が疼く。レトロなデザインは死ぬべきで、死ぬべきで、死んでほしくて、消してほしくて、燃やしてほしくて、朽ちて、どうして、忘れて、忘れて、忘れて。殻に似た防御壁で細胞壁の崩壊には熱が必要なのは小学校の理科で習い、もどかしい苦痛は摂氏に痕残し、誰でもないカラスのフリをする。

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 レイニー、晴れやかな不安に慰められる臨界点、タナトロジーは決壊し、アイロニーの検索結果が白木蓮を汚し、蹴った先入観、終わった連日の泥。医者が言う情報戦に勝ち抜く気概は始めから割られたガラスで、金接ぎも知らなくて友人も白日、空白埋める作業は以上をもって終いで、頭馬鹿で、融けて、座して待つ時間はない。

 これは呪いで、呪縛の類いで、人倫で諭す前に目を潰すことを懇願する。擦りむいた手、滲み出る血の思い出は重なるいつかの多次元宇宙論、もう一人の一人称、枕元に立っては泣いているか、巻き戻しの輪廻は欠けている。

 絶叫、されど目の山、病を消した薬消した言葉を信じて送り出した幼子、うるさい、全て雨よ透過して。

 撃ち抜いた少女を救助して。痛み、軋み、吐息、赤と黒い点に満ち満ちて、財に隠して顔の輪郭、震えるサイボーグ心臓を癌細胞の横道で捨ててきてください。占いをすれば骸骨の顎が音を打つ、小気味良い一拍を打って、逃げて。

 音から逃げて、アキレス腱の劣勢に耐えかねて、言葉尻を聞いていた。その解と階の隙間、コップから落ちたコーヒーの雫、昇華しそうな歪みに独り言を食わす。

 子犬のワルツ、ボレロ、亡き妃の声を想像して、演奏して、混ぜた君の小言、壊れたレコード、捲れた本の栞を直す放課後の合奏、心境、八方に去った。嘘をついて音符を飛ばして、浮いた体の寒さに傷をつけて、持った円盤の刃物は鋭くて、軽い司法解剖の末に辿り着いた問診は、根底に際して不問としたけれど、猛々しい勇者はそのピアノ線で揺れた。

 堂々巡り、これが真実、全てを喪に服して、確信犯の証言の矛盾につまらないと啖呵を切る。先史的来訪は北、転げ落ちた踊り場の花道、参道で遊んだ鼻歌と蘇生は親和性の偽装か、あの神と呼ばれた大海に出航した挑戦は常日頃の聖人が酒を飲んだことの弊害だ。

 ユビキタスの片鱗、途方もなく、中性子は破裂した。慢性化した疎外に辟易した隣人は、翌日になって高架下の檻の中で前身を泣かせた。証拠隠滅。濁った水の横を歩く。

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 銀河鉄道は反芻する、その交差。並ぶ知識人の野次馬は、無知への攻撃となって目を向け、目の焦点、幽霊に戻してと影は言う。線香花火の希望は儚いとして、ここにある飛翔を同等の恋慕と理解して、黒煙の体躯の骨を動かす。発声方法の錬成は簡単で、心の冷静は残夢で汲んで飲み干し、ただ揺られた。

 生きた悪魔の肖像は曇った鏡には写らない。懸命な光芒はそれによく似ている。改めるには遅い眠りは不満足げに視線を上げ、記憶を引っ掻いた。エキゾチシズムは郷愁の紙飛行機の軌跡。流転した刑罰を悟り、G線上で離れる斑点であった愚かな青年は凱旋という再来を果たす。嘲笑が作る裂傷の疼き、濁った積雪の融解は前衛的レガシー。

 怪訝した。傍聴した。瓦解した。その前触れに出逢った。そして肉に潰れて、波浪、殺伐は一方の強襲、鷹の瞳、恐ろしき別種、飛び火が唇に濡れる。舌根は渇く。

 車窓に射する禊を封じる代替品の成り代わりに応じた侮蔑。陵辱する包丁は天使が伸びる自陣転ずる多々良の献身。思想的療法を滅する両腕が圧する真実の開示者。麻痺した雄弁の騒然を絡むカレンダーは刹那の情景送信機。爛れた愛を陰陽に接した楽器を撫でる配偶者の遺灰散布。

 崩れ、崩れ、音も仁も皆は弧に乗せて、詭弁に滑らせ、祭りを迸らせ、雷は鳴って、目に破いて雑巾に曲がれ、内臓を越えて、崩れ崩れ、言われて、演じて、愚図として、歌う。

 役の答弁は過ぎ去り、駅に吐き出した。とても空が広く、害するものは顰蹙を買う世界。受け取られた千鳥足の駒を咥えた猫と、空想的犬を憤然と啄む鶏の群れ。筆先の絵の具が服に住み着いた臭いの充満を再編する。

 旋律と化身に権利が散って、行進し、削られた短針を探しに石を踏む。石積み塔、矯正した樹木、誘われた敷居、十字架のモチーフ、亡くした枷の鍵、風が牽く時間、消えかけの蝋燭。

 懐かしい色が塗られていく。

 およそレールの半ば縺れ、平面の垂直と悪銭は放蕩になった。鳩が飛んだ、冷静に、客観に戻し、駆ける陰る背後を視認。鮮烈の一閃、凶熱は臓腑を掻き乱す。ホロリ、打上がる花弁の吹雪に浴びる筐体は、赤く染まる。意気地無しでも知られない、埃被る童話の一小節に描かれた挿し絵の末路に相応しい。

 吸い出されていく、奪われていく、零れ出していく、風景がブラシによってその色を曖昧にされていく。砕かれたのは何かを知っている。音色奏で、子守唄で、一幕に眠りを与え賜へ。不束な瞼は落ちたか、日暮れか、寝る子を誘う幽鬼の川辺に今立つのか。

 酷く凪いでいる。諦観と黒染めの結集?否、脅かした夢と痛々しい空蝉の黄金律だ。蝶はいつか舞うのと等しく。選言を分け行くと、踞る子はやはり泣いている。それは黙ることを決め込み、喋ることはない。嗚呼、思い返せば知り得る本心をこの際に知る必要はない。名ばかりの絶望は小匙もいらない。

 暗闇、もう、捲る、止まらない文章。

 宙で、その石の上で鍵盤を触る。どこまでも冷える。

 機械の中の幽霊。暗闇の中の踊り子。

 指先が覚えている。君に愛して欲しかった。

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指先に愛して 洸慈郎 @ko-ziro-

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