第3話 クローバーの想い出 其の一
魔法のスティックの先の星がピカピカと光っている。今日はとても天気が良いので、レースのカーテンにぶら下がって日向ぼっこをしていた。窓越しに見える庭に生えている四つ葉のクローバーが風に吹かれて揺れていた。
「あぁ、懐かしいなぁ。絹さん、元気にしてるかなぁ」
ぼくは綿菓子のような雲がゆっくりと流れる空を、首をうんと持ち上げて見上げた。絹さんは、とーっても可愛いおばあちゃんだった。
「さてと、お茶でも飲みながら、カステラでも食べようかねぇ」
絹さんの独り言が今日も聞こえてくる。仏壇のお鈴のクッションに座っていたぼくは、急いで仏壇からずりずりと落ちて行く。初めてカステラを食べさせてくれたのは、絹さんだった。
「よっこらしょ」
絹さんは、一年中出しっぱなしのこたつに置いてある座椅子に座る。可愛いいピンク色の湯飲みから、ひとくちお茶を飲んだ。
「こりゃ、高級品だわ!」
絹さんの声がいつもよりも少し高い。ぼくはてくてくと歩き、絹さんの膝の上を目指して歩く。まぁ、そんなに急ぐ必要はないからね。絹さんのエプロンに掴まって、よいしょっとよじ登っていく。
「あらー、明日は雨が降るのかい。買い物は今日行っておかないといけないねぇ」
いつもの絹さんの独り言だ。絹さんには『木綿』という双子のお姉さんがいたんだけど、数年前に病気で亡くなってしまったんだ。たまに喧嘩をすることもあったけど、いつも仲良くテレビを見たり、一緒にご飯を作ってテーブルに座る時は横に並んで座っていた。
二人とも旦那さんがいたんだけど、戦争に行ったままで二人とも帰ってきてはいない。
「いつかひょっこり帰ってきてくれたらなぁ」
「いつかひょっこり帰ってくるでしょうよ」
たまに二人で仏壇の前に座っていたっけな。瞳から涙がぽろりと溢れたら、ぼくはピカピカ光る星のスティックをもって肩までよじ登っていくんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます