第6話 世紀末の騎士団
「見えた、あのビルの屋上だ」
西後西は
ビルの前にドリフトで各々が停まる。すると、西後西の隣にいる黒騎士が騎士団全体へと号令をかける。
「久しぶりの室内戦だ! 各々己の剣を抜けえいッ!」
「うおおおおおおおお!」
銀の甲冑に身を包んだ騎士団は吊り下げたロングソードやグレート・ソードなどを掲げ、号令に呼応する。15人ほどの騎士団はここが怪異渦巻く厄災の中心とは思えない叫びをあげる。
「さあ、世紀末の騎士たちよ! 我が盟友にして好敵手の敵を、一匹残らず殲滅せよ!」
「うおおおおおおおおお!」
騎士たちはビルの中へと勇猛果敢に突撃してゆく。
西後西はショットガンを持ち、
「……いいのか、ここまでしてもらって……俺の名前も、所属も知らないだろう」
「この場所で『信用に足る恩義』を得ることは難しい……好敵手を得るのもな……。だが貴様は我が命を見逃した……それは貴様の信念による行為でもあり、貴様が今、助け出そうとしている仲間を想っての行為でもある筈。そのような仲間意識を持つ人間は……我輩にとって『信用に足る』人間だった。それだけよ……それとも我輩の見立ては間違っていたのかな?」
――相当イカレた格好と言行ながら、人間としての【芯】はある……と言ったところか。怪異に対する攻撃の躊躇の無さと同時無さ、この場所への順応度……おそらくはそこそこ古参の組織だろう……厄介ごとが増えそうだが……今は考えている暇はない。
西後西は
「……俺の名前は『西後西沼男』。拝み屋だ」
「フフン。我が名は『サー・ツーリング・万次郎』……ツーリング・万次郎卿と呼びたまえ」
西後西は呆れ顔でビルへと向かう。
「行くぞ、万次郎卿」
「おうよ!」
すでに騎士団は五階建てのこのビルを三階まで占領していた。ビル内は予想以上の怪異の数。だが、騎士団の面々は素人ながら躊躇いのない剣技と集団戦術、そして恐るべき執念にも似た捨て身の突撃により怪異たちを切り伏せていった。
四階へと昇るべく、騎士団は階段へと詰めかける。
「なんだ、これは……」
騎士団の一人が驚く。階段は天井のコンクリートによって不自然に塞がれ、上へと繋がっていない。騎士たちは階段を上りそのコンクリートの天井をロングソードでつついたり、殴ったりしているがびくともしない。完全なコンクリートの壁だ。
「団長! コンクリートの壁が……」
西後西が騎士団の面々の間に入っていく。
「俺がやる……少し退け……危ねえぞ」
西後西が回復し続けた霊力の一部を掌に集中する。
その手で天井に触れる。
――これは……四階部分、全てが完全に鉄筋コンクリートになっている。四階部分の中心にいる球状の怪異が根源か?
面倒な……だが、行くしかないな。
西後西は掌に溜めた力を解放すべく、奇妙な言葉を唱える。
「さゆーる なるしゅうぃ れすぱぶりっく すうぉぼにき すぷろてぃあ なうぇき べりかや るーし……破ァッ!」
『ドガアアアアアアアアアアン!』
轟音と共に西後西の掌から波動が放たれ、最上階にまで貫く半径五メートルほどの大きさの穴を開けた。
「あれがコアか……!」
西後西は穴を駆け上り、露出した青白く光る球体へ掌を向ける。
「!?ッ」
『ドガガッ』
コンクリートがうねり、針のような形になって西後西の身体へと突撃していった。
「破ァッ」
『ドシャァアアアッ!』
西後西は掌をコンクリートの針へと向け、衝撃波を発して破壊する。
「クッ……」
『ズズズズ……』
穴を構成するコンクリートの壁が西後西へと迫りくる。あの直径三十センチ程度の球体はこのビルの全てを操っているのだ。西後西は両手を広げてコンクリートの壁の動きを衝撃波により止める。
そこへ間を縫い、駆け上る黒い影が現れる。
ツーリング・万次郎卿である。
「ぬううううんっ!」
『ドガァアンッ!』
彼は即座にレバーアクションショットガンを球体に叩き込んだ。球体は破裂したようにバラバラに裂ける。
「ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
断末魔をあげる肉片を踏みつけ、直ぐに振り返り西後西へ手を差し伸べる。
「さあ、屋上はすぐそこだ」
西後西はその手を掴む。
屋上ではTEロボが西後西たちを待ち構えていた。その背後には捉えられた広印が車体に括りつけられている。
「だ、旦那ぁ……なんでアタシなんかを……」
「借りがあるんでな……さっさと解放してやる。……行くぞ!」
「うおおおおおおおおお!」
騎士団は各々の武器を掲げ、TEロボへと向かっていく。
「標的多数。多正面戦闘モード作動」
TEロボは大量の腕を生やし、鋼鉄の騎士たちに向け殴りつけ、銃撃を行い、炎を放つ。
「破ァアッ!」
西後西は炎と銃弾を衝撃波により吹き飛ばす。
「ははははははぁ!」
『ダァアアアン!』
万次郎卿は黒鋼の鎧ながら機敏に動き、レバーアクションのコッキングを器用に片手で行ってロボの装甲を壊してゆく。
だが、ロボの装甲はすぐに修復され、更に、屋上にある金属ゴミなどがロボから伸びるコードに絡めとられ、吸収し、体積を増やしてゆく。
「このままでは埒があかんな……!」
「……? なんだ、この音は……」
『バラバラバラバラ……』
西後西が空を見上げる。そこには二つのプロペラを持つ無人機『テスラ・オスプレイX』が滞空している。それは、飛空艇と呼ぶべき大きさであり、機体下部のハッチを開き、TEロボの真上に移動してきている。
「人質を逃がすことを優先しろ! このままでは逃げられる!」
「おうよ、食らえ鉄屑!」
『ダァアン! ジャキッ ダァアン!』
万次郎はTEロボの足回りを攻撃。さらに騎士団員たちがその傷を開くように攻撃を続け、隙を作り出す。西後西は車体を駆けのぼり、背後へと大胆に回り、広印の足に括られたロボットの外殻へ掌をかざす。
「ごすぽでぃ! ぽもぎ みゅ うぃずぃすれでぃ えとぃ すみぇれとのい りゅぶうぃ……破ァッ!」
『バキィイン!』
拘束は解かれた。広印はそこに留まり何かを懐から取り出す。
『ドガァアアン!』
「ヌグウゥッ!」
騎士団は複数の腕から放たれる打撃と銃撃、火炎放射に撒かれ、引き下がる。
西後西はその動きを見て広印に向かい叫ぶ。
「……っ! 一香、早く降りろ!」
「はいっ! 今、行きます」
二人は車体から飛び降りる。
それと同時に、車体は飛び上がり、上空のオスプレイへとワイヤーを飛ばす。
だが、それだけでなく、TEロボは西後西と広印にもワイヤーを飛ばし、絡めとってしまう。
「くっ……! 腕がッ……」
しっかりと拘束された西後西は霊力が不足しワイヤーを着ることができない。
だが同じく拘束された広印は落ち着いて語る。
「ダイジョブっす……ただ、落ちるん出来を付けてください……!」
「何……?」
『ドガァアアアアアアアアアアアアン!』
突如TEロボは内部から爆発。衝撃により二人はビルの屋上へと叩き付けられる。広印は拘束を解かれた時点でTEロボの内部に爆弾を『食わせて』いたのだ。
広印は起き上がり、西後西へ手を差し伸べて語る。
「ケヒヒ……いつも爆弾を持ち歩いていて正解でしたね……」
「……物騒なものを……だが、助かった。また借りだな」
西後西は立ち上がる。広印は周囲の騎士団を見て西後西へ訊く。
「ところで旦那……いつの間に『世紀末騎士団』と仲良くなったんですか? ……こいつら、地下歩行空間でウチの組とずっとやり合ってる組織っスよ?」
「……何?」
(続く)
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