第5話 最強の助っ人! 激突、西後西 対 TEロボ!

 『テスラエレクトロニクス』……CEO『アーロン・デスマスク』率いるアメリカ一番の産業企業。電化製品、最先端機器、産業機械、輸送機械、ロケット技術など、アメリカ合衆国のほとんどの先端産業を実質的に支配している極大企業メガコーポである。噂では軍需産業にも手を伸ばしているとされていたが、ここにあるのは正真正銘、『テスラエレクトロニクス』の軍事ロボット……言うならばそう、TEロボである。


 『Voooom……』


 空中より飛来したそれは地面に着地する。地面に立つ姿はまさに戦闘車両。だが車体に人の乗るハッチや入口、窓は無く、あるのはモノアイのようなカメラが覗く窓のような奇妙なくぼみだけである。


 『モード:バチ殺しの起動を確認。虐殺を執行します』


 有料機械音声による宣言が流れ出し、重機のようなこの機械が動きを開始する。


 「旦那ッ危ない!」


 ――流石は機械、殺気もなく、素早いッ!


 『ドガガガガガガガガ……』


 右腕のマシンガンが作動し正確無比な照準で西後西を撃ち抜く。だが、西後西はその儀式済みの強靭なコートにより銃弾を幾つか受けるとも、傷になることはない。

 西後西は刹那、霊力を両手に集中。衝撃波を発射する。


 「破ァアッ!」


 『ドガァアアン!』


 その衝撃波は反作用により西後西を上空へ跳ね飛ばす。また、西後西は空中で、両手から幾度か衝撃波を出し、空中で移動。

 それに呼応し広印もETロボへ弾幕の隙間を縫い進撃を開始。

 流石のETロボと言えど広印の動きへの対応、そして空中を進撃する西後西の行動を同時に対応することは不可能。

 ETロボは左腕による火炎放射を敢行。広印への対処を優先した。

 広印は火炎放射を避け、ETロボの背後へ廻る。

 その隙に西後西はETロボ車体上部への攻撃を狙う。


 西後西は般若心経めいたリズムで謎多き呪文を口ずさむ。


 「ZゼータZⅡゼッツーZZダブルゼータ、アニメじゃない! アニメじゃない! ……破ァッ!」


 西後西の頭部からピンク色の光線が凄まじい勢いで発射される。その光線は前の術とは一線を画す高級かつ甚大ハイ・メガな光線である。


 『ZAP! ZAP! ZAP! KABOOOOM!』

 

 大技を前にETロボの車体上部から後方に掛けては破壊し尽くされ、爆発。

 だが、何たる超技術かETロボは自己修復をし始める。

 火炎放射は続き、一瞬止まったマシンガンによる牽制もすぐに修復され再開され、西後西は空中で再び防御を強いられる。

 しかし、そこへ広印の攻撃が差し挟まれる。


 「ケッヒャァアアッ! バラけろやッ! スクラップがッ!」


 『ドガガガガガガガガッ!』


 西後西のレーザーにより装甲の破壊された配線剥き出しの車体後方に広印は入り込み、内部から配線、機器を破壊するナイフの連撃を繰り出す。ETロボの両腕は機能を停止。モノアイの光も消える。

 すたりと西後西が地面に降りる。


 「……こんなのもこの街にはよく出るのか?」


 広印は車体後方から顔をのぞかせ答える。


 「ここまでの大物は久しぶりっス。でもよくテスラのロボは来ますね。新兵器の実験場でもあるんスよ。ここは。対人実験が容易なんでね……」


 西後西は周囲を見渡す。

――さっきの怪異とコイツのおかげで他の怪異は近づいてこないようだな……あとは、指定されたビルの一掃……か。


 「指定されたビルは何処だ?」


 広印は車体に乗りながら交差点の先のビルを指さす。


 「あそこっスね」


 『GRAB!』

 

 TEロボの車体自体が変形し、広印の両足を固定した。


 「破ァッ!」


 すかさず攻撃を行う西後西だが、TEロボの走行には無意味。

 TEロボはフレームの概念すらない変形によりその腕を六本に増加し、キャタピラ部分を無数の脚部へと変形させた。これがテスラ社の超技術を利用した軍事平気だというのだろうか。

 TEロボは日本の腕を西後西の方に向ける。その腕の先には三本の指のような部品とその中央にある銃口のような……いや、これは火炎放射器である。

 西後西はすぐに後方へ衝撃波を利用して跳躍。

 少々の炎がコートに付くがそれを振り払う。その隙にETロボはその無数の脚部を動かし西後西の目の前から消え去ってしまった。


 「クソッ……早い……!」


 西後西はロボを追い、駆けだす。しかし、直ぐに無数の怪異が彼を囲む。彼の消耗と孤立を察した怪異たちが、数による攻撃を仕掛けたのだ。

 ――全く。ザコが集まり過ぎている。この土地では大技を使って以降も命がけか……。

 タコのような怪異が西後西の四肢に向け触手を絡めようと伸ばしてくる。西後西は衝撃波を掌から飛ばすことで触手を炸裂させ破壊してゆく。だが、他の怪異たちも同時に攻撃を行う。腕に触手、足、剣に槍、銃弾のようなものまで飛んでくる。

 このままではジリ貧の果て死は必至。

 西後西の頬を剣がかすめる。衝撃波の威力も少々落ち始めている。

 ――起死回生の一手……何か、ないか……怪異が多すぎる。


 『ブォオオオオオオオオオオオ……』


 周囲に幾つものエンジン音が鳴り響く。この静寂の死都に、似つかわしくない喧騒だ。


 『ドガァアアアアアアアアアアアッ!』


 怪異の壁を、無数のランスが貫く。

 そのランスを携えるは、バイクに跨ったフルプレートアーマーの騎士たち。更に西後西の隣を走り過ぎるのは四台のバイクによって牽引される『戦車チャリオット』であった。バイクのハンドルを手綱によって制御する御者の隣には、バケツ型の黒い兜を付けた、全身黒鋼のアーマーによって守られ、レバーアクションショットガンとロングソードを携えた騎士がいた。

 彼は大胆にも西後西の前に飛び降り、周囲に残る怪異をショットガンにより粉砕。さらにロングソードによって叩き切り伏せた。

 西後西も残る怪異を衝撃波により爆裂させる。


 「破ァッ!」


 山のように連なっていた怪異は一掃され、代わりに西後西の周囲には爆音を掻き鳴らしバイクを駆るフルアーマーの騎士たちが円を描くように走り回り囲っている。


 「……」


 西後西は黒い甲冑に身を包むその騎士を見てすぐに察する。

 ――先程の立ち回り、剣技、身体運び、全てを見ればわかる。素人だ……だが、ただの素人ではない、迷いがなく、無軌道で乱雑なその行動は時としてプロ以上の爆発力を秘めている。

 西後西は口を開く。

 

 「助かった……ありがとう」


 騎士はくぐもった声で返答する。


 「フハハハ! 何、良いのだ、この地上では怪異に囲まれることもある。単身での任は重々気を付けることだな……さて……」


 騎士は自分の腰の方をまさぐり、何かを取り出す。

 手袋だ。

 彼はそれを西後西の足元に投げる。


 「決闘と行こうか。強き者よ」


 「待て、俺は……」


 有無を言わさず騎士はショットガンを捨て、ロングソードを振り上げる。


 『ガキィイン!』


 西後西はロングソードの刀身をその黒革の手袋を嵌めた手で掴む。衝撃波によりロングソードの勢いは殺されている。


 「ヌウウッ!」


 「話を聞いてくれ。俺の仲間の一人が、ロボットに連れ去られたんだ。俺は奴を今すぐにでも追わなければならない。……決闘を中断してもな」


 黒い騎士はその剣へ力を籠める。西後西の腕力と霊力に競り勝とうというのだ。


 「騎士に二言なし。決闘に不利有利なし。ただ死に場所を定めるのみ!」


 『ギリギリギリギリ……!』


 西後西の霊力は削られたといはいえ健在。だが、この騎士は気迫と狂気的な妄執、そして自らの膂力によってそれを圧し始めていた。


 ――なんという……執念。俺と会ったのは初めてだというのに……。コイツの執念は……勝利への妄執? 違う、コイツは……勝利などではない。戦いへの飽くなき悦び。それがコイツの本質か……!


 『バキィイッ!』


 西後西は一気に掌の衝撃波を解放し、ロングソードを圧し折り、もう片方の掌で奴の兜を掴む。


 「……さあ、殺せ。騎士の名誉だ」


 「……」


 『ダァアン!』


 西後西は衝撃波により騎士を後方へ倒すと、直ぐに踵を返して広印のいるであろう方向へと走り出す。


 「待て!」


 倒した騎士の声によりバイクが西後西の進行方向を阻み停車する。

 

 「……相当お困りのようだ……良かろう……我らが貴様に手を貸す。……今回我が命を『救った』よしみ。借りを返すだけだ」


 西後西は帽子の下で笑う。

 

 「協力感謝する」


 二人は戦車チャリオットに登場し、バイクの騎士たちを伴って。目的のビルへと進撃を開始した。


(続く)

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