遠眼鏡越しの帝国

飛水 遊鳳

遠眼鏡越しの帝国

 高名なる平原に集結したる馬匹と兵士の数々。

 カービン銃を肩に縦掛けにして、伍長ごとに作戦集会をしている兵士らと、その傍らで前掻きをしたりの駿馬たち。

 人馬隔てなく、帝国創始から連綿と受け継がれる騎兵文化の誇りを昂々と持ち合わせ、そこに立っている。

 平原は周囲に高地に囲まれ、戦術上難ある地域ではあったが、何よりも帝国騎兵連隊の進撃だという一点でこれを克服せしめんとする様であった。

 軍帽の顎紐をきっちり閉め、帝国第一の部隊であることを象徴する規律は、戦地でも決して揺らがないのだ。

 誰もが自分に弾丸が当たることは無いと考えているのか、あるいは当たっても斃れはしまいという気持なのか、些かの恐怖も感じさせず。

 時は満ち、兵士が軍馬に跨る。

 分隊ごとに散在した馬群は今や一丸の戦列を成して、前線を体現した。

 サーベルが抜かれ、カービンは腰だめに構えられる。

 あとは押し進むのみ――

 指揮官が、塵煙の最中にも眩いラッパを掲げ、吹いた。

 最前の馬の前脚が俄かに持ち上がり、それが波のように戦列に波及して、喊声が鳴り響いた。

 

 私は遠望していた円窓を目から離し、手を掲げる。

 先んじて此処を飛んだ偵察機を、彼等は見ていた筈である。

 もはや隠しもされなかった配備を、彼等は知っている筈である。

 それを、彼等は何を思って駆けているのだろうか。

 相容れぬ帝国の威容に、私は手を振り下ろした。

 

 

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