第5話 マスク

 倫健と結依は、久しぶりに仕事終わりに会った。結依が、弾けんばかりの笑顔で近付いてくる。倫健は、逢えて嬉しかったのに、恥ずかしそうにしている。二人はテラス席のある開放的なレストランを選んだ。飲み物と食事を頼んだ。マスクは外さない。


「リモートとは違うね」


「うん、淋しかった」


「ゆい、プレゼント」

と言って、綺麗な袋に入れたフェイスシールドを渡した。


「のりたけ、私もプレゼントあるの」

と、可愛い袋を渡した。


「一緒に開けよう」


「ええ」


「手作り布マスクを作ってくれたんだね」


「のりたけも、手作りフェイスシールドね」


「食事にいいかなと思って、僕のも作ったんだ。今日一緒に試そうよ」


「ええ、考えること同じね。フェイスシールドありがとう。布マスク3枚だけど、改良の余地あるから、言ってね」


「僕も嬉しいよ。ありがとう」


 二人は、よく見る夢の話をしたり、明るい未来の話もしたりして、時間を過ごした。



 倫健の見る夢は、変わって来た。「ウイズコロナ」から社会の在り方を考え始めていた。


「ウイルスと大災害は、人間の在り方が問われている。


            地球

                                                                                                         

      土                             

               土                    

 也      王                 土         

            也     王                

      求                也      王

               求                    

                           求

 


 中国のノストラダムスと言われている劉基(りゅうき)は、様々な予言をしている。中国では、コロナ禍で三峡ダム崩壊の不安や大洪水、蝗害(こうがい)、米中経済戦争前夜と数々の災難が押し寄せてきている。そんな中、『焼餅歌(シャオピングー)』が不気味に物語っている」

と、ささやくオタク君がいた。


「いま、自殺者が多いと言われ、コロナ対策か経済優先かと問われるが、コロナ禍にあって両方の問題を解決しなければならない。精神が弱っていたり格差で困っていたり、社会に問題があるのをないがしろにしていいはずがない。人数で何事も考える世の中が、一人の人間を軽視している傾向がある。人間を販売先や労働者としか見られない経済至上主義が世界を混乱させている。

 先進国の人口が半減し、発展途上国が増大し、現在の世界人口約77億人から2050年には約97億人に達するとの見通しが明らかになった。そんな中で、今世紀末では約88億人に減少するという予測を、米ワシントン大学の研究チームから発表された。

 生まれて来て、幸せを感じられる世の中にしなければ、豊かな地球とはならないと思う」

と、聖職者が言う。


「経済至上主義の究極が、共産主義の超巨大国家企業だったとはね。コロナ禍で株式市場は下がらない。日本は、マイナス金利でアメリカは0金利だ。市中に流れたズブズブの資金が、世界中の金融市場に向かう現状に人間は麻痺している」

と、経営コンサルタントは言う。


「収入が減少した世帯への30万円給付が、全国民への一律10万円給付に変更された。約12兆円をかけての支給だった。お金の感覚がおかしくなっている。しかし、この先、コロナ対策で、100兆円ぐらいかかるので、腰を据えて対策に臨んでほしい」

と、大企業のCEOが言った。


「国レベルでは、独裁化が進んでいる。『政治は国民を映し出す鏡』と言われているが、国民以上の政府は求められない。しかし、唯一、国民一人一人の1票が、政治を創って、変えられる。他国の不正選挙とは違うのだから」

と、中小企業の経営者が言った。


「新自由主義が唱えられ、自助ばかりが要求され、公助をするはずの国は何もしてくれない。国民は実力主義の中で、格差が広がっていく。人間は慣らされ、忘れ去り、考えを変えられても気付かない。ぬるま湯から、高温に変えられても、動き回っているそんな国になってしまうのかなぁ」

と嘆く、フリーター君がいた。


「コロナから解放されたら、たくさん楽しもうね」

と、倫健が結依に言うと目覚めた。


 そして倫健は、結依と一緒にこのコロナ禍を支え合って行こうと思っていた。



 首相も変わり、大きく変われるのか。入国制限緩和が10月から始まるが、水際対策次第では日本もイギリスやフランス、イタリア、スペインクラスのコロナ拡大になるのか。あるいは、ドイツのように持ちこたえられる政権なのか。

 2020年7月豪雨災害で、コロナのため県外ボランティアを断った被災者を考えると、政府が簡単に自助という言葉を使ってほしくない。同調圧力、自粛警察などに頼って、7か月経ってもPCR検査が増えてこない。これは恐怖でしかない。


               人間

                                                                                                         

     人                             

               人                    

 門     日                 人         

            門     日                

     間                 門     日

               間                    

                          間



 2023年5月8日から、新型コロナウイルス感染症の位置づけは「5類感染症」になった。2023年1月前後の冬の第8波の流行を大天井に、3月には下火になったかに見えたが、8月には第9波が訪れ、11月を底に2024年に入り第10波が訪れている。大底は、まだ見えてこない。コロナ禍は、もう過ぎたような機運だが、流行期ではマスクをはずしていいのか不安が続いている。

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ゲシュタルト崩壊 本条想子 @s3u8k

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