第49話 長閑な時間はごく僅か
「……お前さん、凄まじい経験をした自覚はあるのかい?」
サンダルフォンがさらりと語った内容にイフティミアは困惑の表情を見せる。
「白銀の司……上位の精霊に実力を認められて祝福された、なんて歴戦の英雄でも滅多にしない経験の一つですからね。研究者たちがこの話を聞いたらどんな顔をするのやら……」
「面白いことになるのはまず間違いないだろうね」
「そう……なのか……?」
「実際どうなるのかを確かめたかったら無事に帰ってきな」
戸惑うサンダルフォンに対してイフティミアが優しく語りかける一方、ユスフは窓の向こうを見据えながら思索に耽る。
「それにしても女王吸血鬼が上位の精霊を配下に加え……いや、同盟関係でも結んでいたのか……?どんな条件で……いやそもそも……」
「……さっきから一人でブツブツ言ってるみたいだが、放っておいて良いのか?」
「良いんだよ。臆病風に吹かれて短絡的なことを言ったり、頭を抱えたまま同じところをぐるぐる歩き回ったりするのに比べたら何倍もマシだからね」
「そ、そうか」
思案に勤しむユスフを一瞥した後、イフティミアは肩を竦める。
「それはそうとお前さん、次の場所にはもう移動したのかい?」
「ああ、さすがに凍えそうだったからな」
「今度はどんなところに飛ばされたんだい?」
「塔の前だ」
一瞬目を見開いた後、イフティミアは口元に指を当てる。
「……人狼の軍勢が塔を拠点にしていた、なんて話を聞いた覚えがあるね」
「用心するに越したことはないってことか」
「今に始まったことじゃないけどね」
「それもそうだ」
光が消えたブローチを懐に入れた後、サンダルフォンは塔を見上げて溜め息を吐く。
「単に登るだけでも苦労しそうだってのに、人狼の軍勢を相手取ることも考えなきゃいけないのかよ……」
「キツいと思ったら大人しく逃げるんだよ。婆も少しは手伝ってやれるようになったしね」
「一層頼もしくなったな」
軽口を叩きながら塔に入ったサンダルフォンがまず目にしたものは崩れかかった石造りの階段だった。
「……サン坊、足に自信はあるかい?」
「階段が崩れる前に登り切れる自信はさすがに無いな……」
「なら婆が手助けしようかね」
「どうやって?」
「こうするのさ。"凍てつけ"!」
テスタメントがそう叫ぶと周囲に冷気が立ちこめ、瞬く間に階段を氷で覆っていく。
「どうだい?これで崩れる心配は無くなったよ」
「……滑る心配が増えたんじゃないか?」
「その点は抜かりないから安心しな」
万が一を警戒しつつ、サンダルフォンは氷漬けの階段を慎重に上り始めた。
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