第48話 真白き冬は何見て笑う
「……またこいつらか」
くすくすと笑いながら飛び回る氷の精霊たちを睨み付けたままサンダルフォンは双剣を抜き払う。
「お前らと遊んでる暇は無いんだよ!」
冷たい吐息を吹きかけてくる氷の精霊たちを容赦無く切り捨て、双剣を鞘に納めるのと同時にサンダルフォンは走り出す。
「……まだ追いかけて来るか」
「これじゃあ埒が明かないね」
「炎の中にでも放り込んだらさすがに懲りるか?」
「おやめ、そこまでやったら精霊の恨みを買って死ぬより酷い目に遭うよ」
「それは……嫌だな……」
テスタメントに嗜められたサンダルフォンが顔を顰めたその直後、足元の雪が突然隆起する。
「っでぇ!」
「──おや、久方ぶりに感じた命の熱は人間のものだったのか」
隆起した雪は瞬く間に白い狼へと姿を変え、尻餅をついたサンダルフォンを悠然と見下ろす。
「成程、ぬしがモーリエの狩人か」
「……だったらどうした」
「一つ手合わせを願おうかの。ぬしがあやつの、パンフィリカの望みを叶えるに足る存在かを確かめるためにも」
「拒否権は……無さそうだな」
立ち上がって身体についた雪を払い落とした後、サンダルフォンは再び双剣を抜き払う。
「お手柔らかに頼むぜ、雪の狼さんよ!」
そう叫びながら斬りかかってきたサンダルフォンに対し、白い狼は余裕に満ちた笑みを浮かべる。
「勢いがあって結構結構」
前脚に刻まれた切り傷を暫し眺めた後、白い狼はその傷を緩やかに塞いでいく。
「……嘘だろ」
「相手は氷の精霊を統べるお偉いさんだよ。向こうが出した条件を満たす以外にこの場を切り抜ける方法は無いと思いな」
すっかり元通りになった前脚で雪を踏み締め、白い狼は軽く唸る。
「さて、次はこちらから行くぞ」
そう告げるや否や、白い狼はサンダルフォンとの間合いを一気に詰めて口を大きく開く。
「っ!」
声を発する余裕も無くサンダルフォンは横に跳び、白い狼に噛み千切られる危機を間一髪のところで回避する。
「蛮勇に走ること無く護身を選択する冷静さ、我は高く評価するぞ」
「……そりゃどうも」
雪まみれの状態で立ち上がり、サンダルフォンは双剣を構え直す。
「うむ、気が済んだ。褒美をくれてやろう」
そう言って白い狼が前脚を軽く上げた瞬間、サンダルフォンの腰に提げられた護符が青い光を放つ。
「これはまた、とんでもないものを寄越してくれたねぇ……」
「何がどうとんでもないのか分かるように説明してくれ」
「氷雪の魔法が使えるようになったんだよ、あのお偉いさんに祝福されたお陰でね」
「それをどう使うかはぬしらの判断に委ねよう」
「……ええと、つまり?」
「この勝負はこっちの勝ちってことさ」
いまいち理解が追いついていないサンダルフォンが首を傾げる一方、白い狼ははっとした顔をする。
「おおいかんいかん、大事な物を渡しそびれるところだった」
唐突に現れた花弁が掌の上に乗った瞬間、サンダルフォンの脳裏に見知らぬ光景が過る。
「モーリエの狩人が来たらその実力を測る、そこまでは良い」
「では何が不服なのだ?」
「他の人間が来た時の対応は如何様にすれば良いのかを知りたい」
「……無視して構わん、其奴らの対応はラジアンが請け負う」
「そうか」
深い溜め息を吐いた後、パンフィリカは踵を返す。
「与えた務めを忘れるでないぞ、
「──その様子だと垣間見たようだな。我とパンフィリカの過去を」
「あ、ああ」
「ならば仔細な説明は不要だな。先へ進み、残りの花弁集めに励むが良い」
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