第45話 容易く滅せぬ忌まわしきもの
「中々良い滑り出しじゃないか」
サンダルフォンからの報告を一通り聞いた後、イフティミアは笑みを浮かべながら称賛の言葉を口にする。
「その花弁は恐らくパンフィリカの欠片だよ」
「欠片?」
「いくつあるかは分からないけど、全部集めて花瓶に入れれば復活する……そういう魔法をパンフィリカは自分にかけたんだろうさ」
「……それはつまり、女王吸血鬼はまだ生きているということですか?」
青褪めた顔をするユスフが投げかけてきた問いに対し、イフティミアは首を横に振る。
「死んではいないが生きてるとも言い難い、極めて曖昧な状態で踏み留まっているってのが正確な表現だよ」
「……なぁ魔女さん、この花弁を一枚ずつ潰していけばパンフィリカを復活させずに魔城を消せるのか?」
「そうですよ!それで何とかなるなら──」
「やめておきな」
たった一言、制止の言葉を告げられただけでユスフは氷漬けにされたような感覚に襲われ口を噤む。
「この手の魔法はね、下手に失敗させる方が成功した時よりも大きな被害を出すもんなのさ」
「し、しかし……だからといって、女王吸血鬼の復活を許すのは……」
「復活したパンフィリカを俺が倒す、それで万事解決だ」
「……やれるんですか?」
「やりきるしかないんだよ、ご先祖さんたちと同じようにな」
暫しの沈黙を挟んだ後、ユスフは溜め息を吐く。
「私に出来るのはあなたを信じ、無事の帰還を祈ることのみ。それ以外は野暮であることを承知の上で言わせてください。ご武運を」
「──ああ」
「また何かあったらすぐに連絡をするんだよ」
「分かってるって」
光が消えた水晶玉からユスフに視線を移し、イフティミアはにやりと笑う。
「信じて待ってるから必ずやり遂げてくれ、って言えば良いだけなのに難儀な男だねぇ」
「……余計なお世話ですよ」
捻くれた態度を取るユスフに対し、イフティミアは肩を竦める。
「吸血鬼……いや、魔の存在がそんなに怖いのかい?」
「恐れているのは事実ですが、幼子の抱くそれと同種のものだと思われるのは心外です」
そっぽを向いたままユスフは言葉を紡ぎ続ける。
「無理解故に恐れるのではありません、知っているからこそ恐れるのです。麗しい見目という外装で悍ましき本性を覆い隠し、人に仇なす災禍の担い手たるあの怪物たちを」
「真っ向から戦わずに倒せるならそれに越したことはないさ、残念ながら今回はそうすることが出来ないけどね」
「実に恨めしいことです」
「そればっかりは同意するよ」
溜め息混じりに言いながらイフティミアは肩を竦めた。
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