第46話 終着点無き回廊に潜む罠
「──さて」
光が消えたブローチを懐に入れた後、サンダルフォンはいつの間にか出現していた魔法陣を見据える。
「進め、ってことなんだろうな」
「どうにも不親切だねぇ、少しくらい説明してくれても良いんじゃないかい?」
「全くだ」
文句を言いつつ魔法陣を踏んだサンダルフォンが飛ばされた先は石造りの回廊だった。
「……ここにも戦いの痕跡があるんだな」
「無い場所は出てこないと思って良いだろうね」
壁に残る血の跡を暫し見つめた後、サンダルフォンは本格的な探索を開始する。
「何も出てこないな」
「調べ物を邪魔される心配が無いのは良いことじゃないかい?」
「まぁ……そうだな」
折よく発見した壊れかけの彫像に祈りを捧げた後、サンダルフォンは黙々と歩き続ける。
「……おかしい」
「何がだい?」
「いくら何でも変化が無さ過ぎる」
「異空間であることを差し引いても、となるとそういう罠である可能性を疑うべきだね」
「そういう罠……」
来た道を一瞥し、サンダルフォンは頭を掻く。
「……ノーヒントで解ける奴なのか?この罠って」
「やる前から弱音を吐くんじゃないよ」
「手厳しいな、テスタ婆は……」
溜め息を吐き、サンダルフォンは踵を返す。
「壁や床に怪しいところは無し。他には……」
一瞬目を見開いた後、サンダルフォンはにやりと笑う。
「あれか」
歪な形の月が浮かぶ窓に近づき、サンダルフォンは手を伸ばす。
──その瞬間、月が輝いて景色がぐにゃりと歪む。
「これで先に、」
「下がりなサン坊!」
テスタメントがそう叫んだ瞬間、月を貫くように槍が飛び出してくる。
「な、」
驚くサンダルフォンの前に現れたのは槍を携えた首無しの巨人だった。
「何なんだよ、こいつは……」
「大方ここの番人だろうさ」
首無しの巨人が振るう槍を躱しつつ、サンダルフォンは双剣を抜き払う。
「倒したら脱出不可能になる、ってタイプじゃなきゃ良いんだけどな」
懸念を抱くサンダルフォンをよそに首無しの巨人は容赦ない攻撃を連続で放つ。
「っ……目も鼻も無いくせに、何でこうも正確に狙えるんだよ!」
その巨躯に見合わない命中精度を誇る攻撃に対して、サンダルフォンは罵倒同然の所感を叫ぶ。
「こうなったら──」
意を決したサンダルフォンが投げた双剣の一方は巨人の片足に深々と刺さり、攻撃の勢いを大きく鈍らせる。
「これで、終われ!」
そう叫びながらサンダルフォンが振るったもう一方の剣に胸を貫かれた巨人は呆気なく倒れ、音も無く霧散していく。
「厄介な相手だったねぇ」
「本当にな」
溜め息を吐きながら花弁を拾い上げた瞬間、サンダルフォンの脳裏に見知らぬ光景が過る。
「遂に完成したのだな」
献上された紅い薔薇を手に取り、パンフィリカはほくそ笑む。
「今は亡きナルシスめには改めて感謝せねばな。奴が生成の手順を確立してくれたお陰で血染めの薔薇を手中に収めることはかくも容易になった」
「何処にあるとも知れぬ禁書を探す必要が無くなった今、女王吸血鬼の座を巡る争いを勝ち抜く鍵となるのは──」
「腕っぷしの強さ、だろ?」
言葉を遮られた痩せぎすの男は横に立つ屈強な男をぎろりと睨みつける。
「然り。我が軍勢の実力を以てすれば他の有象無象を蹴散らすことなど児戯も同然だ」
「……時にパンフィリカ様、魔城を我がものとした暁には何をなさるおつもりですか?」
「そんなこと決まっておる」
一際邪悪な笑みを浮かべながらパンフィリカは宣言する。
「──蹂躙だ」
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