第43話 残滓を巡る旅路の始まり

「脱出の鍵はその花瓶だろうね」

「やっぱりか」


 溜め息を吐いた後、サンダルフォンは硝子の花瓶を見遣る。


「けど何をどうしたら……」


 一切の予兆無く現れた魔法陣を暫し眺めた後、サンダルフォンはブローチを持っていない方の手で頭を掻く。


「どう見ても怪しいが、行くしかないよな……」

「詳しい状況は分からないけど、無理は禁物だよ」

「ああ、分かってる」


 イフティミアとの会話に一区切りをつけてブローチを懐に入れた後、サンダルフォンは魔法陣に歩み寄る。


「……ええい、どうにでもなりやがれ!」


 そう叫びながら魔法陣を踏んだ瞬間、サンダルフォンは戦場の跡地と思しき場所に飛ばされる。


「ここは……」

「過去の出来事を再現した異空間、ってとこだろうね」

「……異空間にも種類があるのか?」

「参照元による差異は出るもんだよ」

「そうなのか……」


 テスタメントが語った豆知識に感心しつつサンダルフォンは探索を進める。


「……さすがに煩いな」


 数が増えたことで大きくなってきた烏の鳴き声に苛立ちながらサンダルフォンは双剣を抜き払う。


「来いよ、まとめて相手してやる」


 サンダルフォンの挑発に憤ったことを表明するかのような叫び声を上げた後、烏の群はサンダルフォンに向かって一斉に急降下する。


「安直だな!」


 真正面から突っ込んできた烏たちをサンダルフォンは一太刀で斬り伏せ、仕留め切れなかった一羽をもう片方の剣で串刺しにする。


「中々やるじゃないか」

「これくらいは余裕だ」


 第二陣をさっくり倒した後、サンダルフォンは双剣を鞘に納める。


「……何も起こらないか」

「もっと大物を倒してみたらどうだい?」

「大物、ねぇ」


 軽く辺りを見回した後、サンダルフォンは溜め息を吐く。


「いると思うか?」

「信じて探す以外に選択肢は無いよ」

「……それもそうだな」


 観念して歩き出したサンダルフォンは道中に散乱する武器を一瞥する。


「化けて出てきたりしないだろうな……」

「何だいサン坊、幽霊は苦手かい?」

「祟ってくる奴は嫌いだ」

「そういう手合いが来た時はこの婆に任せな」

「その時は存分に頼らせてもらうさ」


 テスタメントとの雑談に花を咲かせながら探索を進める内にサンダルフォンは壊れかけた彫像を発見する。


「……使えるのか?これ」

「魔除けの結界を張る魔法はちゃんと機能しているよ」

「そう……なのか……凄いな……」


 理解が追いつかないと判断したサンダルフォンは深く考えるのを止めて彫像に祈りを捧げる。


「……ところで、大物ってどういうところにいるものなんだ?」

「定番は奥まったところにある開けた空間だけど……ここでそういう場所を探すのは難しそうだねぇ」

「まずどこが奥なのかも……ん?」


 不意に立ち止まったサンダルフォンが見据える先には一本の剣が突き立てられていた。


「何だあの剣……?」

「気をつけなサン坊、あれは憑かれてる奴だよ」


 テスタメントがそう忠告した直後、剣がゆらりと浮かび上がった。

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