サンダルフォン編:召天

第41話 終止符を打ち損ねた物語

 今より少し昔、魔の存在が人間に害を成していた頃のこと。

 新たな女王吸血鬼パンフィリカが率いる軍勢と狩人の精鋭が魔城の中で激しい戦いを繰り広げた。


 後に彩紀さいきと呼ばれるこの時代はパンフィリカを討ち取った狩人陣営の勝利をもって幕引きとなる──筈だった。


 主を失っても魔城が崩壊しない。

 これまで固く信じられてきた定説を覆す異常事態の発生は狩人たちを大いに困らせた。


 どれだけ調べても魔城が崩壊しない原因を特定することが出来ず、魔城と共に存在し続ける明けない夜の恩恵を受けた魔の存在は今まで以上に猛威を振るった。


 状況を把握した教会はモーリエの狩人に助力を求める提案をし、打つ手が無くなった狩人たちはその提案を渋々受け入れて魔城から引き上げた。


 そして教会が派遣した一人の聖職者がモーリエの狩人の元を訪ね、一通りの事情を説明する。


「──というわけなのですが、ご理解頂けたでしょうか?」

「概ねはな」

「では早速、」

「魔城へ行く前一つ、確認しておきたいことがある」

「な、何でしょう」

「頼る相手を間違えてないか?」


 モーリエの狩人が投げかけた真意を測りかねる問いに聖職者は首を傾げる。


「うちの一族は勇者でもヒーローでもない、女王吸血鬼に殺された家族の仇討ちを成し遂げた復讐者の血を引いてる以外は普通の人間だ」

「は、はぁ」

「そんな奴が主を失った魔城に行っても無駄足を踏むだけで終わりそうな気がするけどな」

「っそ、それは、」

「困るんだろ?」


 図星を突かれた聖職者は反射的に顔を背ける。


「素直だな、あんた」

「……依頼には、応じてくださるのですか」

「タダ働きならお断りだ」

「無論相応の対価はお支払いしますし、支援も行います」


 そう言って聖職者が取り出した護符を暫し見つめた後、モーリエの狩人は一言呟く。


「自我持ちか」

「──おや、一目見ただけで分かるもんなのかい」

「うちの一族はあんたみたいな奴と接する機会が多いんだよ」


 護符から響く声に物怖じする様子も無く、モーリエの狩人は聖職者の方に向き直る。


「こいつが俺の護衛ってことか?」

「下手に人を付けるより効果的だと聞きましたので」

「そこらの安物よりこの婆の方が魔除けとして役に立つよ」

「へぇ、そうなのか」


 聖職者に渡された護符を掌の上で軽く揺らしながらモーリエの狩人は微笑を浮かべる。


「ところであんた、名前は?」

「テスタメントだよ、モーリエの坊や」

「……サンダルフォンだ」

「じゃあサン坊だね」


 有無を言わさぬ雰囲気に屈したのか、サンダルフォンと名乗った狩人は深い溜め息を吐く。


「ところでええと……」

「ユスフ・プイネです」


 自身の名を告げた聖職者はサンダルフォンの反応を見て正しい対応が出来たと確信する。


「ユスフ、魔女さんには会ったのか?」

「いえ、会っていませんが……」

「──仲間外れにするなんて酷いねぇ」

「へ!?」


 突然聞こえた謎の声にユスフは驚愕する。


「だ、誰ですか!?」

「お前さんが会うのを避けた魔女だよ」


 サンダルフォンが手にしたブローチからこの場にいないイフティミアの声が再び響く。


「……遠見の魔法、ですか」

「こんなこともあろうかと予め用意しておいたのさ」


 露骨に嫌そうな顔をするユスフに対し、サンダルフォンはにやりと笑う。


「魔城よりも先に行くべき場所が決まったな」

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