第34話 一時の恥なぞ安いもの
「あと一つ……」
黄色い薔薇のコサージュに施された魔法が発動して鮮やかに色付いた扉の前に立ち、ミカエルは低い声で呟く。
「あんまり気負い過ぎるなよー」
「分かってるよ」
「ホントかねぇ」
「信用されてないなぁ」
苦笑いを浮かべつつ白い薔薇の扉を開けたミカエルが飛ばされた先は古びた城の中だった。
「普通過ぎて逆に落ち着かねぇ……」
「今まで変なところにばかり飛ばされてきた反動……とかなのかなぁ」
「マズいぞミカエル、吸血鬼のせいでオレらの感覚がメチャクチャになってやがる」
「それはさすがに言いがかりが過ぎ……」
「どうかしたのか?急に立ち止まったりして」
「ええと……」
何を言うべきか悩むミカエルの前には見慣れた彫像が鎮座していた。
「これ、こんなところにあるものだっけ……?」
「もうちょい奥まったところに置いてあるもんだった筈だぞ」
「だよねぇ……」
恐る恐る近付こうとしたミカエルに対して彫像が示した反応は目から光線を放つ、という奇想天外なものだった。
「……へ?」
あまりにも理解し難き事態の発生に混乱するミカエルを追い込むかのように彫像が徐に動き出す。
「呆けてる場合じゃねぇぞミカエル!こんなのに殺されて終わり、なんてダセェ結末で良いのか!?」
「っい、嫌だよ!」
「じゃあさっさと戦え!」
ロンギヌスに発破をかけられて戦意を取り戻したミカエルは双剣を抜き払い、突進してきた彫像を両断する。
「意外と脆かった……」
「タネさえ分かっちまえばどうってことはねぇな」
「そういうことは迂闊に言わない方が……」
良いんじゃないか、とミカエルが言い切るよりも先に重い物を引きずる音が段々と大きくなっていく。
「……ロンギヌス」
「出来るサポート全部やるんで許してください」
わざとらしく大きな溜め息を吐いた後、ミカエルは双剣を構え直す。
「まぁ何が来るか分かっているから対処は楽……だけど……」
回廊の向こう側からやってきた彫像の数が思いの外多かったことにミカエルは一瞬言葉を失う。
「……ロンギヌス」
「おう」
「加速の魔法、お願い」
双剣を鞘に納め、ミカエルは踵を返す。
「じゃあ行くぞー、"駆けろ"!」
そしてロンギヌスがキーワードを叫んで加速の魔法を発動させるのと同時に走り出した。
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