第31話 ある女の顛末について

「……悪いけど、もう一度説明してくれるかい?」

「贖罪をやりたがっていた女吸血鬼と女王吸血鬼ジェニカが同一人物で、さっきミカエルが仕留めた黒い獣の正体がクオって名前の黒猫で……ええとそれから?」

「クオは僕にジェニカを助けてほしいと頼んできて、ジェニカが咲かせようとしていた花をクオは危険視していた、だよ」

「話がややこしくなってきたねぇ……」


 こめかみを指先で軽く叩きながらイフティミアは溜め息を吐く。


「順を追って整理していくよ。スタート地点は……ジェニカという人間の女がいたところにしようかね」


 イフティミアの提案にミカエルは首肯する。


「望まぬ形で吸血鬼になったジェニカは多くの命を奪い、それを悔いた」

「そこにフードの男がやってきて一粒の種をジェニカに渡した。魔の存在を糧に育ち、花が咲けば贖罪が果たされるという種を」

「……魔の存在を狩ることが贖罪に繋がる、って解釈が出来そうな言い草だよな」

「実状はどうあれ、ジェニカは種を育てた。あと少しで花が咲く、贖罪がようやく果たされるというところでクオが待ったをかけた」

「花を咲かせるべきではないとクオは訴えたけど、聞き入れてはもらえなかった」

「そしてジェニカは女王吸血鬼に……なるのは急展開が過ぎねぇか?」

「花の正体が血染めの薔薇だったら辻褄は合うよ」

「血染めの薔薇って確か……女吸血鬼に永遠の美を与えるものじゃありませんでしたっけ?」

「へぇ、アンヘルはそう伝えていたのかい」


 くすりと笑った後、イフティミアは空のカップに温かい茶を注ぐ。


「血染めの薔薇を手にした女吸血鬼が得るものは二つある。一つはさっきお前さんも言った永遠の美、そしてもう一つは魔城の主になる資格さ」

「今更だけどよ、魔城の主には女吸血鬼しかなれねぇのか?」

「魔城か薔薇が選り好みをしてるんじゃないかって噂はよく聞くけど、お前さんはそこんとこどう思うんだい?」

「城の方は分かんねぇけどよ、花の方なら飾る対象を拘りたいって気持ちは一応分かるぞ」

「分かるんだ……」

「腕輪も花も人を飾るものってところは共通してるからな」


 腑に落ちない様子のミカエルを内心面白がりつつイフティミアは温かい茶を一口啜る。


「話を戻すけど、ジェニカはフードの男に騙されていた可能性が極めて高い。魔城を手中に収めるための傀儡にされた、と考えた方が良いだろうね」

「助ける方法は……ありますか?」

「残念ながら手遅れだよ。お前さんがジェニカにしてやれるのはひと思いに殺すことだけさ」

「っそう、ですか……」


 イフティミアの無慈悲な言葉にミカエルは表情を曇らせる。


「悲劇の蔓延を防ぐために女王吸血鬼を討ち取ること、それがモーリエ家の務めだとお前さんは言ってたね」

「……はい」

「ジェニカを憐れむ気持ちがあるならそれをやり通しな」


 自分の頬を強く叩き、ミカエルは俯かせていた顔を上げる。


「分かりました。務めを、僕がやるべきことを果たします」

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