第29話 不浄なる泥を洗い流し
「ここは……」
「地下水路、みてぇだな」
薄暗い通路を壁伝いに歩きながらミカエルは顔を顰める。
「嫌な匂いがする……」
「空気が淀んでる、とかか?」
「それもあるとは思うけど……一番の原因はこの泥だよ……」
本来は水が流れているべき場所に堆積した泥を一瞥し、ミカエルは溜め息を吐く。
「ロンギヌス、水を出す魔法は」
「施されてねぇし、ここに溜まってる泥を洗い流してぇならまずは水が流れてこねぇ原因を突き止めるべきだろ」
「うん……それもそうだね……」
「そっちなら手伝ってやれるから元気出せって」
雑談で気を紛らわしつつ探索を進めていくと見覚えのあるシルエットがミカエルの視界に入る。
「ちょうど良かった、一休みを──」
「後ろだミカエル!」
泥の一部が蠢き、ミカエルに飛びかかってきたのはロンギヌスが叫んだ直後のことだった。
「っ!」
振り向きざまに双剣を抜き払った勢いで泥を斬るや否や、ミカエルは彫像が張る結界の内側に逃げ込む。
「……ここまでは追って来られないみたいだね」
「あんなんでも魔の存在だからな、聖なる力に触れたら一巻の終わりだってことぐらいは本能で理解出来るんだろうさ」
「とはいえ、いつまでもここに留まっているわけにもいかないよね……」
「だな。というわけでミカエル、地面に手を置いてくれ」
「……何をするの?」
「探知の魔法で水がありそうなところを探す」
双剣を鞘に納め、ミカエルは地面に手を置く。
「頼りにしてるよ、相棒」
「任せときな。"辿れ"!」
ロンギヌスがキーワードを叫んだ瞬間、ミカエルの手を起点に光の筋が四方八方に伸びていく。
「……見つけた!良いかミカエル、次の角を右に曲がったら後はまっすぐ走り続けろ」
「右に曲がったら後はまっすぐ、だね」
彫像に祈りを捧げた後、ミカエルはロンギヌスが指示した通りのルートを走り抜ける。
「邪魔、しないで、ほしい、なっ!」
度々襲いかかってくる泥を時には斬り伏せ、時には躱してを繰り返す内に目的地へと辿り着いたミカエルは壁に備え付けられたハンドルに手を伸ばす。
「これ、でっ!」
錆び付いて動きが悪いハンドルを無理矢理回して水門を開けた瞬間、大量の水が泥を押し流した。
「はぁー……」
「これで泥の問題は解決だな」
「そう、だね……」
深呼吸を繰り返しながらミカエルは激しく流れる水の音に耳を傾ける。
「……嫌な匂いも大分無くなってきたね」
「泥を洗い流したことで進めるようになったところもあるかもな」
「そこにコサージュを持ってそうな奴がいてくれると良いんだけどなぁ……」
軽く伸びをした後、ミカエルは探索を再開した。
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