第27話 黒曜の鎧を打ち砕くには

「ここの岩肌、他と少し色が違うね」

「ありゃあ黒曜岩だな。迂闊に触ると怪我するぞ」

「それは他の岩でもあんまり変わらないと思うんだけどな……」


 そうぼやきながらミカエルは今まで以上に慎重な足取りで険しい道を進み、やがて巨大な黒曜岩が鎮座する空間に到達する。


「行き止まり……」

「それも戦うのにちょうど良さそうな広さだな」


 周囲を警戒しつつミカエルが双剣を抜き払った瞬間、魔法陣が現れて巨大な黒曜岩を無骨な人型に変化させる。


「な、何あれ……」

「ゴーレム……魔法で動く人形の一種だ」

「……この双剣で斬れるかな?」

「刃欠けで済めばマシな方、最悪の場合折れるぞ」

「だよねぇ!?」


 ゴーレムが振り下ろした拳を躱しながらミカエルは情けない声で叫ぶ。


「そうだ!魔法で──」

「残念ながらあいつを倒せそうな魔法はオレに施されてねぇんだよなぁ」

「えっ、」

「でも助言はしてやれる。ゴーレムってのはな、核を砕けば止まるんだ」

「核……?」

「よーく見てみな、他と違う結晶がある筈だ」


 一発でも食らえば挽肉になりかねないゴーレムの攻撃を掻い潜りつつ、ミカエルは注意深く観察する。


「──あった!」


 黒に浮かぶ白い点──黒曜岩とは材質が異なる結晶にミカエルは一太刀を浴びせる。


「ヒビが入っただけか……!」

「もう数発叩き込め!」


 言われるままにミカエルは双剣を振るい、白い結晶を砕く。


「よし、これで……!」

「こいつはただの石ころだ」


 核を失ったゴーレムは崩れ落ち、轟音と共に破片を周囲に散らす。


「ふぅ……」


 一呼吸置いて双剣を鞘に納めたミカエルが破片の中に紛れてた黒い薔薇のコサージュを拾った瞬間、ミカエルの脳裏に見知らぬ光景が過る。


「この種が育って花が咲いた時、君の贖罪は果たされる」

「どうやって育てれば良いの?」

「魔の存在を狩るんだ。奴らの命を糧にその種は成長する」

「……分かったわ」


 種を握り締め、女性は目を伏せる。


「吸血鬼になってしまった罪、多くの人を殺めた罪、それらを償えるなら、私は──」


「吸血鬼が、償い……」

「どうしたんだよミカエル、過去視の魔法で妙なものでも見たのか?」

「妙……ではあるかな」

「まぁ詳しい話は工房に戻ってからにすっか」

「うん、魔女様にも聞いてもらいたいことだしね」


 神妙な顔をするミカエルの足元に魔法陣を展開し、ロンギヌスは転移の魔法を発動させた。

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