第25話 悔いと覚悟を胸に刻んで

「落ち着いたかい?」

「……はい」


 工房でイフティミアの介抱を受けたミカエルは泣き腫らした目を床に向けたまま言葉を紡ぐ。


「僕は自惚れていました。身構えていれば大丈夫だって慢心していました。本当に……バカでした」

「お、おいおい、いくら何でも自虐が過ぎるだろ」

「だからこそ……投げ出したくない」

「へ?」


 予想とは異なる言葉が出てきたことに驚くロンギヌスをよそに、ミカエルは意思表明を続ける。


「嫌なんだ。僕自身が苦しむことよりも、僕が逃げたせいで他の誰かが苦しむことの方がずっと。だから、」

「また行くんだね、魔城に」

「はい」


 光を取り戻したミカエルの目を暫し見つめた後、イフティミアは溜め息を吐く。


「……罪悪感に苛まれる連中の顔が目に浮かぶよ」

「え?」

「お前さんも会ったことはあるだろ?本職の狩人たちに」

「は、はい。小さい頃に何度か稽古をつけてもらいました」

「そいつらはずっと悔いているのさ。一昔前に自分たちがやらなきゃいけなかったことをただの若者に成し遂げさせてしまったことをね」


 暗い顔をしたままイフティミアは言葉を続ける。


「今回だってそうさ。お前さんが招待状を受け取る前に本職の狩人たちがケリをつける腹積もりだったけど、魔城に辿り着くことさえ出来なかった」

「辿り着くことさえ……?それはおかしいですよ、魔城へ行く過程で迷う要素なんてどこにも無い筈です」

「……ひょっとしたらそこも魔城の主が変わった影響かもな」

「有り得る話だね。お呼びじゃない奴を森で迷わせる程度に留めてる辺り、今回の女王吸血鬼はベアトリシアよりマシな奴と見て良さそうだ」


 くつくつと笑った後、イフティミアは青い薔薇のコサージュをテーブルの上に置く。


「見てくれだけ上等な粗悪品を寄越すケチな奴って評価を変えるつもりは無いけどね」

「そ、粗悪品ってどういうことですか?」

「こいつに新しい魔法を施すことは出来ないし、もう一仕事を終えたら壊れちまうってことさ」

「えっ、じゃあ曾祖父様の時みたいにはいかないってことですか?」

「オイコラァ、何のためにオレがいると思ってんだ」

「そこんところは抜かりないなら困った時は気兼ねなくロンギヌスを頼りな」

「わ、分かりました」


 青い薔薇のコサージュを懐に入れ、ミカエルは席を立つ。


「じゃあ、行ってきます」

「無理は禁物だよ、身体を壊しでもしたら元も子もないんだからね」

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