第24話 塗り重ねられた悲劇
「やっと見つけた」
幽霊たちを倒した後、探し求めていた彫像にようやく巡り会えたミカエルは安堵の息を吐く。
「でもこれ、吸血鬼が作った複製品だぞ」
「試練のために用意したもの……なのかな」
彫像に祈りを捧げた後、ミカエルは辺りを軽く見回す。
「……この墓地、前と同じ場所をそっくりそのまま使い回してるわけじゃなさそうだね」
「主が変われば中身も変わる、ってのが魔城の性質だからな」
「そうなると黒い枯れ木も地下へ通じる階段も無いってことになるだろうから……他に怪しいものを探さないといけないのかぁ……」
「あるじゃねぇか、いかにも怪しい建造物がそこによぉ」
「……やっぱり、行かなきゃダメ?」
不自然としか言いようの無い建造物を見上げたままミカエルは嫌そうな声で呟く。
「他に選択肢が無いんだから諦めろー」
「何があっても動じない、何があっても動じない……」
同じ言葉を何度も繰り返しながらミカエルは建造物の中へと足を踏み入れる。
──内部に備え付けられた全ての燭台に火が灯されたのはその直後のことだった。
「っ──」
「何だよこれ、悪趣味が過ぎるだろ……」
建造物の中にあったもの──美術品のように飾られた女の骸たちを目の当たりにしたミカエルは絶句し、ロンギヌスは辟易する。
「吸血鬼は若い女を好むって話は有名だけどよ、これは色々とやり過ぎだ」
「ここに飾られている人たちが皆、吸血鬼に……」
無意識の内にミカエルが半歩後ろに下がろうとした瞬間、開け放たれていた筈の扉が勢い良く閉まる。
「な、何!?」
「武器を取れミカエル!」
ロンギヌスが叫んだ一言で事態を把握したミカエルは双剣を抜き払い、奇襲をかけようとした骸の一体を斬り伏せる。
「……悪趣味ここに極まれり、だね」
周囲を取り囲む女の骸たちを一瞥し、ミカエルは苦々しげに呟く。
「分かっちゃいるとは思うがよ、殺さなきゃ殺されるぞ」
「そうだろうね」
深呼吸をした後、ミカエルは小さな声で呟く。
「──ごめんなさい」
そして戦いとは呼ぶにはあまりにも悲惨な一幕が始まった。
ミカエルが女の骸を一体倒す度に悲鳴が上がり、血溜まりがその面積を少しずつ広げていく。
「ァ……」
最後の一体を斬り伏せた後、ミカエルは壁に背を預ける形で座り込む。
「ミカエ──」
ロンギヌスが声をかけるよりも先に青い薔薇のコサージュがミカエルの手元に落ち、悍ましい光景をその脳裏に過らせる。
「喉ガ、渇ク……」
「アナタ……美味シソウ……」
「チョウダイ……ソノ血ヲ……命ヲ……」
吸血鬼に変えられ正気を失った女たちは互いを獲物と見做し、血の奪い合いに明け暮れる。
「アア、美味シイ……モット……血、を……?」
最後に残った一人は不意に正気を取り戻し、眼前の惨状に悲鳴を上げた。
「──い、おいミカエル!しっかりしろ!」
何度呼びかけてもミカエルが応じないことにロンギヌスは焦りを覚える。
「こりゃあ完全に参ってるな……仕方ねぇ」
目を大きく見開いたまま大粒の涙を流し続けるミカエルの足元に魔法陣が展開される。
「"導け"」
ロンギヌスがキーワードを告げた瞬間、転移の魔法が発動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます