第23話 怪しき案内人と試練への誘い

「ここが、魔城……」


 古めかしい雰囲気を漂わせるエントランスホールの中心でミカエルは呆然と佇む。


「おいミカエル、ここが敵地のど真ん中だってことを忘れんなよ」

「わ、忘れてなんか──」


 不意に感じた気配の方に素早く振り返るや否や、ミカエルは双剣を抜き払って臨戦態勢を取る。


「ふむ、身のこなしは及第点ですね」

「……誰、ですか」

「私はナルシス・アロガント、当代の女王吸血鬼ジェニカに仕える吸血鬼の一人です。以後お見知りおきを」


 懇切丁寧な自己紹介をした後、ナルシスと名乗った男は恭しく頭を下げる。


「この度はこちらの招待に応じて頂き誠に」

「能書きは良いからさっさと本題に入りやがれ」

「おや、どこから声がするかと思えば腕輪でしたか。これは面白い」

「うっっっぜぇ……」


 ロンギヌスの暴言を意に介した様子も無くナルシスは言葉を続ける。


「モーリエの狩人殿、貴男にはこれより五つの試練に挑戦していただきます」

「試練……?」

「何、簡単なことですよ」


 そう言ってナルシスが指を鳴らした瞬間、薄汚れた扉の一つが鮮やかに色付く。


「扉の先に待ち構えている敵を倒した後に宝を手に入れ、ここに戻ってくることを五回繰り返す。ただそれだけですよ」

「……曾祖父様と同じ道を歩んでこい、ということですか」

「理解が早くて助かります。では、健闘を祈っておりますよ」


 ナルシスが闇に溶けて消えた後、ミカエルは双剣を鞘に納めて色付いた扉を見据える。


「青い薔薇……曾祖父様の時と同じだとしたら──」

「かーっ、何様のつもりなんだよあの高慢ちき野郎!自分以外は全員下等、みたいな態度を取りやがって!」

「それはさすがに言い過ぎ……でもなさそうかな……」

「今度会ったらコテンパンに叩きのめしてやらねぇとな!」

「うーん、いつになるのかなぁ……」


 怒り狂うロンギヌスを宥め賺しつつミカエルは薄汚れた扉の状態を確かめる。


「これは……開きそうに無いか……」

「すっげームカつくけどあいつの誘導に従うしかなさそうだな」

「そうみたいだね」


 意を決し、ミカエルは青い薔薇の扉を開ける。


「……やっぱり墓地に飛ばされたかぁ」


 扉に施された転移の魔法で飛ばされた先が予想通りの場所だったことにミカエルは安堵する。


「気ぃ抜くなよミカエル。さっきも言ったがここは敵地のど真ん中、いつ何が起きてもおかしくねぇんだ」

「分かってるよ、まずは安全地帯である彫像を──」

「探す前に雑魚退治だな」


 周囲を取り囲む幽霊たちが様子を窺うように揺らめく中、ミカエルは双剣を抜き払う。


「行きます!」


 そう叫ぶのと同時にミカエルは地面を蹴り、対応が遅れた幽霊たちを次々に斬り伏せていく。


「ミカエルお前……結構やれる方なんだな」

「少しは見直してくれた?」

「あーはいはい!正直大分舐めてましたごめんなさいー!」


 捲し立てるようなロンギヌスの謝罪に思わず噴き出した後、ミカエルは双剣を構え直す。


「良いよ、これを機に評価を改めてくれれば……ね」

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