ミカエル編:熾天
第22話 届いてしまった招待状
今より少し昔、魔の存在が人間に害を成していた頃のこと。
悲劇と混乱を撒き散らす女王吸血鬼ベアトリシアが銀の双剣を携えた狩人アンヘルに討ち取られた。
主を失った魔城は消え、吸血鬼たちはその脅威度を大きく落とした──かに見えた。
ベアトリシアが討たれたことは吸血鬼たちにとって朗報であり、空いた玉座を巡る争いを始めるきっかけに過ぎなかったのだ。
野心に溢れた吸血鬼たちの諍いに無関係である筈の人間は様々な形で巻き込まれ、狩人たちはその対応に追われる日々を強いられた。
それから百年余りが過ぎたある日、再び魔城がその姿を現した。
多くの人々がベアトリシアの再来を恐れる中、一通の招待状がアンヘルの子孫である若者ミカエルの元に届く。
「──とうとう来てしまったんだね、この時が」
ミカエルから相談を受けた魔女ことイフティミアは深い溜め息を吐く。
「良いかいミカエル、お前さんがこれから行く先は人間の常識が通用しない危険な場所だ。生半可な気持ちで……なんて脅かす必要は無さそうだね」
「今更怖気付いたりしませんよ」
余裕を感じさせる笑みを浮かべながらミカエルは言葉を続ける。
「悲劇の蔓延を防ぐために女王吸血鬼を討ち取ること、それがモーリエ家の務めだと教え込まれてきましたから」
「……心配なのはお前さんのそういうところだよ」
不思議そうに首を傾げるミカエルを横目に見つつ、イフティミアは銀の腕輪をテーブルの上に置く。
「これは──」
「おうおう、挨拶もしない内に触ろうとするのはマナー違反だぞ」
「うわぁっ!?」
腕輪から響く声に驚くあまりミカエルは椅子から転げ落ちる。
「あいたたた……」
「大丈夫かい?」
「は、はい……ええと魔女様、この腕輪は……?」
「お前さんのお目付け役だよ。ほら、自己紹介しな」
「そいじゃ改めまして。オレの名前はロンギヌス、こう見えて多機能で優秀な腕輪だ」
「は、はぁ……」
まだ痛む肘を擦りながらミカエルはロンギヌスと名乗った腕輪を訝しげに見つめる。
「次はお前が名乗る番だぞー」
「……ミカエル・モーリエです、これからよろしくお願いします」
「お堅いなぁ、これから長い付き合いになるんだからもう少し気楽にいこうぜ」
「君は軽薄が過ぎるんじゃないかな……」
溜め息混じりに言いながらミカエルは腕輪を右手に装着する。
──その瞬間、ミカエルは微かな痺れを感じた。
「ほい契約完了っと」
「そういえば君もクリス……
「いいや、オレを作ったのはそこで難しい顔をしてる魔女サマだよ」
「え、」
ミカエルが向ける視線から逃げるようにイフティミアは顔を背ける。
「……支度が済んだら魔城へ行きな」
「あっはい」
「ロンギヌス、後のことは任せたよ」
「りょーかいりょーかい」
「ええと……行ってきますね」
ミカエルが慌しく出ていった後、イフティミアはぽつりと呟く。
「……必ず無事に戻って来ておくれよ」
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