第19話 そして天使は薔薇を散らす
「お父、様……」
目の前で父親を喪った少女は愕然とする。
「……よくも」
わなわなと拳を震わせ、ベアトリシアは俯かせていた顔を勢い良く上げて叫ぶ。
「よくもわたしの家族を殺したな!」
「──それはこっちの台詞だ」
激昂するベアトリシアに酷く冷たい目を向けたままアンヘルは双剣を構え直す。
「お前はギャビーとハリーを、俺の家族を殺した。その報いを受けろ」
「うるさい!報いを受けるのはおまえだ!」
ベアトリシアが叫ぶのと同時にドレスから無数の茨が伸び、アンヘルに襲いかかる。
「完全にガキの癇癪だな」
その内の何割かを躱し、また別の何割かを斬り伏せ、残った数割の攻撃を喰らいつつもアンヘルはベアトリシアとの間合いを詰める。
「っ──、」
そして次の瞬間、アンヘルは二本の剣でベアトリシアの胸を貫いた。
「枯れ果てなさい、血染めの薔薇!」
クリスがそう叫んだ瞬間、双剣の一方が突き刺した紅い薔薇が瞬く間に朽ちていく。
「かふっ……」
双剣を引き抜かれたベアトリシアは膝をつき、口からも血を滴らせる。
「いたい、さむい、くるしい」
掠れた声で言葉を紡ぎながらベアトリシアは虚空を見つめる。
「た、すけ……」
伸ばした手が虚しく空を切った後、ベアトリシアは塵に変じる。
「……終わったな」
「ええ」
双剣を鞘に納めたアンヘルが踵を返そうとしたその時、激しい揺れが起きる。
「な、何だ?」
「分かりませんが、急いで脱出した方が良いことだけは確かです」
「ならとっとと帰るぞ!」
懐からペンデュラムを取り出し、アンヘルは叫ぶ。
「"導け"!」
──同じ頃、微かな揺れを感じたイフティミアは工房の外に飛び出す。
「夜が……」
魔城がある方角の空が段々と明るくなっていく様子を眺めながらイフティミアは一つの確信を抱く。
「勝ったんだね、あのふたりが」
そう嬉しそうにイフティミアが呟いた直後、派手な落下音が庭先に響く。
「っ痛……」
「アンヘル、大丈夫ですか?」
「尻を打った……」
あまりも格好がつかない帰還を果たしたふたりに呆れつつ、イフティミアは手を差し伸べる。
「おかえり、ふたりとも」
「──ただいま」
「ただいま戻りました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます