第13話 書庫ではお静かに願います

「気分はどうだ?クリス」

「イフティミアが浄化の魔法を施してくれたお陰で良好です」

「じゃあ四つ目の攻略に行くか」


 そう言って黄色い薔薇の扉を開けたアンヘルが飛ばされた先は書庫と思しき場所だった。


「ようやく屋内に転移しましたね」

「迷いやすそうなところなのは相変わらずだけどな」


 近くの本棚から適当な一冊を引き抜き、アンヘルは頁を捲る。


「……ダメだ、全然読めねぇ」

「イフティミアなら解読できるでしょうか」

「そこまでして読みたいものでもねぇから別に良いよ」


 閉じた本を棚に戻し、アンヘルは本格的な探索を開始する。


「ん?」

「どうかしましたか、アンヘル」

「今、物音がしたような……」


 振り返ったアンヘルの視界に飛び込んできたのは宙に浮かぶ一冊の本だった。


「……は?」


 まさかの事態に困惑するアンヘルをよそに本は自発的に開き、浮かび上がらせた魔法陣から雷撃を放つ。


「うおおっ!?」


 バックステップで雷撃を躱した後、アンヘルは双剣を抜き払う。


「なぁクリス、あの本はお前のお仲間か?」

「自我を宿す器物、という大きな括りの中では同類と言えるでしょう」

「……厳密には違うぞって言いたげだな」

「侵入者を迎撃するという単純な命令に従って動く程度の自我しか持ち合わせない本と同列に扱われるのは良い気がしませんね」

「悪かったよ」


 謝罪の言葉を述べつつアンヘルは本を両断する。


「さぁてそろそろ一呼吸置きたいな……っと……」


 不自然に開けられたスペースに彫像がどんと置かれていることにアンヘルは微妙な顔をする。


「もうちょいこう……あるだろ……」

「これはあまりにも趣が無いですね」

「だよなぁ!?」

「まぁ敵に配慮する理由は無いと言われたらそれまでなのですが」

「……そりゃそうだ」


 深い溜め息を吐いた後、アンヘルは彫像に祈りを捧げる。


「前回の森にはこれといった仕掛けがありませんでしたが、この書庫はどうでしょうね」

「何かやるとしたら特定の本を指定された棚に入れる、とかだけどな」


 そんな意見を述べた直後にアンヘルが見つけたのは所々に痛みが見られる絵本だった。


「この絵本……懐かしいな。ガキの頃ギャビーによく読み聞かせてたっけ」

「ベアトリシアの私物……なのでしょうか?」

「だとしたら管理が雑すぎるだろ。えーと、絵本の棚は……ここか」


 回転式の本棚に絵本を差し込んだ瞬間、窓の一つに魔法陣が浮かび上がる。


「……今ので道が開けたのか?」

「恐らくは」


 罠が仕掛けられていないことを確認した上でアンヘルが魔法陣に手を翳すと転移の魔法が発動し、重厚な扉の前に移動する。


「……行くぞ」


 一呼吸置いた後、アンヘルは扉を押し開けた。

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