第6話 果て見えぬ大河を遡れ
イフティミアの工房を後にして再び魔城に訪れたアンヘルがエントランスホールに入った瞬間、何かが割れる音が鳴り響く。
「……どうやら赤い薔薇の扉に施された封印が一つ解かれたようですね」
「コサージュをここに持ってくることで解錠の魔法が発動するってわけか」
他に変化したところが無いかを確かめた後、アンヘルは目の前にある黒い薔薇の扉をじっと見据える。
「また何かしら残っててくれるとありがたいんだけどな」
消え入るような声で呟き、アンヘルは扉を静かに開ける。
「……墓地の次は河原か」
次に目を開けた時、アンヘルが立っていた場所は苔むした大岩の上だった。
「どこを目指せば良いのか皆目見当がつきませんね」
「とりあえず上流に行ってみて、何も無かったから下流を目指してみるか」
「道らしい道が無いのにどう進むつもりなのですか?」
「こいつを使うんだよ」
懐から青い薔薇のコサージュを取り出し、アンヘルはキーワードを口にする。
「"跳べ"!」
魔法で飛躍的に向上した跳躍力を駆使してアンヘルは岩から岩へと飛び移っていく。
「──アンヘル、止まってください」
「どうしたんだよク、」
アンヘルが言い終えるよりも先に巨大な水柱が発生し、その中から一匹の半魚人が現れる。
「これはちょっと、奇抜すぎるだろ……」
「水辺に住まう魔の存在としては主流の部類ですよ」
「そういうことじゃなくてだな」
溜め息混じりに言いながらアンヘルは抜き払った双剣の切っ先を半魚人に向ける。
「シャアアアアッ!」
「うおっと、」
咆哮を上げる半魚人の飛びかかりをひょいと躱し、アンヘルは双剣の一方を半魚人の背中に突き立てる。
「ガ、ア?」
断末魔の叫びを上げる間もなく半魚人の身体はどろりと溶け落ちる。
「……アンヘル、下の水辺で私を洗ってください」
「やっぱり気持ち悪いもんなのか?」
「それなりには」
「よしよし、今すぐ綺麗にしてやるからな」
比較的広い岸辺に降りた後、アンヘルは剣に付着した粘度の高い液体を川の水で洗い流す。
「後は水気を切って、と」
「ありがとうございます、不快感が解消されました」
「次からは相手しない方が良いか?」
「いいえ、倒した後に洗ってくだされば十分です」
「……今度イフィーに良い砥石があるかを聞いてみるか」
剣を鞘に収め、アンヘルは再び跳躍の魔法を発動させた。
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