第3話 朽ちた屍たちの寝床へ至る道

「骸骨たちを全部倒したら何か起きるかも、って期待は外れちまったな」


 周囲に散らばった骨を横目に見つつアンヘルは肩を回す。


「怪しいものを虱潰しに探すしかなさそうですね」

「そう言われてもなぁ……ん?」

「どうかしましたか、アンヘル」

「いかにもなものがあったぞ」


 どこか嬉しそうに言いながらアンヘルは少し離れたところに置かれた彫像の傍へと歩み寄る。


「随分と立派な彫像だなぁ」

「とても不思議ですね、魔除けの結界を張る魔法が施された彫像がこんなところにあるなんて」

「……言われてみりゃ妙な話だな」

「これは私の推測ですが、この彫像はあなたより前に来た誰かが残したものかと」

「俺より前に来た誰かって?」

「言うまでもなく、ベアトリシア討伐に挑んだ狩人たちのことです」


 彫像を見据えたままアンヘルは暫し黙り込む。


「アンヘル、今あなたが歩んでいる道は先に挑んだ多くの人が踏み固めた道であることをどうかお忘れなきよう」

「……肝に銘じておくよ」


 彫像に祈りを捧げた後、アンヘルは踵を返して歩き出す。


「……なぁクリス」

「何でしょうか」

「俺より前にここへ来た奴が沢山いたってことは、あの彫像以外にも何かしら残ってるかもしれないってことだよな?」

「期待はして良いかと」

「よし、早速探すぞ」


 先程までよりもずっと力強い足取りでアンヘルは墓地の探索を進めていく。


「さっき見つけた走り書きにあった黒い枯れ木ってこれのことだよな?」

「他の枯れ木とは明らかに色が違いますね」

「じゃあこいつのどこかに……あった」


 木の洞に刻まれた魔法陣をアンヘルが指先で軽く叩くと墓標の一つがゆっくりと後ろに下がっていく。


「何か怪しいとは思っちゃいたが、まさか動くとはなぁ」

「地下への階段を隠していたことにも驚きですね」


 墓標の下から現れた階段を降りた後、アンヘルは墓地で拾ったランプを灯して辺りを見回す。


「道は前に一本だけ、か」

「足元にご注意を」


 クリスの忠告に従って足元を照らしながらアンヘルが歩を進めていくと急に開けた空間が現れる。


「……行き止まりか」


 アンヘルがさらに一歩踏み出した瞬間、手にしていたランプから青白い火が飛び出す。


「な、何だ?」


 困惑するアンヘルをよそに青白い火は地面に転がっていたランプを次々に灯していく。


「っ……これは……」


 すっかり明るくなった空間にあるもの──堆く積み上げられた人形の山を目にしたアンヘルは青褪める。


「……魔法で人形に変えられた死体の山、ですね」

「なぁクリス、この人形……死体が着てる服って……」

「狩人の装束と見て間違いないかと」


 告げられた事実から導き出される可能性にアンヘルが竦み上がる中、全てのランプから青白い炎が溢れ出す。


「アンヘル!」

「っちぃ!」


 咄嗟にランプを投げ捨てた後、アンヘルは双剣を抜き払う。


「今度は何が起きたんだ?」


 青白い炎を胸に灯した人形が一つ、また一つと立ち上がり武器を構え始める。


「……アンヘル、彼らは物言わぬ骸。さっき戦った骸骨と同じです」

「倒してやるのが一番の供養になるってことだろ?」

「理解が早いですね、良いことです」


 人形の群れが包囲網を作る中、アンヘルは声を張り上げて叫ぶ。


「新米へのご指導、お手柔らかに頼むぜ。先達の皆様方!」

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