第2話 開かれた五つと封じられた一つの扉
「ここは……エントランスホールか?」
城内に入ったアンヘルがまず目にしたのはどこか古めかしい雰囲気を漂わせる空間だった。
「良かったですね、手荒な歓迎を再び受けずに済みそうで」
「あんなのを何度も受けてたら身がもたねぇっての」
溜め息混じりに言いながらアンヘルは周囲を注意深く観察する。
「……怪しいのはいくつもある扉だけか」
「全て調べてみましょう」
「まぁ、そうするしかないよな」
薔薇の装飾が施された扉を全て調べて情報を整理した後、クリスが要点を纏めた見解を述べる。
「断言出来るのは全ての扉に転移の魔法が施されていることと上階にある赤い薔薇の扉には複数の封印が施されていることの二つ。推測の域を出ないのは赤い薔薇の扉に施された封印を解く鍵が残り五つの扉の向こうにあることですね」
「青、黒、橙、黄色、白……さてどれから行ったもんかな」
「難易度が分かれば簡単な方から挑めるのですけどね」
「ゲームじゃあるまいし、そんなの分かるわけないに決まってんだろ」
「……それもそうですね。では、どうしますか?」
「こういうのは直感で決めるんだよ」
少し悩んだ後、アンヘルは青い薔薇の扉を指差す。
「よし、まずはここから行くぞ」
「攻略の難易度が低いことを祈りましょう」
ドアノブをゆっくりと回し、扉を少しだけ開く。
──その瞬間、アンヘルの視界は白く塗り潰された。
「っ……何が起きたんだ……?」
いつの間にか薄暗い墓地に移動していたことにアンヘルは酷く困惑する。
「どうやら扉を開けた時点で転移の魔法が起動する仕組みだったようですね」
「普通は潜った後だろ……」
「そのような常識を吸血鬼に求めない方が良い、という教訓が得られたと割り切りましょう」
「……そうすっか」
深い溜め息を吐き、アンヘルは空を見上げる。
「城の外に放り出されたのか?」
「いいえ、ここは魔城の中に作られた異空間です」
「……これもこっちの常識を求めない方が良い奴だな」
「どうやって戻るかは後程考えるとして、まずは鍵を探しましょう」
「最奥地に隠してある……って常識も通用しない前提で探してみるか」
「そもそもどこを最奥地と定めれば良いのかさえも分かりませんしね」
クリスとの雑談に花を咲かせながらアンヘルは墓地を彷徨い歩く。
「──アンヘル、周囲に警戒を」
そうクリスが警告した直後に土の下から骸骨たちが這い出てくる。
「次からは自力で対処しろ、だったな」
「はい、私は武器として振るわれる以上のことはしません」
双剣を抜き払い、アンヘルは深呼吸をする。
「さあ、来な!」
アンヘルの叫ぶ声に呼応するかのように骸骨たちは一斉に動き出す。
「まずは、こう!」
最初に突っ込んできた骸骨に一太刀浴びせた後、アンヘルは別方向から飛びかかろうとしたもう一体に回し蹴りを叩き込む。
「んで次は、こうして!」
返す刃でまた新たな一体を斬り伏せ、順手から逆手に持ち替えた片方の剣を後から迫っていた別の一体に突き刺す。
「でもって、こう!」
四方から飛びかかってきた骸骨たちに対して回転斬りを浴びせた後、アンヘルは頬を伝う汗を乱暴に拭いながらクリスに訊ねる。
「初めてにしちゃ、まぁまぁ動けてる方だろ?」
「そうですね、力み過ぎてる点については初回ということで大目に見ましょう」
残り僅かとなった骸骨たちに切っ先を向け、アンヘルは不敵に笑う。
「さぁて、もうひと踏ん張りだ!」
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