血薔薇の狩人
等星シリス
アンヘル編:帰天
第1話 荒れ果てた庭園での初陣
今より少し昔、魔の存在が人間に害を成していた頃のこと。
明けない夜を生み出す魔城の主たる女王吸血鬼ベアトリシアが悲劇と混乱を撒き散らしていた。
事態を重く受け止めた数多の狩人たちがベアトリシアを討伐せんと魔城に乗り込んだが、目的を果たせた者はおろか途中で逃げ帰った者すら一人としていなかった。
抗う術を持たない人々が血と涙を流し続ける中、一人の青年が魔城の前へと辿り着く。
「これが噂に聞く魔城、か」
「怖気付きましたか?」
「ハッ、まさか」
携えた双剣から響く声に対して肩を竦めながら青年は開け放たれた門を潜る。
「──おや、今日のお客さんは若い男かい」
庭園に咲く大輪の薔薇が蠢き、中から姿を現した女が品定めをするような視線を青年に向ける。
「歓迎でもしてくれるのか?」
「ああ、たっぷりもてなしてやるよ。あんたの命と引換えにね!」
女が叫ぶのと同時に無数の茨が勢い良く伸び、青年に向けて振り下ろされる。
「うおぁっ!?」
女の手荒い歓迎を必死に躱し、青年は抜き払った双剣を構える。
「……あんた、ひょっとして戦いは素人かい?」
「だったらどうした、手解きでもしてくれるのか?」
「甘ったれたことを言うんじゃないよ!」
激昂する女が再び無数の茨を振り翳そうとしたその時、双剣から声が響く。
「……やむを得ませんね。アンヘル、どうかご容赦を」
振り下ろされた茨がアンヘルと呼ばれた青年の身体に打ち付けられる──よりも先にその全てが斬り伏せられていた。
「なっ……!?」
「余興はこれまでとしましょう」
さっきまでとは打って変わって機敏な動きを見せるアンヘルに対応できないまま女の身体は薔薇と切り離され、瞬く間に朽ちていく。
「……クリス、こういうことが出来るなら先に教えてくれよ」
「不要な甘やかしに繋がる情報は秘匿すべきと判断しました」
「手厳しいなぁ」
「次からは自力で対処してください」
「へいへい、さっきの動きを手本にして頑張りますよっと」
クリスと呼んだ双剣を鞘に納め、アンヘルは辺りを軽く見回す。
「……他の奴はいないようだな」
「目ぼしいものも特に無さそうですね」
「じゃあとっとと入っちまうか」
冷たい夜風が吹き抜ける中、アンヘルは魔城の中へと足を踏み入れる。
──その目には底知れぬ怒りが宿っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます