第30話 ルティア パート13
「シェダル様、お願いします。聖女様に会わせてください」
「あなたはハイドランジア国のヒーリン王女殿下ですね。シンシ教皇様からあなた方が来ることは知らされております。そして、コブリンの少女の治療をアルカナ様に頼みにきたことも承知のうえです。私もすぐにコブリンの少女の治療をしたいのですが・・」
シェダルは目を閉じてしばらく考え込む。
「シェダル様、何か不都合なことでもあるのでしょうか?」
「ヒーリン王女殿下は治療が終わったらこのコブリンをどのようにするつもりでしょうか?」
「ゴブリンの森に送り届けるつもりです」
「そうですか。しかし、それはかなり難しいことだと思います」
「わかっています。8年前からゴブリンの森への立ち入りは禁止になりました。しかし、このままこの子を王都に住まわすことはできません」
ルティアを治療をして元気な姿に戻したところでデンメルンク王国で平穏に暮らせる場所はない。
シェダルは少し間を置いてから、ヒーリンに返答する。
「コブリンの治療をアルカナ様にしてもらう代わりにお願いがあります」
「何でしょうか?私にできることなら何でも致します」
「コブリンは私たちで保護します。そして、コブリンは助からなかったと親しい人たちにお伝えしてください」
「・・・」
ヒーリンはすぐには返答できなかった。
「ヒーリン王女殿下、あなた方ではコブリンを匿うことはできないでしょう。ましてや、今コブリンの森へ行くのは危険です」
「シェダル、今は危険とはどういうことだ」
ケルトはシェダルの言葉に違和感を感じて思わず感情的に怒鳴ってしまう。
「あなた方は合同卒業式に参加されていませんので、新しい情報を知らないのです。今頃、卒業の挨拶で大きな2つの出来事を発表しているはずです。1つはモナーク王子殿下がゴブリンキングの討伐に名乗りをあげたこと、もう1つはあなたが不正をして模擬戦でモナーク王子殿下に勝った為に退学処分になったことです」
「ちょっと待て、何を言っているんだ。俺は不正はしていない。それにモナークがゴブリンキングの討伐などできるはずがない」
慌ててケルトは訴える。
「あなたはご存じのはずです。デンメルンク王国の事柄は全てロード国王陛下が決定します。ロード国王陛下が不正をしたと言えば、不正したことになります。そして、モナーク王子殿下がゴブリンキングを倒せないのは皆も承知のうえです。それでも、モナーク王子殿下の意向を尊重したのには理由があります。しかし、ここでそれをあなたに教えることはできません」
「お兄様、コブリンの件はシェダル様に任せて、私達は身の危険に対処する必要があると思います」
「そうだな。昨日は亜人種を使って俺を殺しに来た。今まで危害を加えるようなことをしてこなかったが、模擬戦でわざと負けなかったことで、本気で俺を排除しにきたようだ」
「そのようです。いまの状況でコブリンを匿うことは不可能です。それに、コブリンと一緒にいるところを見つかったら、どのような言いがかりをつけられるかわかりません」
モナークがβを使ってケルトを暗殺しようとしたように、ケルトがαを使ってモナークもしくはロード国王を暗殺する計画を企てていると嫌疑をかけられる可能性があるとヒーリンは考えた。
「お2人は賢いので助かります。コブリンは私が責任をもってアルカナ様に治癒をしてもらい、誠心誠意をもって保護させていただきます。私の言葉に嘘偽りがないことを証明するために、コブリンが元気になった姿をお見せすることを約束します」
「わかりました。私達はシェダル様を信じます。どうかよろしくお願いします」
ケルトとヒーリンはシェダルを信じることしかルティアを救う術はない。しかし、否応なしに信じたわけではない。シェダルの凛とした佇まい、心を落ち着かせるような心地よい声、気持ちが穏やかになる温かいオーラ、シェダルの全ての所作が2人を信じさせる道に誘導していた。
「ケルト王子殿下、恐らくあなたはとても厳しい選択を迫られることなるでしょう。しかし、勇敢なあなたなら正しい選択を選ぶことができるはずです。私は何もしてあげれませんが、自分の信じた道を進むと良いでしょう」
「わかった」
「ヒーリン王女殿下、あなたもこれから厳しい環境に陥ることになるでしょう。しかし、あなたには心強い仲間がいます。どのような環境に陥っても心を砕かずに仲間と共に歩み続けてください」
「わかりました」
2人はシェダルの言葉を真剣に受け止めた。これから2人に待ち受ける運命は、イバラの道しか残されていないことを明確に理解した。
「それではコブリンを預かります」
シェダルはケルトからルティアを受け取った。
「またお2人にお会いできる日があることを切に願っております」
扉はゆっくりと閉められてシェダルの姿が見えなくなった。
「これで本当によかったのか?」
「私たちに他に選択肢はありませんのでシェダル様を信じましょう」
「そうだな。それにシェダルの言葉が本当なら、コブリンを助ける余裕は俺たちにないはずだ。到底退学処分だけでは済まされないはずだから、何かしらの制裁が加えられらだろう。もちろん、俺だけではなくお前にも危害が及ぶと考えた方がよい。すぐに宿屋に戻ろう」
「はい、お兄様」
2人は早急に宿屋に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます