第28話 ルティア パート11

 モナークがステージか降りた後、ロード国王は静かに特設国王席から腰をあげて席を立つ。ロード国王の前には2人の男性が先導するように歩く。ロード国王は頭には王冠を被り、金色の鮮やかなマントを羽織ってゆっくりと2人の男の後を歩き、その後ろに派手な女性がついて行く


 ロード国王は2mの屈強な身体をしているが、そのロード国王よりも一回りの大きな身体をしている2人の男の正体は、1人は王国騎士団の総大将であり名をフォルスと言う。身長は2m20cmと騎士団で一番大きな身体を持ち、後ろに歩いているロード国王が小柄に見えてしまう。フォルスは白銀のフルプレートアーマーで身を包み仮面の隙間から鋭い眼光で周囲の安全を確認しながら歩いている。もう1人の男はデンメルンク王国の宰相のウィズダムである。ウィズダムは身長2m10㎝あり、ゆったりとした黒いガウンをまとい黒のタイトなパンツを履いている。派手なアーマーに身を包んだフォルスとは違いロード国王を引き立てるために目立たない格好をしていた。


 そして、ロード国王の後ろを歩いているのは、さまざまな宝石が散りばめられた真っ赤な派手なドレスを着ているのがモナークの母であり第一王妃のアプロディーテーである。


 特別国王席からステージまではさほど距離はないが、兵士たちはステージまでの道のりを微動だにせずに敬礼をして立っていた。


 民衆たちや観覧に来ている貴族達は盛大なる拍手でロード国王を讃え『デンメルンク王国バンサイ』と大きな声で叫ぶ。


 ロード国王はその光景を満足そうに眺めながらステージに立った。いつの間にかステージにはロード国王専用の豪華な演台と椅子が用意されていて、ロード国王は椅子には座らずに演台に手を付き演説を始めた。



 「卒業生の諸君、これからはデンメルンク王国のために神から授かった『称号』に恥じない人生を送らなければならない。10年間の学生生活でお前達は自分の潜在能力を最大限に引き伸ばせるようになったはずだ!その力は自分自身のためでなくデンメルンク王国の発展のために使うことが使命であり、俺からの命令でもある。王国騎士団に入る者、地元の町や村に戻り兵士になる者、冒険者として国の安全を守る者、様々な選択肢が用意されているはずだ。その選択はお前達が自由に決めるが良い。しかし、デンメルンク王国に利益のない道を選んだ者はどうなるかはお前達なら理解しているだろう。デンメルンク王国に反旗を翻す者、俺の指示に従わない者は、家族もろとも地獄のような苦しみを味わうことになるだろう。お前達の未来は俺の手のひらの上にあることを決して忘れるな」



 ロード国王はステージから民衆達、卒業生達、観覧に来ている貴族達に向かって言い放った。そしてそれを静かに聞いていた全ての者たちが盛大なる拍手でロード国王の演説に賛辞の拍手と声援を送る。


 全ての者達が・・・いや、1人だけ下を向き拳を握りしめて拍手をしていないものがいた。それはインペラトーレである。インペラトーレは身長175cm、黒髪の長髪でサイドを刈り上げている男で、『覇王』の称号を持つシンシ教皇の息子であった。


 『覇王』の称号を授かって生まれたインペラトーレは、いつもモナーク・ケルトと比べられて非常に不愉快な思いをして10年間の学生生活を送っていた。『覇王』の『称号』を授かって生まれただけでも注目を浴びるのだが、同世代に同じ『覇王』の称号を持つモナーク、『覇王』と同等の意味を持つ『英雄』の『称号』を持つケルトは疎ましい存在であった。


 いずれ王の座をめぐってモナークと戦う必要があるインペラトーレは、己の手の内を隠すために、人前では無能な振りを演じて成績は卒業生の中では下の方であった。そんなインペラトーレの策略にハマったロード国王とモナークは、インペラトーレは無能だと判断し眼中に入ることはなくなった。しかし、ケルトはすぐにインペラトーレの策略に気づていた。


 インペラトーレは心にしまい込んだ野心を抑えながら、モナークとロード国王の演説を拳を握りしめて聞いていた。ロード国王の演説が終わり卒業式はなんのトラブルもなく終了した。


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