第27話 ルティア パート10

次の日・・・



デンメルンク城の大庭園にはたくさんの民衆が集まっていた。大庭園には入りきれない者も多く城の周りにも人集りができている。


 大庭園に集まった民衆の目的はモナークでもロード国王でもない。ケルトを見にきたのである。文武両道かつイケメンそして、属国の王子であるケルトの人気はデンメルンク王国でもずば抜けていた。ケルトの卒業の挨拶を聞くために多くの民衆が楽しみにしていた。


 ロード国王はケルトの成長を恐れて無理やりに編入させたが、それが裏目に出てしまったのである。人柄実力容姿どれをとっても完璧であるケルトと、人柄実力容姿どれも今一つのロード国王とモナーク王子では太刀打ちできるはずもなく、自分から蒔いた種とも言えるが、側近たちは2人にかける言葉も見つからない。


 大庭園には特設ステージが設けられていて合同卒業式は着々と進んでいた。成績優秀者の卒業の挨拶はメインイベントであり合同卒業式の最後に行われる。民衆たちはどこにもケルトの姿が見えない事に少し違和感を感じていた。そして、ついにケルトの挨拶の番がきた。



 「皆さんに1つお知らせがあります。昨日の模擬戦で勝利したケルトですが、不正が発覚した為退学処分になりました。ロード国王陛下が愛情を注いで成長を手助けてしたあげていたのですが、このような形で期待を裏切る行為をしたことを誠に残念で仕方ありません。本来なら即刻死刑を言い渡しても良いのですが、優しいロード国王様はその判断をすることはありませんでした。ケルトの退学後の処遇は今のところ検討中ですので、ケルトを罵倒するようなことは最低限に抑えていてください。皆様の怒りを抑えるために最大限の処遇を考えておきます」

 「・・・」



 唐突な校長の言葉に民衆は唖然としていた。誰の目から見てもケルトは圧倒的な力でモナークから勝利をおさめていた。そもそもどんな不正をしたのか説明はない。しかし、ここで否定することはできないので民衆は静観するしかない。その時1人の男が大声で叫んだ。



 「そしたら誰が卒業の挨拶をするんだ!」

 「そうだ」

 「そうだ」



 1人の男が叫ぶと同時に、その言葉に同調するかのようにみんなが連呼する



 「モナーク王子殿下しかないだろう」

 「そうだ」

 「そうだ」



 モナークを推す声が一つ一つ叫ばれて、次第に集まった民衆すべてがモナークコールを始める。もちろん、これはロード国王のシナリオ通りである。集まった民衆たちも空気を読み取り、いやいやながらモナークコールを叫ぶはめになる。



 「わかりました。みなさんがモナーク王子殿下を推すのであれば、私の権限で卒業の挨拶はモナーク王子殿下にお願いします」


 

 と校長が述べた途端にステージに花吹雪が舞って赤いマントを羽織ったモナークがステージの中央から飛び上がって来た。もちろん、モナークはステージの下で待機していた。


 「これはこれはモナーク王子殿下、ケルトのかわりに挨拶をお願いできないでしょうか?国民の皆様がモナーク王子殿下の挨拶を聞きたいと言っています」

 「・・・」


 「皆さま、モナーク王子殿下はケルトに気を使って挨拶をするのか迷っていられます。皆さま、盛大なる拍手でモナーク王子殿下にこそ、卒業の挨拶をするのが望ましいとエールをおくりましょう」


  

 校長の言葉に民衆はしぶしぶ盛大なる拍手を贈る。するとモナークは校長からマイクを受け取りマントをなびかせながら挨拶をはじめる。



 「ケルトが不正をおこなって俺に勝ったことは断じて許されることではない。即刻死刑を求刑したいところだが、『神の盾』に守られている以上手出しすることはできない。偉大なるロード国王陛下も今回の卑劣な手段に対して退学処分という甘い処分で許す判断をされたので俺もそれに従うことにした」



 モナークは暗殺に成功していれば、ここでケルトの首を晒して自分のが強いことを証明するつもりだったが失敗に終わった。自分ではケルトに勝てないことは一番理解しているので、これ以上深追いをする勇気はなかった。



 「ここに集まった中には俺よりもケルトのが強いと間違った判断をしている者もいるだろう。だから、俺はここで宣言をする。ゴブリンの森で俺達の命を虎視眈々を狙うゴブリンキングを俺が討伐する」



 モナークの発言に集まった民衆は奇声に似た歪な声を上げる。それはモナークの宣言があまりにも無謀な発言であったからである。『神の盾』が通じないゴブリンキングに挑むのは自殺行為と言っても過言ではない。



 「皆が驚くのも無理はない。ケルトでさえビビッてゴブリンキングの討伐を断念した。しかし、俺は違う。王になる者は偉大なる功績をあげることによってレベルが上がるのだ。俺はデンメルンク王国を脅かす存在であるゴブリンキングを討伐して『覇王』のレベルを2にするぞ」



 『レア称号』のレベルを上げるには、それぞれの『レア称号』の特性に応じてレベルの上げる方法は違う。『覇王』と『英雄』は国民の為に偉業を成し遂げた時にレベルが上がると言われている。ケルトはハイドランジア国で国民の為に近辺の魔獣を退治し続けたことによってレベルが上がった。デンメルンク王国に来てからは、国民の為に何かをしようとしても、ロード国王から邪魔をされていた。スラム街に入れなかったのも、レベルが上がる事が恐れての判断であった。



 ※『レア称号』のレベル上げとして一番効果的な別の方法はある。その方法を知る者は少ない。



 モナークの無謀とも言える発言に一部の民衆から拍手が贈られる。それに追随するように拍手は大きくなり、デンメルンク城に響き渡るようなうねるような拍手の渦が広がっていく。ほとんどの民衆は心の中では無謀なことだと思っていた。それゆえに、ゴブリンキングの討伐に失敗してモナークが死ねば、次の王にはケルトがなるかもしれないという淡い欲望を見出していた。この盛大なる拍手の意味にモナークか気付くことはなかった。

 いつものかりそめの拍手とは違い民衆の生き生きとした目、心から希望に満ちた声援そして鳴りやまない盛大なる拍手を受けたモナークは性的興奮に似た快感を得て満足していた。初めて気持ちの良い拍手を受けたモナークは柔らかな笑みを浮かべ民衆に手を振りながらステージから姿を消した。

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