第25話 ルティア パート8

 「お前たち、その肉塊をどうするつもりだ」



 ヒーリンとケルトがルティアを担いで運ぼうとした時、銀のフルプレートアーマーに身を包んだ兵士が声をかけてきた。



 「デンメルンク王国では、こんな非人道的なことを平気でするのか?俺たちはこのコブリンを保護する為に、スラム街の責任者の元へ行き買い戻すつもりだ」

 「お前は間違っている。そいつは亜人種だ。亜人種は神からの寵愛を受けていない欠陥種族、よって害虫と同じように駆除する必要がある。しかし、情に厚いロード国王陛下はゴブリンたちを駆除せずに、性奴隷としての役割を与えてあげている。それを非人道的行為だと罵倒するのは見識が甘すぎる。ケーニヒ王はどんな教育をしているのだ」



 兵士は哀れみの目でケルトを軽蔑している。



 「デンメルンク王国の兵士様、あなたたちの考えはミレニアム教会の教義に即した正しい判断だと思います。しかし、私たちはミレニアム教会の信徒ではありません。私たちの住むハイドランジア国では、種族身分称号に関係なく、皆が平等に生活をする権利があると教わっています。ここはデンメルンク王国ですが、私たちの心はハイドランジア国で学んだ教えに染まっています。お互いの価値観の違いはありますが、私は私の信じた道を進みたいのです。どうか、お願いします。このコブリンを私たちに譲ってもらえるようにシンシ教皇様にお願いしてもらえないでしょうか?これは、少ないですがお受け取りください」



 ヒーリンは綺麗な絹の小袋を兵士に渡す。兵士は小袋を受け取り中身を確認する。



 「ケーニヒ王は娘の躾はきちんとできているようだな。俺は賄賂を受け取るような欠陥兵とは違い、『剣士』の『称号』を授かった神からの寵愛を受けた選ばられた人間だ。神の教えを背くようなことは絶対にしないが、お前の言い分も一理あるとは思う。お前はデンメルンク王国の人間でなくハイドランジア国の人間だ。俺はお前の信念を尊重するくらいの度量は持ち合わせている。しかし、シンシ教皇様はお忙しい人だ。会わせることはできないが、俺が代わりに取り引きに応じてやろう」



 兵士は先ほどまでの厳しい表情は消え去り、ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべる。



 「これを受け取れ」



 次はケルトが絹の小袋を兵士に投げつけた。



 「これは・・・」



 兵士の気持ち悪い笑みがさらに醜さが一層した。



 「お前もよくわかってるじゃないか。欠陥種族のゴブリンだが、使い道によっては役に立つこともあるものだ。シンシ教皇様には俺から説明しておくから、さっさとそのゴミを持っていけ」



 兵士はその場から姿を消した。



 「ヒーリン、スラム街を管理しているシンシ教皇に直接許可を取らなくて問題はなかったのか?」

 「問題はありません。スラム街でコブリンの売り買いなどさほど問題のある行動ではありません。だからこそ兵士も小遣い稼ぎに私たちに因縁をつけてきたのです」


 「予測内の範囲だったと言えるのか」

 「はい。初めから門兵にお金を渡して買い取るつもりでした。ちょっと予定がくるいましたので、お金にがめつい門兵にもチップを渡した方が良いです。そのほうがスムーズにスラム街から出ることができるでしょう」


 「わかった。すぐにスラム街から出てコブリンを俺の宿に連れて行こう。お前はみんなのもとに一旦戻ってから俺の宿に来てくれるか?」

 「わかりました。その子はお兄様に任せますのでよろしくお願いします」



 ケルトはルティアを背負いその上からマントを羽織ってルティアを隠す。


 「お兄様、気を付けてくださいね」

 「心配はいらない。俺は神の加護で守られている」


 

 ケルトはヒーリンに笑みを浮かべ走り出した。ヒーリンはケルトの姿が見えなくなるまで見送ると、仲間が待っている炊き出し場所に向かった。 





 「ケルトがもう時期こちらへ来るみたいだ」

 「本当にケルトを襲うのでしょうか」



 先ほどの兵士はお金を受けると怪しい二人組のもとへ向かっていた。



 「ああ。ケルトをスラム街に入れる許可を出したのはケルトを暗殺するためだ。ケルトはロード国王陛下の王位の座を脅かす危険な存在、3年間ケルトの成長を抑える為にあらゆる手段を講じてレベル上げを阻止してきたが、モナーク王子殿下は圧倒的な実力差で敗北した。ロード国王陛下からは、ケルトに手を出すのは危険だと忠告をうけているが、モナーク王子殿下の願いを拒否することはできない。上手い具合にヒーラーのヒーリンと離れたこの好機を逃す手はない」

 「わかりました。しかし、神の盾で守られいるケルトを暗殺するなど不可能だと思います」



 ケルトがグロワール王立学院に強制的に編入させられた原因はケルトの成長を止めるためであった。『英雄』の『レア称号』を授かり14歳でレベル2に成長したケルトにロード国王は恐怖を感じていた。ロード国王は未だにレベル1の低レベルであり、息子のモナークもレベル1から成長をしていない。これ以上レベルを上げられたら困るロード国王は、ケルトにグロワール王立学院に編入することを命令し、ケーニヒ王もそれを拒むことはしなかった。これはヒーリンも同様である。ヒーリンも14歳でレベル2に到達した為に、ミレニアム教会学院に編入させられて成長を抑えられていた。


 『覇王』そして『英雄』の『レア称号』を授かった者には、神から特別なスキルを授かっている。それは『神の盾』というスキルである。『神の盾』とはいかなる攻撃も防ぎ尚且つ倍返しの反射攻撃をする鉄壁の防御スキルである。どんな魔法もどんな武器による攻撃もすべて跳ね返して、攻撃者の元に反射してしまう。反射された攻撃は回避不可能でありダメージは倍返しとなる。

 これは王になった者そして王になる者を暗殺者などから守るために神から与えられた特別なスキルだと言われている。『神の盾』がある限り『覇王』そして『英雄』を殺すことは不可能である。しかし、これは無敵のスキルというわけでもない。『神の盾』を発動している間は、スキル保持者の攻撃も無効化されるからである。なので、一方的に攻撃できる無敵のスキルではなく、あくまで暗殺などを防ぐためのスキルであった。

 『覇王』そして『英雄』の『レア称号』を授かった者と戦うには、『決闘の盟約』を宣言した時に決闘が開始される。もちろん、決闘者以外の攻撃は跳ね返されるので、1対1の決闘しか成立はしない。『神の盾』のスキルがあるのおかげで『覇王』そして『英雄』の『レア称号』を授かった者は無事に成長することができるのであった。



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