第24話 ルティア パート7

「何!ヒーリンの『完全治癒』が破裂しただと」


 『祝福の女神』のスキルの1つである『完全治癒』は、字のごとく死以外の状態を完璧に治す事ができるスキルであるが、1日5回と制限がある。


 「お兄様、このコブリンをこのような状態にしたのはモナーク殿下です。『覇王』のスキルの1つ『王の鉄槌』を使用したに違いありません」

 「アイツは・・・『支配の首輪』で逆らえない相手に『王の鉄槌』を使って治癒魔法を無効化したのか」


 『覇王』のスキルである『王の鉄槌』は、自身が有する潜在的能力を引き出して、攻撃力、防御力などにバフをかけ、さらに攻撃された相手には治癒魔法無効化のデバフをかける事ができるスキルである。



 「噂にたがわぬ残忍なお方ですね」

 「くそ!どうしたらいいのだ。どうすればこの子を救う事ができるのだ」



 肉塊となったコブリンの少女ルティアがまだ生きているのが不思議であった。頑丈で生命力の強いコブリンでも、ここまで痛めつけられたら普通は死んでしまうだろう。しかし、意識を失い呼吸もすることもできないルティアはまだ生きている。



 「お兄様、聖女様に救いを求めましょう。私の仮説がただしければ、この子が生きているのは聖女様の力の加護を受けた為だと思われます。それに聖女様に確認したいこともあるのです」

 「アルカナ王女殿下にお願いするのか?ロード国王がそれを許すとは思えないぞ」


 「もちろん許すわけはないでしょう。しかし、直接頼めることができれば、必ず聖女様はこの子を救ってくれるはずです」

 「たしかアルカナ王女殿下は、デンメルンク王国ミレニアム協会の総本山であるミレニアム大聖堂『本殿』の最上階に監禁されていると噂されているが、それが本当であれば会いに行くのは不可能なはず」



 デンメルンク王国ミレニアム教会とは、『称号』を授けて下さる神を崇拝する教会であり、デンメルンク王国のみに存在する教会である。デンメルンク王国が建国されたと同時に設立されたと文献に残されていた。

 ミレニアム教会では、『称号』を授かった者だけが神の寵愛を受けた人間であり、『称号』を持たざる者は、神から見捨てられた欠陥品であると解釈されている。そのため、デンメルンク王国では、『称号』を持たざる者は王族、貴族であっても要職に就くことはできず、最低限の暮らししか認められていない。


 ミレニアム教会の総本山であるミレニアム大聖堂は王都にあり、ミレニアム大聖堂には、治癒魔法系の『称号』を授かった者だけを教育するミレニアム教会学院が存在する。『祝福の女神』の『レア称号』を授かった属国の王女であるヒーリンは、半ば強引な形でミレニアム教会学院に15歳の時に編入させられた。

 ミレニアム教会学院もグロワール王立学院と同様に入学は8才であり10年間の過酷な勉強を強いられることになる。ケルトもヒーリンと同様に15歳の時に強引にグロワール王立学院に編入することになった。


 ヒーリンは編入して1年目で、後2年ミレニアム教会学院で学ぶことになる。ヒーリンはミレニアム教会学院に編入してから一度もアルカナに出会ったことはない

 アルカナは8歳だが、ロード国王の声明によると、3歳の頃から城から離れミレニアム教会学院で魔法を学んでいるらしい。しかし、アルカナの姿を見た者はいないので、ミレニアム大聖堂『本殿』の最上階に監禁されていると噂が立っていた。



 「その噂は真実だと思います。ミレニアム大聖堂は5つの建物から成り立っていますが、『本殿』であるミレニアム大聖堂はシンシ教皇と一部の側近の者しか入ることは許されません。私たちミレニアム教会学院に通う生徒は、ミレニアム大聖堂の別館『学びの館』で魔法などを勉強し『憩いの館』で生活をしています。聖女様は『学びの館』にも『憩いの館』にも姿を見せたことはありません。ミレニアム教会の信徒が祈りを捧げる『神の館』、職員など関係者が住んでいる『暮らしの館』でも聖女様は見た者はいません。なので、消去法で考えますとミレニアム大聖堂の『本殿』にいることは間違いないでしょう」

 「『本殿』にはシンシ教皇と一部の関係者以外は入れないはずだろ?どうやってアルカナ王女殿下に会いに行くつもりだ」


 「明日はグロワール王立学院とミレニアム教会学院の合同卒業式となっています。今回の合同卒業式は、モナーク王子殿下が卒業されるのでデンメルンク城の大庭園で盛大に行われます。大庭園には生徒の家族だけでなく有力貴族など様々な著名人が強制的に参加させられ、大庭園に入れない王都民は、デンメルンク城の周辺でモナーク王子殿下の卒業を祝福しなければなりません」

 「そうか・・・そういうことか」


 

 ケルトはヒーリンの説明に納得する。



 「そうです。合同卒業式では成績トップの人物が挨拶の言葉を述べることになっています。今年はお兄様が挨拶の言葉を述べる予定でした。しかし、お兄様は明日急遽体調を壊して卒業式を欠席して、代わりにモナーク王子殿下が挨拶の言葉を述べることになっています。私もお兄様の看病をするために欠席しなければいけません」

 「あいつらの嫌がらせが役に立つことになるとは思わなかったぜ」


 「はい。明日は一部の警備の者はいると思いますが、ミレニアム大聖堂『本殿』に忍び込むチャンスだと思います」

 「これで希望の兆しは見えたのかもしれない。しかし、それまでコブリンの体調が持つのか心配だ」


 「それなら大丈夫でしょう。どのようないきさつがあったのかわかりませんが、この子には聖女様の加護が与えられています。本来なら死に至る状況に陥ったとしても一度だけは全回復してすぐに元気になるはずです。しかし、『王の鉄槌』での攻撃だったので、死ぬことは免れましたが、全回復することが出来ずに生死の境をさまよっています。しかし、『王の鉄槌』の効果よりも聖女様の加護の方が力が勝っているはずなので、死ぬことはないでしょう」

 「そうか。自然に回復するのは不可能に近い状況だ。一刻も早く元の状態にもどしてあげたいが明日まで待つしかないようだな」

 


 ロード国王とモナークの嫌がらせが思わぬ形で功を奏することとなった。


 

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