第23話 ルティア パート6

 肉塊を襲うのを止めた男達はヒーリンを舐め回すようにやらしい目つきで見ながらイチモツに手をあてて激しくこすり出す。この場所に綺麗な姿をした女性が入ってくることは少ないので、服を着ている姿でも彼らの性欲は頂点に達する。



 「お前ら何をしている、早くこの場から立ち去れ!」

 「お兄様、怒鳴らないでください。彼らの大半は私達の自国民です。このような場所に閉じ込められているのは、元を正せば私達の責任です。私は気にしてませんので自由にさせてあげてください」



 ヒーリンは責任を感じていた。スラム街に住んでいる住人の大半はハイドランジア国で貧しい生活をしていた国民である。ロード国王の甘い言葉に騙されて、デンメルンク王国の王都に出稼ぎにきた成れの果ての状況に、ヒーリンは父であるハイドランジア国のケーニヒ王に救いの手を求めた。しかし、ケーニヒ王はロード国王に逆らう事は出来ないとヒーリンの救いの手を拒んだのである。そのため、ヒーリンは少しでもまともな食事ができるようにと炊き出しを自主的に行っていた。もちろん、ケルトもスラム街で自国民の為に何かできる事はないかと模索していたが、スラム街に入る許可が降りなかったので、何もできずに心を痛めていた。やっと、スラム街に入る許可が降りて、最初に目にした光景が、歪な姿にされたコブリンをみんなで蹂躙している姿であった。



 「アイツらは俺達の警告を無視して出稼ぎに行った愚か者だ。お前が責任を感じることはない」


 

 ハイドランジア国は穀物も育たない荒れ果てた土地であったため、デンメルンク王国が放置していた未開発の土地である。その土地に国を作ったのがケーニヒ王であり、熱い人望の持ち主であったケーニヒ王を崇める弱者たちが、ケーニヒ王に希望を求めてハイドランジア国に多くのデンメルンク王国の住人が移住をした。

 ハイドランジア国が建国して20年の時が過ぎた。しかし、ハイドランジア国が大きく発展することはなく、デンメルンク王国の属国として、細々と存続している魅力のない国になっていた。希望を失った多くの住人はデンメルンク王国に戻ることはしなかった。それは、デンメルンク王国はロード国王の独裁政権であり、称号至上主義を掲げる独裁国家である。『称号』を持たざる者にとっては非常に生きにくい国なのであった。



 「国民の皆様は父に希望を託して移住してくれたのです。しかし、荒れ果てた死の土地では作物はあまり育たず、国民の皆様は貧しい生活を強いられる結果となりました。そんな暮らしの中、ロード国王陛下が新たに掲げた出稼ぎ計画はとても魅力的なものでした。それに騙されるのは仕方のないことなのです」

 「ロードを信じるなんて愚かな事だ。あいつが『称号』の授かっていない者に情けをかけることなんてありえないだろ」


 「その通りですが、騙された者の大半はハイドランジア国に移住した時には子供だった国民達です。親や私達の反対を押し切って出稼ぎに出た者はロード国王陛下の恐ろしさを理解していなかったのです」

 「わかっている。だから、あれだけ説得したのに・・・」



 ケルトは言葉に詰まる。出稼ぎに行ったのは10代半ばから20代前半の若者たちである。ロード国王の卑劣で残忍な悪政をしらない若者たちが犠牲になっていた。この中にはケルトと共に少年時代を過ごした友達もいる。貧しいながらも夢を語り将来に希望する若者たちが、どのような状況に陥れば、ゾンビのような死人同然の姿になるのか想像もつかない。ケルトが大声で怒号をあげたのはこの現実を受け入れることのできない証だったのかもしれない。


 

 「みなさん、驚かしてごめんなさいね。お気持ちが良くなったらご飯を食べましょうね」


 

 ヒーリンは自慰行為をしている男性たちに笑顔で優しく声をかける。男性たちは白い液体をまき散らしながら、ゴミ広場から離れて行った。



 「ヒーリン、いつもこんな状況なのか」

 「そうですね。でも、今はそんなことよりもコブリンの女の子の治療が先です」



 ヒーリンはすぐに肉塊の近くに駆け寄り、ケルトも後を付いて行く。 

 2人は肉塊を近くで見て驚愕する。ヒーリンは声を出さずに大粒の涙を流し、ケルトは怒りを抑える為に歯を食いしばり体を震わせていた。


 「私がすぐに助けます」



 ヒーリンはSSランクの『レア称号』である『祝福の女神』を授かっていた。『祝福の女神』は『聖女』と同等の力を有する『レア称号』と言われ、聖女の代役として人々に癒しを与える治癒魔法系の最高峰の力を有する。ヒーリンは『祝福の女神』のレベル2であった。


 ヒーリンは肉塊に片膝を付き両手を組んで祈りを捧げる。すると、ヒーリンを中心として半径2mほどの白い円柱の魔力層が出現した。厳密には高濃度に精製された魔力を均等に全身から放出させたのである。これは『祝福の女神』の『レア称号』を授かったヒーリンだからこそできる芸当であり、普通の『称号』の治癒系魔法では絶対に出来ない領域である。


 ヒーリンが作り出した魔力の白円が、肉塊に向かってゆっくりと移動して肉塊を優しく包み込む。すると、白円が風船に針を刺したように一瞬で破裂した。

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