第17話 ゴブリンの村 パート8
「父上!大変です!」
「緊急事態です」
外から大きな声が庭に響き渡る。
「すぐに玄関を開けてください」
「わかった」
「ダグネスちゃん、急用ができたみたいだから魔法の練習はこのへんにしておこう。すぐにフードを被って顔を隠しなさい」
「はぁ~い」
モルカナの顔は険しくなっていた。何が起こったのか幼い私にもすぐに理解できた。
モルカナが玄関を開けると、周辺の警備をしていたモルカナの息子であるクリムゾンとクローバーが血相を変えて駆け込んできた。
クリムゾンは長男であり身長が2m10cmとゴブリンオーガの中でも高身長で、体重も200kgと酒樽のような体系をしているが無駄な脂肪はほとんどなく、筋力、腕力は桁外れに強くモルカナの次に強いと言われている。
クローバーは次男である。180cmとゴブリンオーガの平均的な身長より低めであり、体格も細身で筋肉量は少ないが、並外れた運動神経の持ち主でクリムゾンと互角の戦いをするほどの強さである。
「クリムゾン、ついに来たのか?」
「はい。プポンがデンメルンク王国軍の襲撃を受けました」
王都からの道のりを考えれば最初に到着するのはプポンである。
「父上、すぐに援軍に駆けつけないと危険です」
「そうだな。あいつらの目的は俺のはず・・・望みを叶えてやろうではないか!」
モルカナの覚悟は決まっていた。
「私達も一緒に向かいます。総力戦で人間達を撃退しましょう。あいつらは俺たちの家族をさらった憎き相手です。ルティアの仇を果たしましょう」
クリムゾンもクローバーもできるだけ冷静さを保つように落ち着いてゆっくりと話しているが、連れ去られたルティアの事を思い出して、込み上げてくる怒りを抑えるので必死であった。
ルティアとはモルカナさんの一番下の子供である。9年前、ルティアは5歳の時に兄のクローバーとグロリオサと一緒に森の中で遊んでいた時にはぐれてしまい冒険者に連れ去られたのである。
8年前までは、【
しかし、突然8年前のある事件を境にコブリン狩りが急激に減ってしまい、コブリンが連れ去られた話は聞かなくなった。モルカナ達はモルカナがゴブリンキングに進化したので、それを恐れてゴブリンの森に入らなくなったのでは?と推測されているが真実はわかっていない。
「最悪の事態に備えて村にいるコブリンと女性達は避難させろ」
「もちろんです。今母上様がみんなを避難させる準備をしています」
「頼む、ダグネスも一緒に避難させてやってくれ」
「もちろんです」
「お母さんとお父さんはどうなったのですぅかぁ!」
私は村を襲われたと知って真っ先に両親の安否が気になった。
「ダグネスちゃん、アザレアさんもガロファーさんもコブリン達が逃げれるように勇敢に戦っていると聞いています。2人の思いに応えるためにもいますぐに逃げる準備をしてください」
クリムゾンは、私をなだめるように落ち着いて話しているが動揺は隠しきれていない。
「嫌です。私もみんなと一緒に戦います」
人間の私をここまで育てくれた両親、そして、私をゴブリンだと思って仲良く過ごしてきたゴブリン達を見捨ててこのまま逃げるなんてできない。私には混沌の魔法がある。混沌の魔法を使えばみんなを助けることは可能である。
「だめだ!すぐに逃げるのだ」
モルカナさんが今まで聞いたことがない大きな声で私を怒鳴りつける。
「私も力になりたいのですぅ」
私の瞳から悲しみと悔しさが詰まった大粒の涙がこぼれ落ちてくる。
「俺に任せろ。俺がみんなを守ってやる」
「そうだ。俺たちに任せてくれ」
モルカナとクリムゾンは私を励ますように勇ましい表情で胸を張って答えた。しかし、それは半分本当で半分は嘘である。王国からゴブリンキングを討伐するために多くの『称号』持ちの騎士達が押し寄せている。その中には『レア称号』を授かっている者も複数名いると思われる。いくらゴブリンキングに進化したからといって、『レア称号』持ちが複数名いれば撃退することは困難である。
「嫌ですぅ。私も手伝いますぅ~」
私はみんなを見捨てて逃げることはできない。私の本当の力を見せることになるが、ここは躊躇している場合ではない。
「フラーゴラ!ダグネスを連れて逃げろ」
「わかりました」
フラーゴラは、私を抱え込んで無理矢理運び出す。
「嫌だよ。私も一緒に戦うのですぅ〜大事な人を失いたくないよーー」
「ダグネスちゃん、みんなの気持ちを汲み取ってください。人間であるあなたを、みんな本当の子供であるように育ててきました。アザレアさん、ガロファーさん、モルカナ様。みんなあなたのことが大好きなのです。もちろん私もです。みんなはあなただけは生きて元気に育って欲しいのです。ゴブリンと人間は共存することはできません。いずれこうなることは予測できていました。いくらゴブリンキングのモルカナ様でも大軍を率いた王国の騎士団を追い払うことは難しいでしょう。ここは逃げるしか方法はないのです」
「それならみんなで逃げようよ・・・」
「それができないから、モルカナ様は時間を稼ぐことにしたのです。モルカナ様の思いを受け取ってください。お願いします」
フラーゴラは私を抱えながら、抑えていた思いが溢れるように大きな瞳からは、途切れることのない涙がこぼれ落ちている。
辛いの私だけではないのである。私を連れて逃げるフラーゴラも辛いのである。そのことを理解した私は抵抗することをやめて逃げることを決めたのであった。
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