第14話 ゴブリンの村 パート5

 私はいずれ人間として人間の社会で生活できるように簡単な勉強、礼儀作法、

生活習慣など基本的なことをモルカナから学ぶ。そんなに難しい内容ではないので、私は楽しくモルカナとの勉強に取り組むことができた。



 「ダグネスちゃん、勉強はこれくらいにして魔法の練習でもしてみよう」

 「は~い」


 私の両親は共にゴブリンオーガのため魔法は使えないので、モルカナの家に来た時にこっそりと魔法を教えてもらっている。モルカナも元はゴブリンオーガなので魔法には詳しくないが、ゴブリンキングに進化することで魔力制御の才能が開花して、強力な魔法を使えるようになったのである。ゴブリンキングとはゴブリンオーガとゴブリングレイトウィザードの強化版と言えるのだろう。



 「今日はどれだけ魔力制御ができるようになったのか試してみようね」

 「は~い」



 魔力とは全身に流れている血液と同じように全身の細胞に流れている。血液は血管の中しか移動できないが魔力は違う。魔力は細胞を這うように全身を移動することができるので、自分の意思で自在にどこにでも集めることが可能なのである。

 血液は骨髄で作られるが魔力は違う。魔力とは空気のように目には見えないがどこにでも存在している。魔力量とは自然界に発生している魔力をどれだけ体に吸収できるかの量のことである。この事実を知る者は少なく、体の中から魔力が作られると考えるのが通説にはなっている。

 ここで魔力をどのようにして体に吸収させるかである。これは呼吸をして酸素を吸い込む時に魔力も一緒に吸収しているのである。口や鼻を通して体内に入った魔力は、その人物の細胞に魔力が浸透して体内を駆け巡るのである。許容範囲を超えた魔力は二酸化炭素を排出するように体内から出て行く仕組みになっている。

 魔力を使い過ぎて魔力切れを起こしたら、深く息を吸い深呼吸をすれば魔力の回復を早めることができる。


 ここで本題である魔力制御とは、全身の細胞内を自由に動き回っている魔力を一点に集めたり全身を覆うように均等のバランスに配置したりすることを指す。

 体内に入った魔力は脳から送られる信号を察知することができるので、頭のなかで魔力の動きをイメージしてコントロールするのが魔力制御である。

 脳から指示を送られた魔力は下僕のように自在に動いてくれるのだが、丁寧かつ理路整然な支持を送らなければ魔力は意味をもたないガラクタになる。魔法関連の『称号』を持たざる者が魔法を使えないのは、丁寧かつ理路整然に魔力に支持を送れないからである。逆に『称号』を授かりし者が魔法を使いこなせるのは、丁寧かつ理路整然な指示を『称号』が出してくれているからである。なので実際に魔力制御を行うのは『称号』であり、魔法の術者は発動する魔法をイメージするだけで良い。その際に発動する魔法の名前を叫べば(あえて叫ぶ必要もなく心で念じても良い)『称号』がそれを受け取り魔法を発動させることができる。


 次に魔法を発動するイメージについて説明をしよう。魔法を発動するには、魔力を一点に集める必要がある。集める場所はてのひらだと相場が決まっている。別に足の先やお腹などどこでも良いのだが、掌から魔法を発動させた方がカッコいいからである。

 魔力が掌に集まることをイメージすることで、『称号』が魔力に掌に集まるように指示を出してくれる。魔力は基本的に無色透明で肉眼で確認することはできないが、同時に発動する魔法をイメージすることで色が発生する。炎系の魔法なら赤に染まり、水系の魔法なら青に染まり、回復系なら白く染まる。集まった魔力を魔法に変換させるのも丁寧かつ理路整然な指示を送る必要があるのだが、それも『称号』が行ってくれるので、術者はイメージするだけで良い。この時に『称号』が『治癒師』ならいくら攻撃魔法をイメージしても発動することはない。自分の授かった『称号』の特性に沿った魔法しか発動することはできない。

 人間にとっての魔力制御とはイメージすることであり、後は『称号』が複雑な指示を魔力に与えてくれるのでさほど難しいことはないが、自分がどのような魔法を使えるかを探求することが、人間にとっての魔力制御なのかもしれない。


 一方亜人種であるゴブリンは、『称号』という神の恩恵とも呼ばれる便利な能力を授かっていないかわりに、高度な魔力操作を行うことができる繊細な技術を有している。コブリンのうちからグレイトウィザードを目指すには、魔力操作が一番大事なことである。魔力操作が1人前にできるようになることが、ホブゴブリンウィザードになるための条件である。


 ここで混沌の魔力が流れている私は通常の魔力と同じなのか違うのか説明が必要になるだろう。もちろん別物である。私の場合は体内の骨髄から血が作られるように、混沌の魔力も同じように骨髄から作られている。骨髄から作られた混沌の魔力は私の血管を通るのではなく細胞の中を自由意思によって移動をし、私の体にかってにバフを発生させている。しかも、骨髄から作られる混沌の魔力の濃度は年齢を重ねるにつれて濃くなり、魔法が次第に強力になる。普通の魔力は、魔力が一点に集中することで濃度が高まり威力が強くなるが、私の場合はもとの濃度が年齢を重ねるにつれて濃くなるので、一点に集めることにより普通の魔力とは規格外の大魔法を発動することができるのである。



 「う~ん。う~ん」



 私はモルカナと一緒に庭に出て魔力制御の練習をする。私は小さな声を発しながら魔力を掌から排除する。私の場合は普通に混沌の魔力を掌に集めてしまうと不気味な黒いもやが発生してしまい、モルカナの立派な家を崩壊させる恐れがあるので、混沌の魔力濃度を分離して掌から微量な混沌の魔力を残しつつ排除している。混沌の魔力を掌から排除するのは『レア称号』が支持を出してくれるので簡単だが、濃度を下げるのは、私自身が直接指示を出す必要があるので難しい。



 「がんばれダグネスちゃん!今日こそ魔法が発動できるようになろうね」



 モルカナは近所に声が聞こえないように小声で私を応援してくれている。

 ガロファーは私には武に長けた『称号』を授かっていると推測しているので、私に魔法を教えるのは意味はないと判断している。しかし、モルカナは知っている。人間でも魔法に長けた『称号』がなくても、丁寧かつ理路整然な指示を魔力に出す事で魔法が使える事を。だからモルカナは私に魔力制御の練習をさせているのである。しかし現実は、混沌の魔力濃度を弱める練習をすることになっていた。



 「う~ん。う~ん」



 私は3年の時を経て混沌の魔力濃度を1,000分の1まで抑えることに成功した。



 「お~すごいよ。ダグネスちゃん。ほのかに小さい赤いもやが見えるよ」



 混沌の魔力濃度を最大限にまで薄くすることで、混沌の魔力は黒から薄い灰色に変わり、さらに赤い色を着色することに成功した。



 「ダグネスちゃんは火炎球をイメージしているんだね」



 火炎球とはその名の通り丸い炎の球であり、モルカナが何度も見本で私に見せてくれた魔法である。



 「やっと魔力を制御できるようになったね。しかも、魔法のイメージまで同時にするなんて、ダグネスちゃんには魔法の才能があるのだよ」



 自分の力だけで魔力濃度を薄めることができたのは、まぎれもなく魔法の才能があるのだろう。しかし、魔力濃度を薄める技術など無意味なことでもあった。



 「やったぁぞぉ~」



 私は満面の笑みを浮かべて喜んだ。3年間頑張って魔力濃度を完全に抑えることができた実績は嬉しいものであった。

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